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夢 ー時空を超えて 2の7ー

ジェフリーのお葬式の朝は冴え冴えと晴れ渡っていた。

お葬式までの数日をどうやって過ごしたか?もう記憶が曖昧になっているが、なんでこんなに泣いても涙は枯れないのだろうと不思議に思った記憶があるので、泣いてばかりいたのかも知れない。

そう。その時は私にはまだ、魂にとって生も死も繋がっているとは思えず、死は一つの終わりであり、それに対する悲しみで覆われていたのだと思う。

葬祭場には友人数名と出かけた。
2人のルームメイト、ジェフリーが自殺した日に私が病院に付き添った友人とその彼と彼女の妹と。

友人の彼は、ジェフリーが日本酒が好きだったからと大吟醸の一升瓶を抱えて来てくれた。会場でそれを見たジョンが、ジェフリーが喜ぶよと言って、嬉しそうに微笑んだ。

会場にはEMSの職場の人たちが沢山いらしていた。その中には私が見知っている顔も数人いたが、場所柄目礼を交わすだけにした。

1人だけ、会った事はないけれど、いつもジェフリーの話しに出て来るブルネットでロングヘアのドロシーと化粧室で出会い、お互いに顔を見て「もしかして?」と声をかけ合った。

彼女は気さくで陽気なスパニッシュアメリカンで、歯に衣着せず物を言うので、ジェフリーにも何かと思った事を言ってくれていた女性だ。気性がサッパリしているので、言いたいことをストレートに話しそのあとに何もしこりが残らないから、彼女と話すのは楽しいとジェフリーはいつも言っていた。

固くハグしあい、ひとしきり涙ながらに話した後、"こんな可愛い彼女や理解者の私を残して死ぬなんて、あいつは本当にバカだ。今頃後悔してるわよ。私たちが死ぬまで、あちらでせいぜい後悔してろって言いましょう。あなたは彼をもっともっと後悔させる為に、今日が終わったら自分自身の幸せを見つけて、沢山幸せになるのよ" そう言って化粧室から出て行った。

正直、会場に着いてからとても居心地が悪かった。私の存在を知る職場の同僚は別として、大概の人たちにはこれらの東洋人たちは何者で、どうしてここにいるのか?疑問に思うのは当然の事だろう。あからさまに好奇の目を向ける人もいる中、ドロシーとの邂逅は私の神経を鎮めてくれた。

化粧室に残り、また涙で化粧がはげてしまったので、バッグからコンパクトを取り出した時、初老の女性が入ってきた。私を見るなり、あなたがトモコ?と尋ねてきた。はいと返事をすると、

探したのよ、、会いたかったわ。

そう言って、自分はジェフリーの親戚だと名のった。そして、いきなり私を抱きしめて、

…ジェフリーを見つけてくれて、ありがとう…

と囁いた。私は息を呑んだ。
その瞬間に私は理解した。

私は、彼を見つけるために彼と出会ったのだと。

理屈や理由など分からない。だがその時私には分かったのだ。私はジェフリーに呼ばれたのだ。彼の死体を見つける為に。その為に私はジェフリーと出会った…。

全てはその時の為に用意されていたのだ。
心の奥底から、訳の分からない感情がゆらゆらと込み上げてきて、胸が苦しくなる。

この数日間で流したのと同じくらいの涙が溢れ出た。

ジェフリー、確かに私はあなたを見つけたわ。
でも、、、どうして私だったの?私でなければいけなかったの?


…2人の魂がそう決めて来たのだ、、、と
今の私には分かる。

だがその時は、ただただその女性の言葉に心が震え、泣き止む事が出来ないでいた。

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