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金勘定の上手い作家さん

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本日のお題:金勘定の上手い作家さん
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■金勘定の上手い作家さん

今週のお題は「金勘定の上手い作家さん」です。先日X(旧twitter)である漫画家さんのツイート改めペケートにコメントして少しお話しさせていただく機会がありました。

漫画家さんという職業は当たると大きいけれどなかなか大変な職業のようで、基本週刊誌等の原稿料は安くてお金にならず、単行本の売り上げがあってようやくやっていけるというお話しでした。アシスタントを雇うとこれまた大変ですが、漫画家という職業は一種の職人ですから「こんな表現をしたいという衝動が抑えらずどうしてもアシスタントに手伝ってもらう必要が出てくる」いうことで、世の中を楽しませてくださっている裏側でその世界を表現するために大変な苦労があることを教えていただきました。

これね、漫画家さんのおっしゃることよーくわかります。私は職人ではなく、職人さんの作品を販売して生活させていただいている立場ではありますが、いろんな作家さんをみてその通りだと思うんですよ。

以前、ある作家さんの工房を見学させていただいたことがあります。その方は優れた作品を多く作っておられ、業界でも有名な方でして、当然ながらそれに伴ってその作品はそこそこ…いや、かなりの価格です。工房は京都や十日町など有名産地とは少し離れたところにあるため、ほぼ全ての加工をご自身の工房でしておられ、いろいろ苦労も多いというお話を聞きました。

その時は糸を染める作業を見せていただいたのですが、帝王紫の染料の粉が大きめのガラス瓶にいっぱい入っているのをグツグツ煮立った窯の中にドーンと入れたんですよ。帝王紫ってご存知でしょうか。貝から取る地中海発祥の染料でわずか1gの色素を得るために2000個もの貝が必要と言われるもので、めちゃくちゃ高価な染料とされています。

大きな瓶の中にあふれんばかりの帝王紫の染料が入ってることも驚きましたが、それを惜しげも無く釜の中にどどーんと放り込むのはもっと驚きました。作家さんはニコニコしながら「この帝王紫の染料でベンツ1台買えちゃうんですよ」とおっしゃるんですが私は釜の中に入れる瞬間、粉状になっている帝王紫の染料がぶわっと少し宙を舞ってるのをみて「この舞ってる粉だけで数千円ぐらいになるんちゃうん」と完全に凡人レベルのことを考えてたのを覚えています。

先ほど漫画家さんの「こんな表現をしたいという衝動を抑えられない」という言葉を書きましたが、恐らくそれは着物の作家さんにも通じるところがあって「ここでこういう技術を使えばもっと面白いものができる」と思ったら表現者として抑えられないんですね。絞りで有名な某メーカーさんが鹿の子絞りで「木綿糸で4回巻けるなら、細い絹糸なら12回ぐらい巻けるやろ」と総疋田絞り(注)を作ったという話を聞いたことがあります。そこに「これだけ手間をかけたら高くなって売れなくなる」なんてコスト意識なんて俗っぽい考えは一切なく、職人としての技術を試してみたい、挑戦したいという衝動のようなものを感じます。

注:総絞りの最高級品で木綿糸を4回巻くのに比べて巻く部分が多いので、全体的に白っぽい部分が多くなります。ちなみに私の感覚で言えば、総疋田絞りの着尺の価格は150万円なら安く買ってる、200万円なら相場といったところでしょうか。中国ものの四つ巻き絞りが5万円ぐらいから売ってるのを考えると全く質が違いますね。

あくまでも私の感覚ではありますが「ここで螺鈿(注)を使うとちょっと高くなるからやめとこう」「帝王紫じゃなくて化学染料でいいか」とか思って作品を作られると正直ちょっと気分が萎えるんですよね。私が帝王紫と化学染料の違いがわかるのか、と言われたらゴニョゴニョと返答に困りますが、そういうのが見えてしまうとなんだかがっかりするというかなんというか…。もちろん作家さんの方は私たちにそんな裏側の心境までおっしゃるようなことはありませんが…。

注:夜光貝やその他貝類を薄く切り取って貼り付ける加工

ただ、残念なことに自分の作品作りの妥協できない方は、一部の有名売れっ子作家さんを除いて経営的にギリギリの状態で捜索活動をされているようです。私の知っている中でも非常に優れた作品を作っている作家さんでそこそこよく売れていると思っていても倒産したと聞くことがなんどもありました。

ちょっと以前に「陸王」というドラマが放映されていたのを覚えておられますでしょうか。

老舗の足袋メーカーが着物離れから経営不振になって他の事業を模索したところ足袋制作の技術をマラソンシューズに流用して成功させるという池井戸潤氏原作のドラマです。もしまだご覧になっていないからU-NEXTやHuluで配信しているのでご覧ください。

役所広司さん演じるこの足袋メーカーの社長が職人さん上がりでものづくりに一切妥協しないんですよ。いいものを作って世に出していこうという職人で、どちらかと言うと金勘定は苦手。一方志賀廣太郎さん演じる番頭さんは経理全般を担っており、社長が資金繰りを考えずマラソンシューズ作りに金をつぎ込むのを止めたり、別の方法を提案したり、といったことをしておりました。

これ、現実の着物の業界でも全く同じでして、職人さん上がりが独立して工房を持ったら金勘定の上手い優秀な番頭さんがいないと潰れる、なんてことがよく言われます。

以前、そういった立場の方をお話しさせていただいたことがあるのですが

社長(独立した職人さん)はお金のことを考えずに衝動にかられると集中して作品をどんどん作るので大変。そういう時には「こうすればもっと良くなるんじゃないですか?」と少し凝った、時間のかかる表現を提案して少しペースダウンするようにうまく操縦するんだよ。めちゃくちゃいい糸とか染料とか使うからあんまり早いペースで作られるとお金が大変なんだよね笑。

とおっしゃってました笑。もちろんこれは作家さんとの関係がうまくいっており、番頭さんのセンスも認めた上で上手く取り入れようとする作家さんの姿勢がなければ難しいですが。

あくまでも私のような販売だけに携わる立場のファンタジーではありますが、作家さんは金勘定なしにあくまでも素晴らしい作品を世に出すためだけに思考の全てを使って欲しいと思うんですよ。作品作りをする上で「この染料高いなぁ」「この表現を使うと時間がかかってコストが厳しい」とか思わず、金勘定は番頭さんに任せて作家さんの能力のリソースの100%をいい作品を作り上げることに割いて欲しいと思うのです。

ほとんどの作家さんはそのようにいい作品を作ることだけに集中しておられるんですが、中には金勘定の上手い…というか金勘定だけの作家さんもいないことはないです。今までに1回だけ「この品物でこんな値段とるの?」と思う作家さんとお会いしたことがあります。

ある問屋主催の展示会(注)でお会いしたのですが、セルフプロデュースというか、自分を大きく見せるのは非常に美味かったのですが、肝心の作品は個性的で悪くはないんだけど価格が最低100万程度からで他の店からも「え?これ着物の加工に対してめちゃくちゃ高くね?」という声が小売店の控え室で多く聞かれました。問屋の担当者も「あんな作家さんあかんで」とクレームを受けており結局その作家さんコーナーは小売店側があまりお客様を連れて行かなかったため閑古鳥が鳴いていたような…。

あの作家さん、まだやってるのかな…。

注:問屋が展示会の商品を全て提供して、小売店にお客様を連れてきてもらう方式。問屋の取引先の多くの小売店が参加して小売店は会場で売れたものだけを仕入れます。

現代は大量生産大量消費で、職人さんの手作業というところからは最も遠い価値観が重宝される世の中ではありますが、着物の世界は多品種小ロット生産ですので、まだまだ職人さんに活躍していただかなくてはなりません。職人さんはいい作品を作り続けるために頑張っていただきたいのはもちろんではありますが、ぜひ金勘定の上手い番頭さんにも頑張っていただいて(笑)、なるべくいいものを消費者に渡りやすい価格で提供していただければ、と思っております。


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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022

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