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中絶は殺人行為(追加テキスト)

ハーベスト・メールマガジン 6月27日(月)「中絶をめぐる米最高裁の判決」

中川健一先生のメールマガジンより

今回は米連邦最高裁の中絶をめぐる判決について解説します。

中絶をめぐる米連邦最高裁の判決
(1)これまでの経緯を振り返ります(5/6のメルマガ参照)
現在の中絶論争に大きな影響を及ぼしているのが、『ロー対ウェイド判決』(1973年)です。この判決は、中絶の権利は憲法上保証されているとの主張を認めたものです。それから約50年が経過しましたが、その間、約6千万人の胎児が殺されたと言われています。今回最高裁が審議を行っていたのは、ミシシッピ州での「中絶制限をめぐる訴訟」(15週以降の中絶禁止の合憲性を争う裁判)です。
 判決は7月に出される予定でしたが、その前に意見草案がリークされ、大騒ぎになりました。米国の司法制度の信頼性を揺るがす前代未聞の大事件です。草案のリーク以降、最高裁判事たち(特に保守派の判事たち)は、さまざまな脅迫や嫌がらせを受けることになりました。しかし彼らは、自分たちの判断を変更することはありませんでした。

(2)6月24日(金)、米最高裁は『ロー対ウェイド判決』を覆す判断を下しました(保守派判事5人が支持、リベラル派3人が反対、ロバーツ長官は判断を容認するという立場)。
 この判決のポイントは、以下のようなものです。①合衆国憲法は、中絶の権利を保障しているわけではない。『ロー対ウェイド判決』(1973年)が拠り所とした修正第14条(法の下の平等を保証したもの)は、中絶権を保証するものではない。②『ロー対ウェイド判決』(1973年)は国を二分し、多くの否定的な結果をもたらした。③今や中絶に関する法的判断を、各州の州議会に戻すべき時が来た。
 今回の判決は、中絶を禁止したわけではありません。単に、中絶に関する法的判断は、「国民と国民に選ばれた代表に戻す」としているだけです。つまり、各州の州議会に委ねるということです。筆者は、プロライフ派ですので、この判決を歓迎しています。今後全米50州の26州(主に保守的州)で、中絶は禁止されたり、大幅に制限されたりすると見られています(米グートメーカー研究所)。もしそうなれば、数百万人以上の胎児たちのいのちが助かることになります。

(3)リベラル派(民主党支持層)は、この判決に強く反発しています。先導役は、バイデン大統領です。「最高裁は、米国民の憲法上の権利を奪った。これは、最高裁の極端なイデオロギーと悲惨な誤りの表れである」。さらにバイデン氏は、このテーマを11月の中間選挙の争点にするために、「中絶の権利が投票に委ねられた」と訴えています。中絶問題は、間違いなく国論を二分するテーマであり続けます。
 種々のメディアがこのニュースを取り上げていますが、この判決に対する論調によって、保守的メディアかリベラル系メディアかを判断することができます。前者はこの判決に好意的であり、後者は否定的です。

(4)人工妊娠中絶は、「死の文化」です。このことばは、1995年にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世(当時)が使ったことばで、その後、プロライフ派の人たちが用いるようになりました。
 「死の文化」が暗示しているのは、効率性を求める社会では、その社会の最も弱い層が攻撃を受けるということです。攻撃対象は、胎児→障害者→重病者→高齢者と広がっていきます(公開中の映画『PLAN75』はそのテーマを取り上げている)。実は、中絶論争は対岸の火事ではなく、「明日は我が身」というテーマなのです。『ブラックアウト』の著者キャンディス・オーウェンズ氏は、中絶を「ブラック・ジェノサイド」(黒人を絶滅させようとしているという意味)と呼んで批判しています。それ以外に、「アメリカン・ホロコースト」と呼ぶ人もいます(プロライフ活動家のウィル・グッドマン氏)。

(5)米国の占領軍が、日本に対して「死の文化」を押しつけたという歴史があったことを、ジェイソン・モーガン氏(麗澤大学准教授)が指摘しています(産経5/25)。
 ソ連兵らによって、満州などで性的暴行被害を受けた数百人の日本人女性が、中絶手術を受けたと言われています。さらに、占領軍の兵士による強姦が、1946年初めに1日300件以上あったという研究もあります。GHQ(連合国軍総司令部)は、戦後日本での中絶拡大を黙認する政策を取りました。
 その流れの中で、1948年(昭和23年)に優生保護法が生まれ、1996年(平成8年)まで存続しました。この法律は、「死の文化」を体現した悪法です。母体保護をうたっていますが、実態は、優生思想・優生政策上の見地から「不良」な子孫の出生を防止するものです。この法律は、1996年に改正され、現在は母体保護法として存続しています。これもまた、問題の多い法律です。

(6)日本が「中絶天国」と呼ばれるようになった背景には、以上のような歴史的流れがあります。米最高裁の判決が、私たち日本人の思考法に好影響を与えてくれることを心から願います。
 最後に、日本にも中絶の記憶で苦しんでいる人たちがおられると思います。イエス・キリストの十字架によって赦されない罪はないことを、ぜひ知っていただきたいです。


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