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打ち込みからオーケストラ編曲に入った人がやりがちなミス

これは打ち込みからオーケストラ編曲に入った人(=僕)がこれまでにオーケストレーターに怒られてきたポイントを列挙する反省文です。言われてみれば当然なんだけど言われないと気づけない不思議。

金管の出番が多すぎる

金管の出番が多いと怒られます。金管は吹くのがしんどい上に音量も極端に大きいので、fやffの音が曲の中に頻繁に出てくると違和感が凄いようです。

頻発する循環呼吸

木管というより金管だと思うんですが、景気良く「ブオー!」と吹かせたものをサステインループが発生するほど長く鳴らして、あまつさえそれでメロディなんて吹かせようものなら「はい、ダウト!」と言われます。前述の通り金管の強奏は極端に生音が大きいのでここぞという場面で一瞬使うだけで十分らしいです。

逆に弦の出番が多すぎる

管楽器のアレンジで怒られて萎縮して無難に使える弦に頼ってしまうなんてことはDTM派の打ち込み勢にはよくあることだと思います。ただ、どこまでいってもハーモニー、リズム、メロディの主体が弦というのはそれはそれでつまらないと咎められます。

ひたすらdivisi

「なんか物足りない」という理由で色んな楽器をdivisiさせてしまうと、打ち込みでは奏者の数が倍々に膨らんでいくので嘘っぽくなるようです。理由の説明出来ないdivisiはなるべく避けないとオーケストレーターの目が怖いです。

ローが足りない

モニター環境の問題もあるのかもですが、どうにもミッドにアレンジが集結してローが軽くなりがちです。EQや打楽器でローを充実させるのではなくオーケストレーションでしっかりローを鳴らしたいものです。ちなみにある程度響きの充実したスタジオで適切なマイキングで録らないと、サンプルでも生でもローは出ないです。

1音の中のダイナミクスが足りない

サンプリングはあくまでサンプリングなので1音の中で極端な強弱をつけたりはしませんが、実際に楽曲の演奏を行う場合一つの白玉がずっと同じ強さで演奏されるかはケースバイケースです。楽曲が盛り上がっているからといって音の鳴り始めから鳴り終わりまで強い音にする必要はありません。

CC1が127から帰ってこない

ポップス/ロックの迫力は爆音だったり音の壁によって生まれたりするのですが、オーケストラの迫力は全くの別物で抑揚こそが鍵になります。つまり、盛り下がりを演出出来なければオーケストラは盛り上がりません。小さい音でモニタリングしながらオーケストラを作っているとついついCC1を127…は言い過ぎにしても80や90まで上げたくなりますが、本当に強い音が求められている場面なのかを立ち止まって考えられる癖をつけないとアレンジの上達も阻害されるでしょう。再生システムの音量を大きくするのもオススメです。

休符が足りない

管楽器に限らず、演奏に切れ目が無いアレンジはとても嘘臭くなるようです。譜面的に繋がっていても実際に演奏する際は音を切る箇所というのが意識できているか否かは厳しいツッコミを受ける原因になります。

リズム揃いすぎ

数十人もの人間が、いかに指揮者の動きを見ているとはいえピッタリ揃った演奏をすることはありません。そしてオーケストラの美しさはその揺らぎの中に存在すると言ってもいいでしょう。全部が完全にグリッドに合ったオーケストラはとても気持ち悪いらしいです。仮に生で録ったオーケストラでも、テイクをエディットし過ぎるとオーケストラ感が薄れるので気を付けたいです。

平行移動の罠

オーケストラはまあまあ楽器の数が多いので、全体を把握しながら作り進めていかないとそこかしこに怪しげな平行移動が発生します。僕はロックの畑の人間なのでそこまで平行移動の音に対して禁則らしさを感じなかったりはするのですが、バンドもののノリで平行移動を潜ませるとすごく白い目で見られます。えっ、僕のお願いしてるオーケストレーター、怖過ぎ…?

メロディがずっと同じ楽器

「オーケストラで奏でるためのメロディ」になっていないことが原因なのですが、特に同じ管楽器が4小節も8小節も主メロを奏で続けると変な目で見られます。(協奏曲は別)

弾けないリズム/強過ぎるアタック

オーケストラの楽器はどれもタイトなリズムで演奏できる構造をしていないため、ギターやキーボードの感覚でオーケストラのリズムを書くと、リモート先の奏者の困惑の笑いがテイクが止まるごとに聞こえてきて罪悪感を抱くことに。これを避けるためにはオーケストラらしさを活かすアレンジをするか、バンド風のフレージングでも演奏出来る奏者をアサインする必要があります。特に金管楽器に細かい動きを要求するのはギルティです。

サンプリングされている=出せる音域という勘違い

フレージング以前に演奏に適した音域を守れていないとかなり冷たい目で見られます。「いや、出せはするけど使わないよ?」と目で言われます。

a2?a3?a4?

何人で演奏されたかによって当然音は変わりますが、打ち込みだとマシンリソースの問題やそもそものライブラリの仕様の制約によって欲しい人数のパッチが使えなかったりするので、どうしても実際にオーケストラ録音した時の音と食い違うことがあります。その辺りを踏まえて出来る限り生録音の音との乖離が起きないようなテンプレ作りと打ち込みが出来るようになりたいものです。というかそうしないとナチュラルにつっこまれます。

フェーダーでバランスを作る

オーケストラの生音の音量感を正しく身につけていないと、実際には聴こえないはずの楽器をフェーダーを上げて解決しようとし始めます。そして「変ですよ笑」と言われます。言われました。つらい。オーボエ、クラリネットあたりをフェーダーで目立たせ始めた自分に気がついたら要注意です。

ついつい入れてしまうピアノとシンセ

オーケストラだけで成立させようとした時に物足りなさを感じてついピアノやシンセを足したくなりますが、本来はオーケストラで成立するように作れることが望ましいです。ピアノやシンセで誤魔化したのか、元々入れる想定で隙間を空けてオーケストレーションしたのかは、分かる人が聴くと分かってしまいます。

打楽器がずっと強い

打楽器もまた金管と同様に楽曲全体を覆い尽くす音量を持っているためfやffを曲の中で頻繁に使うことは実用的ではありません。

また打楽器は弱く叩けば極めて小さな音が出るので、そのダイナミックレンジを活かさないのは勿体無いでしょう。

速すぎるテンポ

打ち込みの世界ではテンポをほぼ無制限に上げることが出来ますが、実際のオーケストラではBPMが140くらいになるとかなり雲行きが怪しくなってきて180や200になるともう大変なことになります。

テンポの速い曲ほど縦が揃っていないと格好がつかないものですが、縦を揃えるには縦が揃うアレンジになっている必要があり、ただ速いだけのアレンジは実際には録音することが難しいため聴いていて違和感があります。

乗り越えた先にあるもの

打ち込みからオケ編曲に入るということは、そもそもサンプリングに対する理解度が高かったり技術があったりするということなので、譜面の世界からオーケストラ編曲に入った人たちよりテクノロジーに強い傾向があります。

打ち込みで何が出来るか、どこまでのことが出来るかを知っていることは宅録時代のオーケストラ制作を語る上でとても大事な土台になるので、オーケストラを学んでいないことをコンプレックスにすることなく寧ろ真正面からオーケストレーションに向き合うのが大事だなあと感じます。



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