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東大学士入学試験 受験本番

 会社を辞めて東大農学部に学士入学した。上記の二つの記事を読んでもらってからの方がわかりやすいと思うが、面倒であれば読まなくても大丈夫。 
 7月は実習で静岡の浜名湖に2週間滞在していたので、時間が空いてしまった。こんなにダラダラと書くつもりはなかったんです。今回で学士入学試験については最後になると思う。多分。

 試験当日、受験会場である304号室に辿り着いた俺は、とりあえず一番前に座ってネクタイを締め直した。試験開始5分前にウインドブレーカーを来た初老の男性が部屋に入ってきた。男性は俺を見て「学士入学の方ですか」と尋ねた。俺は「はい。よろしくお願いいたします」と頭を下げた。男性は「まあ、試験といってもそんなに固くならなくてもいいですから……小論文と面接ですね。少し早いですが問題と解答用紙です」と言って俺の前に紙を三枚置いた。小論文の課題が書かれただけのA4の紙が一枚。罫線だけが引いてあるA3の紙が二枚。「時間は一時間です。字数制限は特にありません。一枚目が終わったら二枚目にいってください」

 具体的にどんな課題が出たのかについては明言を避けたい。インターネットに一切情報がなかったので先人に習おうと思う。ただ、やはり大きい視点からの問題(個別具体的な知識を問う問題ではない)であり、時代にかみ合った課題観を持ち、論点が頭に入っていれば、まあ何かは書けるだろうという感じであった。もし本当に水圏生物科学への学士入学を考えていて、どんな問題が出たのか知りたいという人がいたら、何らかの形で連絡をください。

 さて、大まかな書く内容は5分くらいで考えついたので、流れを整理してから書き始めようと思ったが、そこで気付いた。A3用紙2枚を完全に埋めようと思ったらまあ4800字くらい。1枚半として3500字くらいか。制限時間は60分なので、1分あたり約60字、1秒で1字である。試験中にこれを計算したわけではないが、A3の紙を目の前にして直感した。
 これは、端的に言って時間との闘いである。考えながら書き、書きながら考える。俺はとにかくシャーペンを走らせた。どのくらい急いでいたかというと、「乖離」の漢字が分からなかったので平仮名で書いたくらいだ。普通は同義語を探すところだが。
 なんとか結論まで書き終えたところで残り時間2分、見直す暇もなく小論文の試験は終了した。手ごたえは正直あった。本をたくさん読んでおいてよかったというところだ。

 試験官の男性に解答用紙と問題用紙を手渡すと、もう一人細身の男性が入ってきた。どうやらこの二人が面接官になるようだ。会話を聞く限り、両方教授らしい。質問内容は、会社でどんな仕事をしていたのか、文学部ではどんな勉強をしていたのか、なぜ学士入学したいのか、なぜ水圏なのか(陸上の生物ではないのか)等に始まり、博士までいくつもりなのか、一人暮らしなのか、実家は東京にあるのか等の生活状況に加えて、コミュニケーション能力に自信はあるか、といったことも聞かれた。
 最後の質問は、年齢が離れた生徒の中に混ざることになるが、できれば同期として仲良くしてほしい。(不本意ではあるが)試験に関する情報も同期間で流れるものなので成績も左右されかねない、という理由であった。尚、「コミュニケーション能力には自信があります」と答えた。

 こうして面接が終わり、一週間後の合格発表を待つのみとなった。
 合格/不合格通知はこの日までに郵送で行います、と書かれた日になっても通知は来なかった。翌日に電話すると、「うっかりしていて本日投函したので、届くのは明日になると思う」とのことであった。うっかりしていたなら仕方がないが、合格していた場合、引継ぎや有休消化を考えると一日でも早く会社に言いたいのでメールか何かで教えてくれないか、と聞いてみると、メールで合格通知書のPDFが送られてきた。なんでも言ってみるものだ。

 その日に直属の上司を会議室に呼び出して三月末に退職する旨伝えると、上司は「マジかあ」と机に突っ伏してしまった。最近若手の転職が相次いでいたのだ。「でも転職じゃなくて大学にいくんです」と言うと上司はパッと顔を上げて「何それ」と面白そうに言った。聞くと上司は大学で考古学を専攻していて、かなり熱を入れて研究していたが、結局将来性を考えて就職することにしたらしい。「たしかに研究職は向いていると思う。会社としては辞めてほしくないけど、個人としては応援したい。これから上にも伝えるけど、皆そう言ってくれると思うよ」と言ってくれた。実際、上長らも応援してくれた。本当にありがたい話だ。そこから一カ月間、怒涛の引継ぎをして、送別会も開いてもらって、退職した。

 以上、長くなってしまったが、会社を辞めて東大農学部に入学した話は以上である。ここまで読んでいただきありがとうございました。人生は一度しかないので、これからもなるべく納得できるような生き方を探していきたいと思います。

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