屁を、下手を、いい年をこく

 「こく」という単語を知っているか。

 いや、「コク」ではない。
 それは料理の味を評価するときに使われる、ほぼ「味の濃さ」と同じ意味なのではないか、と思ってしまうような専門用語(Technical Term)である。

 そうではなく、今回俺が言っているのは動詞の「こく」だ。この動詞についてちゃんと考えたことがある人はいるか。これは面白い動詞ではないか。

 さて、何をこくだろう。まず思いつくのは、屁である。屁をこく。

それから、下手(へた)。下手をこく。嘘をこく。失礼をこく。調子をこく。良い年をこく。パッと思いうかぶのはこのくらいだろうか。

 屁、下手、嘘、失礼。なんというか、哀愁漂う面々である。ネガティヴな単語が並んでいる。(屁がネガティヴかと言われると、まあ確かに議論の余地があるが、少なくともポジティブではないだろう)しかもそのジャンルは多岐に渡っている。

 しかもそのネガティヴさは独特である。なんとなく小馬鹿にしたような響きをもつ目的語ばかりだ。戦争をこく、失恋をこく、など重大な単語は選ばれない。

 また、意図せず、仕方なく、主体のコントロール外の要因で発生した事象はその候補から外される。失敗をこく、事故をこく、とは言わない。

 つまり、主体に一定以上の責任があり、重大な影響を及ぼさない、蔑まれるような事象を目的語とする動詞が「こく」である。

 では具体的に「こく」とはどのような動きを表しているのか。動詞である以上何らかの動き、少なくとも状態は表しているはずだ。

 屁をこく、と言った時の「こく」は、「肛門から吹き出す」という意味を持つ。

 しかし、「下手をこく」「失礼をこく」と言った場合の「こく」はもはや簡単で「する(Do)」くらいの意味である。

 「調子をこく」は「乗る」、「良い年をこく」は、難しいが、「(良い年)になっているのに、思慮が足りない態度を取る」くらいの意味か。
 
 統一された動きがない。

 であれば、「こく」は動作そのものではなく、目的語に「蔑むべき」という意味を加える、いわば形容詞のような働きをする動詞なのではないか。「こく」ということはこの目的語は蔑むべきことなのだ、と。

 「屁をする」「失礼をする」というのと、「屁をこく」「失礼をこく」というのでは全く印象が違う。あーあ、やってんな、という小馬鹿にする意味が加わる。

 そういう意味では面白い動詞なのではないか、と俺は言っているのだ。

 以上、駄文をこきました。

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