ファミレスデスゲーム【禍話リライト】

少し前の……20世紀の話である。

その日、Jさんは深夜に田舎のファミレスに行った。
出張帰りに車を飛ばしている時に、どうしてもお腹が減って、そのファミレスに車を入れたのだそうだ。
駐車場には、3時まで営業という垂れ幕がかけられていて、ずいぶん中途半端な営業時間だな、と苦笑したのをよく覚えているのだという。

時刻は、ちょうど日付の変わるころだった。
店内に入ると、そこまで広くはないため客席全体が見渡せる。
客は少なく、ホームレスみたいな、みるからに不潔な格好をした初老の男性と、派手な髪型をした、明らかに仕事をしていなさそうな雰囲気の中年男の2人しかいなかった。
彼ら2人は、少し離れた別々のテーブルに座っていたが、何か独特の緊張感のようなものを発しているような気がして、Jさんは少し嫌な気持ちになったそうだ。

しばらく入り口で店員が来るのを待っていたJさんだったが、何故か店員が姿を見せない。

あれ?
まあいいや……

近くの席に座って、呼び出しベルをおす。
すると。

厨房からウエイトレスが出てきた。
そして、その後ろにぴったりくっつくように、普段着姿の若い女の子が出てきたのだという。

バイト上がりの人だろうか。
それにしては、2人の距離はどうにも近すぎるような気がするけど……

そんなことを思っているうちに、2人はJさんの席にまでやってきた。
普通は水でも持ってくるだろうに、手ぶらであることに違和感を覚えてはいたのだが。

あろうことか、2人はそのまま、Jさんの向いに座ったのだ。

え、2人とも座ったよ?!

戸惑っていると、普段着姿の若い女が喋り始めた。
見た目はおとなしい感じの女性かと思われたが、口調と声は思いの外ヤンキーのようで、そのギャップにも面食らったという。

「いやー、よかったよかった。2人しかいなかったから、多数決にもならなくて」

え。
何言ってんの?

すると今度は厨房から、普段着姿の筋肉質な若い男が出てきて、入り口のドアにかけられていた案内板を「Closed」に裏返し、手早くブラインドをおろし始めた。

「え、なんですか?!」

ウエイトレスに向かってそう言った時に、気づいた。

ウエイトレスは、異常に緊張している。
目には涙が溜まっていて、顔面蒼白になって小刻みに震えている。
Jさんの問いかけにも、声が出ないようだ。

「ちょっと、どうしたんで」

その瞬間、Jさんは太ももに何か当たる感触を覚えて、思わず言葉を途中で飲み込んだ。
下をのぞいてみると、尖った刃物のようなものが太ももに当てられている。
もう1人の、普段着の女がやっているようだ。

「え、何?!」

思わず声に出た。
すると、その普段着の女が。

「どっちがクズか選手けーん」

と、ローテンションなまま言い出した。

どっきりか何か?!

周囲を見回すと、どうやら他の客2人も、座りながらガタガタ震えているようだ。
よくみると彼らは足を縛られていて、自由が効かない状態になっている。

女が唐突に口を開く。

「こんな時間にファミレスにいるのはクズばっかりだよね」

え、という表情で女を見ると、女はニヤリと笑って宥めるような口調で続ける。

「ま、あんたは仕事でもしてたんだろうって、格好でわかるよ。かっこいいね、OLさん」

自分のことを言っているわけではなさそうだ、と少し安堵したような奇妙な気分になる。
女はそんなJさんの様子などお構いなしに、吐き捨てるようにこう言った。

「でも、どっちかは真のクズだ」

思わず他の客2人を見る。
ホームレス風の初老の男と、引きこもりっぽい中年男性。

「どうせ常連だろうから、ウエイトレスに聞いたんだけど」

女は続ける。
男は少し離れたところから、じっとこちらを見つめている。
その様子からは、特に感情のようなものは読み取れない。

「どうも要領を得ないっていうかさ。だからあんたの意見も聞こうと思って」

そう言うと女はウエイトレスの方に向き直る。

「で、話の途中だったけど、あっちはどうなの?仕事してなさそうな方」

中年男性のほうか。
ウエイトレスは、震える声で搾り出す。

「……親の金で生きているとか、聞きました」
「ふーん、あっちは?」

目でホームレス風の初老の男性の方を見る。

「あの人は……塩を盗んだりしたことがあります」
「じゃああんたはこっちなのね?泥棒した方」

ウエイトレスは真っ青な顔でこくこく頷く。

「ええー、困ったなぁ」

大仰にそう言って、女はJさんの方に向き直る。

「厨房の人にも聞いたんだけど、割れたんだよね、票が。あんたはどう思う?」

どうしよう!!?

今であれば、迷惑系Youtuberのドッキリ企画かな……くらいに思うのかもしれないが、当時は事情が違う。
何が何だかさっぱりわからないが、自分が何かに巻き込まれたんだ、それも、悪夢のような何かに……ということだけがわかった。

これは最悪、答えを言っても私を刺すな……

女の目を見て、Jさんはそう確信する。
その戸惑いを察したのか、女の目は急に色を失い、投げやりな口調でこう言った。

「めんどくさいから、ぜーんぶやっちゃおうかな〜」

すると、男が初めて口を開いた。

「いやいや、それじゃあ企画の意味がないでしょ」
「あ、そうか」

自分は何に巻き込まれているんだ?!

そう思った、その瞬間。
働いていなさそうな中年男の方が、

「俺はこんな目に遭うべき人間じゃない!!」

と突然叫んだのだ。

Jさんはビクッとした。
彼女は急にキレる人間が苦手で、怒鳴り声を聞いただけで心拍数が上がってしまう。
それを察したようで女が嬉しそうに、「どっち?どっち?」」と答えを迫ってくる。

「あっちです!!」

Jさんは、中年男を指差して、叫んだ。

そして。

Jさんは男から5万円を渡されて、ファミレスから帰されたのだそうだ。


だから、そのあと彼らがどうなったか、Jさんにはわからない。
ファミレスについて言えば、その後しばらく休んだあと、改装オープンしたのだという。
事件としては何も報じられていないが、ひょっとすると行方不明者について調べれば何か分かったのかもしれない。
だが、無論、そんなことをするつもりは毛頭なかったそうだ。

改装された後のファミレスに、Jさんは昼間に一度、立ち寄ったことがあるのだが、あのウエイトレスはいなかったという。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第10夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第10夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/615317781
(23:19頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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