(怪談手帖)権現様【禍話リライト】

Aさんの故郷には「権現様」と通称される神社がある。
その神社は、山の上の石段を登った先にあり、ほとんど手入れもされず荒れ果てていた。
だが、大人の手が入っていないために、逆にその神社は子供の格好の遊び場になっていた。
大人たちには行くなと言われているが、子供たちは境内に集まって鬼ごっこやかくれんぼをしていたのだ。

その日も、Aさんたちは集まってかくれんぼをしていた。
ただ、その日はなぜかかくれんぼにハマってしまって、今までにないほど帰りの時間が遅れていたのだという。
Aさんがちょうど鬼だったとき、はたとその事実に気づいた。

「おいおい、怒られるぞ!夕方だぞ!」
「あ、ほんとだ。夕方だ」

皆が隠れ場所から出てくる。
しかしそこに、一番仲の良かったBの顔が見えない。
「ここにいたよ」と他の友人が示す場所に行ってみるが、そこにBはいない。
そんなに広い場所じゃないので、「おーい」「おーい」と他の子供たちと探し回ったが、Bは出てこない。
子供の力には限界があり、日も段々と暮れてくる。

「帰ったんじゃない?」

いつしかそういう話になり、Aさんたちは帰宅の途についた。

しかし、Bは帰っていなかった。
その夜のうちに集落は大騒ぎになり、捜索隊が出ることになった。

Aさんは夜、一人「権現様」のところに向かったそうだ。

まだここで隠れているんじゃないか。

そんな思いがあったのだ。
完全に明かりのない、漆黒の闇に覆われた境内を走り回る。

「Bちゃん」「Bちゃん」

呼びかけ続けながら、本殿の前に来た時に、朽ちかけた本殿の戸の隙間から、Bの顔がちらりと見えた。
慌てて扉に飛びつき、開けようとするが鍵がかかっていて開かない。
取って返して大人たちを呼び、扉を開けるがそこにBの姿はない。

ただ。
チリと埃が分厚く積もった中に、点々と小さな真新しい足跡がついていた。

どうやらBはここにいたんだ、という話になった。
しかし、どう入ってどう出たのか、皆目見当がつかない。
B自身も見つからないまま時が過ぎた。

三日、一週間、一ヶ月。

見つからないまま、Bは行方不明となり、やがて葬式も出た。

その神隠し事件以降、子供たちは皆、「権現様」で遊ばなくなった。

しかし、それからもAさんは一人でたびたび権現様に行っていたのだそうだ。
責任を感じていたからだ。
そして、その都度、Bの姿を見かけたのだという。

物陰に、森の中に、本殿の陰に。

Bはそのたびに、じーっとAさんを見つめていた。

最初は、Bがいたと思い大人を呼んだりもしたのだが、やはりBが発見されることはなかった。
やがてAさん自身も「権現様」に行かなくなったのだそうだ。

今、Aさんは都会に住んでいる。
帰省しても「権現様」に行くことはない。

なぜ、行かないのか。

もし、現れるBが恨みがましい目でAさんを見ているのなら、まだいい、とAさんは語る。

しかし、実際のところBは、Aさんをただ見ているだけなのだ。
それに気づいた時に、Aさんはゾクッとした。

「あいつは、人間とは別のものになってしまったんだ」

そう思ったのだそうだ。


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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「真・禍話 第二夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

真・禍話 第二夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/364661028
(1:23:05頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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