(怪談手帖)祖父の家【禍話リライト】

Bさんの祖父の家は、実家から徒歩5分のところにあった。
だから小さいころなどは、休みの日のたびに祖父の家に遊びに行っていたのだが、ひとつだけ不思議なことがあった。

日曜日の、薄曇りの天気の日に限って、祖父の家の玄関の引き戸のすりガラスに、後頭部をピッタリつけている長髪の女の後ろ姿が見えるのだ。

あ、お客さんだ。

そう思ってしばらく時間をつぶして戻ってくると、その姿はなくなっている。
ただ、その後に祖父の家を訪れても客などはおらず、誰かが来ていたような形跡なども見られなかったので、Bさんは不思議に思っていた。

あるとき、その後ろ姿の女のことを祖父に尋ねると、祖父は嫌そうに顔をゆがめて、吐き捨てるように言った。

「それにはあまり関わらん方がええ。可哀想なもんじゃ」

「もん」という表現が、Bさんの幼心に気にかかった。

もの?
人じゃないの?

そんなふうには思ったが、薄曇りの日曜日に限られた話ではあるし、一回見てしばらくすると女の姿は消え去ってしまうので、Bさんは特に気にはしていなかった。
ある時点までは。

「だけど怖いことがあって、それ以降日曜日はお母さんとかお兄ちゃんとかと、必ず何人かで行くようにしたんですよ。そうしたら、女が出ないから」
「何があったんです?女に襲われでもしたんですか?」

私の問いに、Bさんは首を横に振る。

ある時、薄曇りの日曜日に祖父の家に行った。
いつもと同じように、玄関に女がいた。
いつもと同じように、女の後ろ姿しか見えていない。
なのに。

こいつ、笑ってる…!

Bさんは何故か、それがわかったのだそうだ。

「それで怖くなって、それ以降は一人で日曜日に祖父の家に行かないようにしたんです」

今はもう、その家はない。
事情を知っていそうな人は皆、鬼籍に入ってしまった。
だから、もうその女について知る人は誰もいないのだそうだ。


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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話スペシャル①」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話スペシャル①
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/388928995
(35:18頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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