(怪談手帖)遺影【禍話リライト】

Kくんが、大学3年生の時の話だ。
サークルの後輩に、遊び人がいた。
遊びと言っても、基本的には女遊びの激しい奴で、大学の授業にはほとんど出席せず、バイトと遊びに精を出していた。

ところがその後輩が、最近遊びを控えているのだという。
1ヶ月くらい、サークルにも顔を出していない。
これは、何かしでかして反省しているか、あるいは本気で恋愛をしているかどちらかだろうと思い、Kくんたちは飲み会にその後輩を呼び出した。

「どうしたんだ?最近」
「嫌なことがありまして…」

少し話したくなさそうな雰囲気だったため、Kくんたちは酒を飲ませて聞き出したのだそうだ。


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前にあった学内のイベントで、同じ学部の女の子と仲良くなったんですよ。
で、ちょっとかわいい子だったんで話を盛り上げてたら、成り行きで家に誘われて。
まあ、俺も男なんで、あわよくば…って期待もあって、行ってみたんです。

その女の子は一人暮らしだったんですけど、部屋入ったときに気になったことがあって。
写真立てが伏せられていたんです。
俺、そういうの目ざといんで。
彼氏でもいるのかなって思って、ひょいって表にしたんですよ。
そしたら、お母さんの遺影でね。

『私が大学入ってすぐに、ね』とか言ってたんですが、暗い感じではなかったんで、ちょっとホッとしましたよ。
ニコニコ笑っている、良い遺影でね。
だけどあまり似ていないなぁ、この親子、とか思ってたんです。

で、その日はやることはやって、その後もダラダラと関係は続いてたんですよ。

ところがある時から、携帯電話に変なことが起き始めたんです。
よくつるんでいる友人と自分ちで携帯電話で話してたら、『お前、今日母ちゃん来てるのか』なんて聞いてくるんで、『来てないよ、一人だよ』って答えたら、『いやいや、なんかお前の後ろから人の声が聞こえるぞ』って。
まあその時は、混線してるのかな、って思ったくらいで、スルーしてたんすけど。

そのうち、『今お前外?店とか入った?』とか言われることもあって。
『いや今俺一人だよ』って言っても、『初めは笑っているような声だったけど、そのうち歌っているような声がお前の後ろから聞こえ始めたぞ』とか言われて、なんか気持ちわりぃなって思って。
そんなことを携帯電話にかけてきた全員が言うんすよ。
さすがに心配になって、ちょっとガチに相談しても、心霊スポットにでも行ってんじゃないの、とか茶化されてね。
行ってないっすよ、もちろん。


そんで、自分でも気になったんで、家の固定電話から携帯電話にかけてみたんですよ。
まあ、軽い気持ちで、実験って感じで。
そしたら、確かに離れたところから声が聞こえる。
で、受話器から耳を離して確認したんですが、そんな声は聞こえないんすよ。
むしろ外からは塵紙交換の声が聞こえてて。
あれって思って受話器にまた耳をつけると、遠くからの声は聞こえるんですけど、塵紙交換の声は聞こえないんです。
え、なんでって、何度か試してみたんですけど、同じで。
やっぱ混線してるんじゃないかなって、その時は思ったんですけど。

で、ある時。
仲間内でこの話をしてたら、そうしたら今試してみようって話になって。
みんなそんなに怖がっていなかったんですよ、人数多いしね。

そしたら、わかっちゃったんです。

これ、歌ってるんじゃなくて、甲高く細くなった声が長く尾を引いているんだって。
これ、叫んでるんだって。
それがわかった途端、マジでこれ不思議なんですけど…

彼女のお母さんの遺影が、頭に思い浮かんだんですよ。

俺、真っ青になっちゃって。
固まってたら、そのうち叫んでいる内容が分かり始めたんですよ。

あ、わかるわかる。
わかるけど…
わかっちゃダメなんじゃないの?

そう思って、電話を切りました。
そうしたら、周りが『お前どうした?顔真っ青だぞ』って言ってくるんで、『いやいや…』って答えられずにいたら。

トゥルルルルルって。

彼女からの着信だったんです。
さすがに出られなかった。

その数日後に、約束があって彼女の家に行かなきゃいけなかったんですけど。
さすがに怖かったんで、共通の友人と一緒に行ったんです。
で、世間話してたら、急に彼女が伏せてある遺影の方をふっと見て微妙な表情したんです。
『どうしたの』って聞いたら。

『今お母さんが笑ってるような気がする』

って。
変でしょ?
だって、最初から笑ってるから。
遺影は。
反応できなくて、微妙な空気になっちゃいました。
帰りに、一緒に行った友達も、あれを言ってる時の彼女の顔やばかったぞって言ってて。
とにかく雰囲気がやばかったです。

結局、その彼女とはそれっきり別れたんです。

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それを聞いたKくんたちは、酒が入ってたこともあって、茶化すようにこんなことを言ったそうだ。

「あー、そりゃあれだ。お前みたいな女取っ替え引っ替えのやつだから、お母さんからしたらジゴロから娘を救ってやった!みたいなやつだ」

すると後輩は、少し沈んだ様子で、「そうかもしれませんね」と言う。

「変なテンションだな。どうしたんだよ?」
「その子、死んだんです」

後輩によると、変死だったらしい。
自分の部屋の中で、一人でお母さんの遺影の前で死んでいたのだそうだ。
死因は分からない。

「ええ…それで、葬式には行ったの?」
「行きましたよ。お焼香もしました。でもどうしてもそいつの遺影を見られませんでした」
「…なんで?」
「わからないんですけど…」

気づけば、後輩の肩が震えている。

「その遺影だけ、お母さんとそっくりな顔なんじゃないかって、なぜか思っちゃって…俺、顔が見られなかったんですよ」


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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「真・禍話/激闘編 第6夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

真・禍話/激闘編 第6夜
http://twitcasting.tv/magabanasi/movie/390746840
(40:55頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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