とある高校の話 2題【禍話リライト】

1 屋上無人会議

とある学校の話だ。
よくある話ではあるが、その学校は、屋上に行けないようになっている。
危険だから、というのがその理由で、実際屋上には柵のようなものも存在していなかった。
だからCくんも、屋上に行ったことはなかったのだが。

ある時、詳しい理由はすっかり忘れてしまったが、部活の顧問の先生と、部員たち数人とでCくんは初めて屋上に行く機会があった。
特別教室がたくさん入っている、第二校舎の屋上だった。
そこには、事前情報によれば、貯水タンクしかないはずだったのだが、鍵のかかった屋上のドアを開けたCくんたちの目に飛び込んで来たのは意外な光景だった。

「え?」
「ああ?!」
「どうしたんですか?」

屋上には、パイプ椅子が6脚並べられていた。
それらはすぐに座れるような状態で、3脚が縦に2列、向かい合わせに置かれている。
まるで、誰かが会議でも行っていたかのようだ。

「この屋上、久しぶりに開けたはずなんですよね?」
「……そのはずだ」

Cくんに問われた先生は、そう言って頷く。

「だけど……これ」

パイプ椅子は、雨風にさらされたような感じではない。
まるで、今、そこに置かれたかのような綺麗さだった。

「どうします?これ」
「どうしますも、片付けるしかないだろう」
「どこに片付ければいいですかね?」
「うーん、まあ、体育館にしかないよな……パイプ椅子なんて」

結局Cくんたちは、第二校舎から体育館まで、パイプ椅子を運ぶことになったそうだ。

しかし。
いざ体育館まで運んでみると、パイプ椅子の数が合わない。
体育館のパイプ椅子は引き出しの中にみっしり入っていて、他にパイプ椅子を入れるスペースなどどこにもない。

「これ、どこから持ってきたんだろう?」
「わからんなぁ……とりあえず倉庫の奥にしまっておいてくれ」

そうして、6脚の謎のパイプ椅子は体育館倉庫にいったん置かれることになったのだった。

それが原因だったのか。

数日後、第二校舎でブラスバンド部がベランダで練習しているときに、ちょっとしたトラブルが持ち上がった。

「屋上から、こちらを覗いてくる奴がいる」

そんな訴えが相次いで寄せられたのだ。

むろん、屋上は施錠されている。
念のために先生方が見に行ったが、誰もいない。
外から入ることもできない。
それだけでなく、覗き込んでいる何ものかは、屋上の縁ギリギリに立って、ブラスバンド部の生徒たちを覗き込んでくるというのだ。

当然、大騒ぎになった。
結局、見回りを強化し、警備システムを変えるなどかなりの改革を行って、ようやく騒動は沈静化した。

「ほんと、大変でしたよ」

Cくんはそう言う。
だが、見回りを強化したことが解決に繋がったのかどうか、実際のところは疑わしい、とCくんは思っている。

というのも。
その騒動が解決するのとほぼ同時期に、パイプ椅子はなくなったからだ。
だからCくんは、屋上で覗き込んでいた何ものかはそのパイプ椅子と関係があったのではないか、と思っているそうだ。

2 エアプレハブ

これもCくんの話。
高校時代のこと。
夜、Cくんが母親とコンビニに行くときに、高校の横の道を歩いていると、一階部分に一か所、灯りがついていることに気づいた。

あれ?誰か残ってんのかな?

灯りは煌々とついてる。
時刻は夜の10時近い時間帯で、普段ならば先生方もとっくに帰宅しているような時間だ。
門もすべて閉まっていて、誰も残っていそうな雰囲気はない。

Cくんは首をひねりつつ、コンビニへ向かうために灯りのともっているあたりに近づいて行った。

ん?

ある程度その光源に近づいたところで、Cくんは気づいた。
校舎に張り付くように、プレハブ小屋が建てられている。
光はそこから漏れていたのだ。

だが、Cくんとしては今まで見たことのないプレハブ小屋だった。
自宅から高校に行く時には必ず目にしているであろう場所なので、違和感をおぼえる。
それだけでなく、小屋の中から漏れてくる光は、めちゃくちゃに明るかったのだ。
これだけ明るいと、中にいるやつは眩しいんじゃないか……そう思うくらいだった。

「今日、高校、工事するとかあったっけ?」

母親に聞いてみると、母親もそんなことは聞いていないという。
実際思い返してみても、日中工事をしていそうな様子は全くなかったのだ。

それに、近づけば近づくほど、漏れている光量が凄まじいことがはっきりと認識できる。
窓から見える屋内は、何があるのかもわからないほど真っ白で、見ているだけで目が痛くなりそうだ。

「誰か中にいるのかな?」

母親に尋ねる。

「さあねえ。でも、人が動けば影になりそうだけど、影もないからね」
「どうなってんだ?」
「気持ち悪いねえ」

そんなことを言いながら、低い塀越しにプレハブ小屋の脇を通り、コンビニに向かった。
そしてコンビニで買い物を済ませ、また同じ道を戻ったところで、二人は我が目を疑った。

プレハブ自体がなくなっていたのだ。

「え?」
「ドッキリ?」

母親も驚いてそんな言葉を漏らす。

「いやいや、俺ら芸能人じゃないから、ないでしょ。そんなお金のかかる冗談」
「……ほんと、気持ち悪い」

二人はなるべくそちらに目を向けないようにして帰宅したそうだ。
翌日も念のため登校時にCくんが確認したのだが、その場所には背の低い植物が植えられていて、とうていプレハブ小屋が建っていたような様子はなかった。

それだけで終われば、ただ不思議なだけの話しだったのだが。

その年の冬。
近所に住む人が夜に学校に忍び込んで、Cくん親子がプレハブを見た、まさにその場所で、ペットのハムスターを刃物で切り裂いて殺したうえで、自分も同じ刃物を使って命を絶つ……という事件があった。
学校とは縁もゆかりもない人で、近所に住んでいたとはいえ、わざわざ忍び込んでまでそこで死ぬ理由はない。
警察関係者も、大いに首をひねっていたそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第17夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第17夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/627783024
(34:23頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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