追われる夢【禍話リライト】
Mくんは、友人と二人、とある廃墟に行った。
と言っても、別にふざけてそんなところに行ったわけではない。
ドライブをしている時に、友人が急にトイレに行きたいと言い出した。
「じゃあ適当なところで停めるわ」
Mくんがそう言ったのは、山道を通っている時のことだった。
ただ、山道は車通りがそこそこある。
「ここで道端はきついな」
「ちょっと奥まったところに行こうよ」
そんな話をしていたのだという。
すると、道の脇に、ぽっかりと開いた草っ原が見えた。
奥の方はやぶになっていて、目隠しになりそうだ。
「じゃあここに停めるから、奥に入ってしてこいよ」
友人はいそいそと奥に行き、用を足して戻ってくる。
そして、「おい、奥に廃墟あるぞ」と言ってきた。
「そうか、だからここ不自然にぽっかり空いてるんだな。誰か草刈ってんのかな」
そんなことを言いながら奥に行ってみると、なるほど、森の中に木造の廃墟が見える。
かなり朽ちてボロボロになっているが、民家という雰囲気ではなく、何かの施設であるように見えた。
二人が外から眺めていると。
「なんかあそこ、『療養』とか書いてない?」
友人が看板のようなものを指差す。
朽ちた看板は、文字も掠れてよく読めないが、確かに「療養」という文字が書いてあるように見える。
「やべえ、これ結核の患者とかを昔隔離してたとこじゃないの?!」
「そうかもなあ。気持ち悪いなぁ」
そう言って、そのまま帰った。
それだけだ。
二人とも、もちろん中には入っていない。
外から見て、看板を見て、気持ち悪いな、と言って帰ってきただけだ。
ところが。
その晩、二人は同じ夢を見た。
夢の中で彼らは木造の建物の中にいた。
夢の中では二人とも、そこが小学校だと思っている。
そして、自分も小学生だと認識している。
すると、向こうのほうから、「大変だ大変だ」と低学年くらいの男の子の声が聞こえてきた。
何だ、と思っていると、爆発事故があったのだと誰かが言う。
薬品がひっくり返って、爆発したのだと。
彼らは現場を見てみようと、人ごみの中に向かう。
と、その人混みが急に二手に分かれた。
まるで、モーゼの『十戒』のようだった。
その真ん中を、入院着を着た、両目が爛れた大人の男が歩いてくる。
目が見えていないようだ。
しかし、その割に足取りはしっかりしている。
子供たちは怖がって、その男性を避ける。
彼らも怖くなって逃げるのだが、なぜか、その男性は自分の方に向かって来る。
確かな足取りで、真っ直ぐに。
彼らが必死で逃げていると、周りにだんだん人がいなくなってきて、最終的には木造の建物の中で、そいつと一対一のような状況になってしまう。
必死に逃げる彼らは、教室だと思った部屋に飛び込む。
と、そこには。
ベッドが四つ、規則的に並べられていた。
あ、ここ病室だ。
そう思った。
男も続いてその部屋に入ってくる。
そして彼らは、その部屋の中で、目の見えないそいつと追いかけっこをする羽目になった。
音を立てるとそっちに来るので、ものを投げたりして音を立てながら、誰か来てくれないかなと思いつつ逃げ惑う。
やがて、気づいたらドアが壁になっていて、部屋からは出られなくなってしまった。
頑張って逃げ惑っていたが、部屋から出られないので、どうしようと彼らは考える。
窓から出ようにも、3階くらいの高さがある。
半ばパニックに陥りつつも、10分か15分くらい逃げ回ったところで、彼らはその男性にとうとう捕まった。
そして、胸ぐらを掴まれてグイ、と持ち上げられた瞬間に。
自分も同じ入院着を着ていることに気づいたのだという。
ああ、そうだ。
自分も具合が悪いから、入院してたんだ……
急にそう納得してしまったそうだ。
二人の夢は、そこで同時に終わった。
目覚めた後、Mくんと友人は、即座にお互い連絡を取り合った。
そこで、自分たちが同じ夢を見ていることがわかったという。
その日のうちに、二人はまたその廃墟に行き、その前に花束を供えて線香を炊いた。
それからは、妙な夢は見なかったそうだ。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第7夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第7夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/609481099
(12:20頃〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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