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透明親子【禍話リライト】

Yくんの通う大学の話だ。



ある年の暮れに、ちょっとした都市伝説めいた奇妙な話が大学の中で語られ始めるようになった。

その大学の目の前には、ターミナル駅に向かうバス停がある。


そのバス停のベンチに、夜、親子連れが座っている。


それだけであれば、別に珍しいことではない。

しかし、その親子連れ、必ずどちらか一方が、「衣類のみ」なのだそうだ。

つまり、母親が子どもの服やズボン、帽子、靴などをまるで誰かがそれを着ているかのようにベンチに順番に並べてその横に座っているか、あるいは子どもが母親の洋服一式と靴などを順番に並べてその横に座っているか、どちらかだと言うのだ。

その二人が親子であることは、格好を見ればわかる。

不在のときに並べられている衣類と着ている衣類が同じだからだ。


目撃者は多く、〇〇ゼミの何々ちゃんが見た、とか、××部のほにゃららが見た、とか、学内では話の種になっていたのだという。



だが。

Yくん自身はその親子連れを見たことがなかった。

というのも、Yくんは大学を挟んでバス停とは反対方向にある寮に住んでいたため、バス停を使うことがそもそもなかったからだ。

それは他の寮生も同様で、その寮の中で親子連れを目撃した者はいなかったのだという。



暮れも押し迫ったある日のこと。

帰省のための荷造りを終えたYくんが、最寄駅から出る高速バスに乗るための時間を潰そうと、食堂に行ってみると、同じような考えで集まっていた数人の寮生がそこで駄弁っていた。

どうやら例の親子連れの噂話をしていたらしく、その正体が人間なのか何なのかについて、議論していたという。


「みんなが見てるし、お化けってことはないんじゃない?きっと、ちょっと頭のおかしい親子なんだよ」

「いやいや、出るの結構遅い時間らしいよ。それが母親だけじゃなく息子もって言うんだからおかしいよ。そんな遅い時間に子供だけで外出させるか?」

云々。

Yくんも参加して議論は白熱したが、所詮は実際に目撃したことすらない者同士の机上の空論に終わらざるを得なかった。

結局それぞれの帰省の時間が近づき、「お化けだろうと人間だろうと、いずれにしろヤバいやつ」という、話した意味もないような空疎な結論に落ち着いたところで、その場は解散となった。

だが、いざ寮を出てみると、あれだけ盛り上がって話をしていたくせに、結局皆怖くなったらしい。

なんだかんだ理由をつけて、バスを使わないで最寄駅まで行く、と言い出して、ほとんどの学生がバス停とは全然違う方向に向かっていったのだそうだ。

Yくんともう一人の友人だけが、その親子連れに大した恐怖を感じておらず、「みんな臆病だな」と言いながらバス停に向かった。

大学前から駅へと向かう終バスの時間である。

学校の近辺に住む学生たちも大肩帰省してしまっていて、大学周辺には歩いている人もほとんどいなかった。

バス停についても人っ子一人いない。

くだんの親子連れの姿もなかった。


「いないねえ」

「やっぱり噂は所詮噂なんだな」


そんなことを言いながらバス停に近づくと、友人があっと声を上げる。


「どした?」

「あれ見てみ」


指差す方向に目をやると、道の少し先を親子連れが歩いていた。

どうやらバス停のベンチから立って帰宅しているようで、二人の後ろ姿が見える。

その様子はいかにも普通の親子連れのように見える。


「あれが、その親子連れか?」

「聞いてた格好と同じだからそうなんじゃないか」

「でも両方実体あるぜ」

「だな」


そんなことを言い合っていた。

そのときだ。


急に、親子連れの男の子の方が、急にその場で中身だけがなくなってしまったように、シュルシュル、と衣服が下に落ちた。

母親は、空っぽになった衣服の袖の部分だけを掴んでいる。

ふへ?

思わず間抜けな声が漏れた、その刹那。

「やり直しやり直し!!」

母親がそう叫ぶや否や、バス停に向かって猛然と走ってきたのだ。

Yくんと友人は悲鳴をあげて逃げ出した。

そしてそのまま寮まで這々の体で逃げ帰ったという。


結局、その年の帰省は、一日遅れになった。

翌日は早めに最寄駅に出て、そこで時間を潰したという。

親子連れの正体が何なのか、Yくんにはわからないままだ。

年明け以降は、目撃者もいなくなったという。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「震!禍話 第六夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

震!禍話 第六夜
http://twitcasting.tv/magabanasi/movie/443774689
(1:09:10頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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