床と階段【禍話リライト】

Tは、いわゆる廃墟好きである。
彼は、法律にはむろん抵触しているのだが、勝手に廃墟に入り込んで写真を撮ることを趣味にしているのだという。

「ところでさ、廃墟巡りしてるときに、あれはなんだったんだろってこと、なかった?」

そう聞いてみると、Tは半笑いで、「お前、信じねえと思うけどさ」と前置きして、こんな話をしてくれた。


九州のどこかに、山道を走っていって、雑木林の向こうに見える廃墟があるのだという。
そこに、Tたち三人の廃墟好きは、肝試し感覚で夜に行ったのだそうだ。
到着してすぐ、2階に登ろうと思っていたそうなのだが、階段がボロボロになっていて、極めて危険な状態だった。

「こりゃ流石に体重軽いやつでもダメだろうなぁ」

そう言いながら上を照らすと、階段よりもさらにボロボロな天井が見えた。
あちこちが抜けていて、部分的には夜空まで見えている。

「これはダメだよ」
「危ない危ない」
「やめよう」

全員の意見が一致し、Tたちは一階を探索することになった。
しかし、あまりにもボロボロになっているためか、残置物などもほぼ消失していて面白くなかったのだそうだ。
流石にここまで荒れ果てていると、生活感も残っていない。
周囲に廃屋もないため、今からプランを変更して別のところへ…というわけにもいかない。

ここで時間を潰すしかないか…しょうがねえな。
それにしても何もないな。

Tがそんなことを思っている間にも、残りの二人は「何かないか」と血眼になって廃屋の探索を続けている。

「住人の写真とか、ねえのかなぁ」
「雰囲気も盛り上がるし、欲しいところだよね」

そんなことを言いながらあちこちを探し回っていた。

やれやれ、ご苦労さんだな。

探索を続ける二人を尻目に、もうその廃屋を「見切った」Tは、外に出て適当な場所に腰を下ろして、携帯灰皿を出して一服し始めた。

しばらくすると。

妙な音が廃屋の方から聞こえ始めた。

安いアパートで騒いでいると、上の階の住人に「うるさいぞ!」という意味で、床をドンドン鳴らされることがあるだろう。
その、床ドンのような音がするのだ。

え?
何これ??
まじで?

手に持っていた懐中電灯で2階を照らしたけれども、当然誰もいない。
音はしているけれども、2階が揺れたり、埃が舞ったりしているようなこともない。

にもかかわらず。

怒っているような、ドンドンという音は続いているのだ。

「おい!ちょっと来てくれ!!」

慌てて二人を呼ぶと、どうしたどうしたと言いながらおっとり刀で二人が出てくる。

「なあ、変な音してねえか?」

すると、二人はきょとんとした顔をして。

「え、なんのこと?」
「俺ら、音立てちゃった?」

ん?
こいつら聞こえてないのか?

しかし。

家からは相変わらず床ドンの音が聞こえ続けている。

おかしいな…

そうは思ったものの、変な空気にするのも嫌だったので、結局二人には何も言わなかった。

ま、これ以上実害はないしな。

再びタバコを吸っていると、そのうち、床ドンの音は止んだ。

と、そのときだ。

急に中にいた二人が、ものすごい勢いで屋内から逃げ出して来た。

「気持ち悪!!」
「行こう行こう!!」

Tは襟首を二人に引っ掴まれ、引きずられるようにして車に戻ったのだそうだ。

車に戻ると二人は、口々に、

「シャレになんねえ!」

と叫んで車を発進させた。

「なあ、何があったの?」

山道を猛スピードで下って、ようやく市街地に入ったところでTは二人に尋ねた。

二人によれば、ボロボロになった階段を体重のある存在が駆け降りてくる音がしたのだそうだ。
そんなことがあるはずがないことは、二人ともよくわかっている。

「だから飛び出てきたんだよ」
「お前、聞こえてねえのか?」
「…それは聞こえてないな」

その後立ち寄ったラーメン屋で、お互いの話を総合した結果、もうあそこに行くのはやめよう、ということになった。

あそこは、有名な心霊スポットかなんかなのか?

疑問に思ったTが、後々別の廃墟仲間に聞いたところ、次のような話を聞いたのだそうだ。

その家の最後の住人は、その家で孤独死をしていた。
人里離れていただけでなく、親族とも縁が切れていたため、発見が遅れたのだという。
最後の住人は、ぶくぶくに腐乱した状態で発見されたのだそうだ。

「…それじゃねえのかな、その『体重のある存在』って」

Tはそう言って話を締め括った。


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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍ちゃんねる ピーターの帰還回」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話緊急放送スペシャル
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/556132326
(21:04頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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