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おそなえ自転車【禍話リライト】

とある大学のサークルでの話だという。

ある先輩が、「今度うちで怖い話大会するぞ」と言い出した。

「それもな、なんか怖いもの持ってきて、それにまつわる怖い話をするんだ」

なんでもその先輩の家の仏壇に飾ってあるおばあちゃんの写真が、年々怖くなっているから、それを持ってくるというのだ。

「お前らもなんか怖い物もってこい」

えー、そんなこと言われても何持ってくればいいんだろう。
みんなが戸惑っていると、サークルの中でもおとなしい女の子がこう言った。

「うちの人形、一回動いたことがあって、それ持ってきます」

何それ、動く人形とか超怖いじゃん。
周りの皆も盛り上がった。
それで、みんな頑張って色々持ち寄ろうじゃないか、という話にまとまったのだそうだ。


困ったのはIくんである。
Iくんは、大学入学と同時にこの町に越してきた。
実家は遠く、一人暮らしの家の中には特にこれと言って怖いものなどない。
家中ひっくり返して探したが、どうしても見つからない。
仕方なく、最悪、ドンキホーテあたりで何かジョークグッズを買ってお茶を濁すしかないかな…と思っていたのだという。

当日。
自転車で先輩のアパートに向かう途中。
事故現場に通りかかった。
最近大きな事故があったようで、花やら菓子やらがたくさん供えられている。
その瞬間、頭の中に閃くものがあった。

これを持ってっちゃおう。

供えられた花やお菓子の写真を撮る。
ポッキーが好きな子だったのか、ポッキーがたくさんあるのが印象的だった。
これだけたくさんあったら、食べきれないだろうし、もらってもいいよね。
そんなふうに自分の行動を正当化した後、軽く手を合わせ、ポッキーを一つ拝借して、自転車にまたがった。

先輩のアパートにもうすぐ着く、という時だった。
携帯電話が鳴った。
先輩からだ。
電話に出る。

「おい、I今どこだ」
「もうすぐ先輩のアパートっす」
「お前ウチわかるよな?みんなもう集合してんから、お前は直接ウチにきてくれよ」
「そのつもりっす」
「期待してるぞ」

電話を切って、先輩の家に急ぐ。
先輩のアパートが見えると、二階の外廊下にサークルのみんながいるのが見えた。
おーい、と声をかけると皆が振り返って手を振ってくる。
サークル仲間は続々と先輩の家に入っていった。

Iくんは下に自転車を止め、タンタンタンと外廊下を上がる。
すると、廊下で先輩が一人で待っていてくれた。

「先輩待っててくれたんすか」

そういうと先輩は微妙な表情をして、こう言った。

「お前さ、身内の集まりに知らない人連れてくるなら言えよ」
「え?なんのことです?」
「お前の自転車の後ろに、タイヤんとこに足かけて女の子が立って乗ってただろ」

何を言ってるんだ?
そんな女の子はいないし、第一…

「先輩、ちょっときてもらっていいっすか」

先輩と共に、自転車のところに向かう。

「見てください。後ろのタイヤのところ、足場ないっすよ」
「いやいやいや、絶対乗ってて、お前の肩に手を乗せて立ってたよ。みんなで女連れてきたのかよって言ってたんだ」

え、まさか…
背筋がサーっと冷たくなった。
その瞬間、先輩が言った。

「で、なんでお前、ポッキー持ってんの」

Iくんは、実は…と事情を話した。
写真も撮ったんですよ、と言って見せながら。
すると、先輩はいやそうな顔をして、「お前、今日いいよ」と言った。

Iくんとしても、願ったり叶ったりだった。
一刻も早く事故現場に戻って謝りたい。
いつまでもその女を乗せて走り回りたくない、という気持ちだった。
急いで事故現場まで戻っている途中、ふとこんな考えが浮かんだ。

このポッキーを返しただけでは、怒りは鎮まらないかも…

間違いなくその女は怒っている、という確信があったのだ。
Iくんは、途中、コンビニに寄った。
お菓子売り場のコーナーを見るが、ポッキーの種類がそんなに多くない。
仕方なく、プリッツを買って、供えたのだそうだ。

それ以降、特に何かあったわけではないのだが。
Iくんはずっと、プリッツでもよかっただろうか、ということが気にかかっているのだという。


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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍ちゃんねる 新作物真似もあるよ回」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍ちゃんねる 新作物真似もあるよ回
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/522051236
(35:14頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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