回収を待つ【禍話リライト】
知り合いのRさんから聞いた話だ。
数年前に、高速バスを待っていた時のこと。
夜に出発する高速バスを途中のバス停で待っていたのだが、その日は雨が降っていて、平日でもあったため、バス停にいるのは自分くらいだった。
通常のバスはすべて終わってしまっている。
そんな状況で、寂しいなぁ、バス来ないなぁと思っていたら、ふと、20メートルほど離れたところにある郵便ポストの前に、女が佇んでいるのが見えた。
そこは、停留所ではない。
マンションの植え込みがあるだけで、入り口というわけでもない。
何があるという場所ではないのだが、そこにじっと佇んでいる。
何してるんだろうな?
そう思いつつ、携帯をちらりとみると、「バス遅延のお知らせ」という通知が来ている。
何だよ、遅れてんのかい。
そう思いながらまたポストの方に目をやると、まだその女は立っている。
いつからいたんだろうなぁ、などと考えながら、ぼーっとみるともなしに女を見ていると。
女が視線を感じたのか、こちらに顔を向けた。
気まずいので、視線を外すのと、ほぼ同時だった。
女が、こちらに向かって大声で、
「これ、回収来ますかね?」
と聞いてきた。
明らかにRさんに向けた問いかけだった。
何言ってるんだ??
ポストの回収時間のことか??
戸惑っていると、女は繰り返し聞いてくる。
「回収来ますかね?」
「回収来ますかね?」
声からすると若い女のようだが、どうにも気持ち悪い。
女の方には行きたくないので、Rさんも大声で答える。
「そこに回収時間が書いてありますから!!でも多分、今の時間は来ないですよ!!」
すると女は、「ありがとうございます」と言ってぺこりと頭を下げた。
声こそ距離があるために大きいが、比較的普通のトーンだった。
Rさんとしては、それがなんだかチグハグで、背筋がゾッとしたのだという。
女はそのままどこかに行ってしまった。
そしてそのタイミングで高速バスが来たので、Rさんは乗車したのだそうだ。
二週間後。
飲み会で話していた時のこと。
急に知り合いがこんなことを言い出した。
「そういえばさあ、この間郵便局員に殴りかかった奴がいたらしいな」
聞いてみると、どうやら先日Rさんが待っていたバス停の近くにあるポストで起こった事件のようだった。
郵便局員が、そのポストから手紙を回収しようとしたところ、若い女がハンマーで顔面を狙って襲いかかってきたらしい。
局員は咄嗟に手を翳して避けたので、大怪我をしないで済んだそうだ。
「でね、その女、周りの人に取り押さえられたらしいんだけどさ」
「何でそんなことしたのよ」
「さあなあ……だけど話によると、切手も何も貼っていない、訳のわからない手紙が投函されることがよくあったみたいでな。郵便局でも持て余していたらしい。知り合いの郵便局員は、それと関係があるんじゃないかって言ってたけどな」
Rさんはあの夜のことを思い出して、もしかしてそのとき返事を間違えていたら、自分も殴られていたかも……と思い、再びゾッとしたそうだ。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第8夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第8夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/611452728
(9:42頃〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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