個室検証【禍話リライト】

Sくんは、久々に大学時代の友人たちと痛飲し、泥酔した状態で町を歩いていた。
大学時代の親友の家で、これから残ったメンバーで飲み直そう!と気炎を上げていたのである。
しかし、当人の思っていた以上に酔いが回っていたようで、Sくんは歩きながら猛烈な吐き気を催していた。

と、そこにちょうどタイミングよく、公園のトイレの明かりが見える。

「ちょっとトイレ行くわ」

友人たちにそう断って、トイレへと向かう。
深夜3時過ぎだったこともあり、トイレ内には人の姿はない。
Sくんは二つ並んだ個室のうち、手前側の個室に入り、盛大に嘔吐した。
そしてそのまま便器に座り込み用を足す。
と、その時だ。

隣の個室から、ヒソヒソ声がし始めた。

誰かが入ってきた気配はない。
あるいはもしかするとずっと隣の個室にいたのかもしれないが、そうであるとすれば急に話し始めるのはおかしいとSくんは思った。

というのも、なんとなく話が「途中から」始まったように思えたからだ。

それだけではない。
隣の個室には、どうやら2、3人の人間がいるようだ。
1人ならまだしも、複数人がトイレにいたのであれば、いくら泥酔しているとはいえ気づくだろう。

え、絶対隣空いてたし、誰もいなかったけどな……

そう思いつつ聞き耳を立てる。
どうやら中年男性が、3人くらいでヒソヒソと堅苦しく敬語を使って会話をしているようだ。
雰囲気から、友人同士ではなく、同僚同士のような印象をSくんは受けた。

え、え?

Sくんが戸惑っているうちに、だんだん声が大きくなってきて、隣の個室の会話の内容がわかった。

「死後2日は経っていますね」
「判断の根拠は?」
「法医解剖を行わなければ正確な所見は出せませんが、死斑の状態と角膜混濁の状況から……」

まるで変死体が出てきて警察の人たちが話しているような内容の会話を、隣の個室で行っているのだ。
気づけば、メモをとっているような、紙に鉛筆を走らせるような音も聞こえてくる。

うええええ!!

Sくんは個室を飛び出し、すぐに隣の個室を見る。
しかしそこには誰もいない。
慌てて外に出て、その場にいる友人たちに聞いてみた。

「ちょっと!!誰か、くだらない冗談した?!」
「何が?」
「何がって、隣の個室で」
「ちょい待ち」
「え?」
「お前、タバコ臭いな」
「え?!」

Sくんはタバコを吸わないにもかかわらず、全身がタバコ臭くなっていることに気づいた。
その後事情を話し、全員でトイレに行き、個室にも入ったのだが、どこもタバコ臭くない。

「お前、吸わないよね?」
「吸わないよ」

結局その臭いは、その日の昼頃までSくんにまとわりついていたそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第18夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第18夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/629180678
(38:28〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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