枕もう一つ【禍話リライト】
あらかじめ断っておくが、この話は途中までしか聞いていない。
というのも、どんなに促しても、体験者のSさんはその先を話してくれなかったからだ。
しかし、途中まででも奇妙な話ではあるので紹介しよう。
Sさんは一人暮らしの男性なのだが、ベッドは使わず布団を敷いて寝ている。
彼は眠りに繊細なところがあって、枕が二つないと寝られないのだそうだ。
そして、いつも明け方の4時5時頃に一度目が覚めて、トイレに向かうのが習慣になっていた。
ところがその日は、3時に目が覚めたのだという。
トイレに向かい、用を足している時のことだ。
ふと、風が通った気がした。
それも、足元から頭の方に抜けていくような風の流れだった。
え、と驚き周囲を確認したが、窓も開いていないし、ドアも閉まっている。
ひょっとして風邪かなんか引いたのかな。
首を捻りながら布団まで戻ると、枕が一つなくなっていた。
いやいやいや、起きた段階ではあったよ?!
なかったら気づくはず……
しかしそこには、どう見ても自分の頭の真下にいつも置いている枕がない。
周りを見回しても、ない。
あれ?おかしいな……
トイレに行く直前まであったのに。
そうこうしていると、なぜか部屋が妙に寒いことに気づいた。
風を感じる。
風の入ってくる方向に目をやると、ベランダに通じるガラス戸が少し開いているのが見えた。
いやいや、絶対閉まってたよ?!
近づいてみると、網戸も全開に開かれている。
おかしいなぁ……両方とも閉めてたよなぁ。
なんで?
そう思いながらベランダを見ると、物干しに自分の枕が一つ干してある。
枕は、見覚えのないピンク色の古ぼけた大きな洗濯バサミ二つで、物干しに留められていた。
ええ?!
どう考えても枕は人為的に干されている。
自分が寝ぼけて干した可能性はあるにしても、この洗濯バサミには見覚えがない。
何?これ……
そう思いながら洗濯バサミに触った瞬間、脆くなっていたのかプラスチック部分がバキッと音を立てて割れてしまった。
驚きつつもう一つの方に手をやると、そちらは壊れることなく外すことができた。
「え、何これ??誰の??」
思わず声が出た。
すると。
「私の」
振り向くと、トイレの前に見知らぬ女が立っている。
女は再び口を開いた。
「それ、あたしの」
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「……それが始まりでしてねえ」
「え?!……で?」
私は続きを促したが、Sさんはそこから先に何が起こったか、一切話してくれなかった。
話してはくれなかったが、事実として一つだけ確かなことは、Sさんはその後、引っ越したということだ。
私はこの話を、友人と一緒に聞いていた。
帰り道、友人がポツリとこんな言葉を漏らしたのを覚えている。
「Sさんの話さ……出だしがそれだったら、後で起こったことは、相当きつかったんじゃないかな……」
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第1夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第1夜
https://ssl.twitcasting.tv/magabanasi/movie/599438369
(39:26頃〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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