(怪談手帖)桜並木【禍話リライト】

Yさんの住んでいるマンションの裏手の道には、桜並木がある。

その桜並木は、相当昔からある大層立派なものなのだが、枝が延び放題になっていて、陽の光が遮られてしまうため、マンションの裏手はいつも薄暗い状態になっていた。
なぜ枝を払わないのか、と両親に尋ねたこともあるのだが、「詳しくは知らないが、手をつけるとやばいと言われていて、誰も触らない」と言われるだけで、結局理由はよくわからなかった。

そんなこともあって、桜並木は常に薄暗く、人通りが少なかったのだった。


ある時のこと。
桜並木の横を流れる河川に工事の計画が持ち上がり、桜並木の通りも舗装工事が行われることになった。
もとより迷信めいた噂話を信じていたわけではないのだが、実際に桜並木に手をつけたらどうなるのかな、と思っていたという。


一週間ほど経ってから、Yさんはおかしいと思い始めたのだそうだ。

工事の進展が、異様に遅いのだ。

元々の計画では、河川工事をやりやすいようにするための補助的な道路整備が行われることになっていた。
当初の予定では、二週間程度で済むはずが、一週間経過時点でもまだ工事が全然進んでいない。
工事の人は毎日来ているようなのだが、道路の舗装は少ししかされておらず、桜の木の剪定もされていない。

工事中は立ち入り禁止のため中の様子はよくわからなかったので、Yさんは対岸に回って桜並木の工事の様子を眺めてみたのだという。

行ってみると現場には大勢の作業員が入っていて、ガチャガチャ音を立てながら動き回っている。
ざっとみたところ、20人くらいはいたそうだ。
全員が同じカーキ色の作業服とヘルメットを装着している。

なんだ、工事、ちゃんとやってるんだ。

そう思いながら、見るともなしに工事の様子を見ていると、急にそのうちの10人くらいが、一本の桜の木に登り始めた。
全員が同じカーキ色をしているため、「遠くから見ると虫みたいだな」と思ったことを、Yさんはよく覚えている。


それからさらに数日して、工事が中止になった。
桜並木の舗装だけではなく、河川工事そのものが中止になったそうだ。
両親から聞いた話によると、担当していた工事会社と急に連絡が取れなくなり、代わりの業者も見つからなかったため、中止になったのだという。
その話を聞いて、両親に数日前に川向うから工事現場の様子を見た時のことを話してみた。
しかし両親は、「工事の人がそんなことするわけがないだろう」と笑うだけだった。


しばらく経った後、工事に関係していた役場関係の人と話す機会があったため、工事が中止になった経緯を聞いてみた。
実際には舗装工事には数人の作業員しか割り振られておらず、しかもその作業員たちは、2、3日後にはみんな来なくなってしまったのだそうだ。

では。

あの時Yさんが見た、20人くらいの作業員は、一体誰だったのだろうか。



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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「真・禍話/激闘編 霊障?①」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

真・禍話/激闘編 霊障?①
http://twitcasting.tv/magabanasi/movie/382077104
(10:31頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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