血のこっくりさん【禍話リライト】

こっくりさんの話を専門的に収集しているKくんは、ある日知人の紹介で、こっくりさんについての体験談を持っている、という女性と、知人を含め三人で会うことになった。
知人もその女性とは直接面識があるわけではなく、ネットを介しての知り合いなのだという。
どうやって繋がったのかを聞いても答えをはぐらかすので、おおかた出会い系か何かなのだろう、とKくんは推察した。

指定された喫茶店に現れたのは、二十代後半の痩せ型の女性だった。
挨拶をすませ、注文された飲み物が届いたところで、彼女に尋ねる。

「こっくりさんに関する、不思議な体験をお持ちだと伺ったのですが」
「あのー、私、昔こっくりさんしてて……」
「え?でも、世代じゃないですよね?」

彼女曰く、女の子向けの雑誌で、彼女が小学生のころ、スピリチュアルな特集が組まれていて、そこにこっくりさんのことが書いてあったのだという。

「で、簡単にシートも作れちゃうし、やってみたんです、友達と。でも全然来なくて」

10円玉が動かなかったわけではない。
ただ、聞いたことと答えが噛み合っていなかったのだ。
“はい“や“いいえ“で答えられるようなものでも、50音表の方に動くまではいいのだが、答えが日本語になっていないのである。
友達とも、「これは来てないね」「ただの筋肉の不随意運動?」などと言い合って、少々諦めムードになりつつあったのだが、「でも悔しいから、なんとか意味のわかるように動かしたいよね」という話になった。

「それで私、なんかヒントないかなって思って、お兄ちゃんの部屋の雑誌を調べてみたんです。うちのお兄ちゃん、くだらないサブカル雑誌が好きでそういうのいっぱい持ってたから」

その雑誌の中に、こんな記述を見つけたのだそうだ。

「血でやるといい、って。そう書いてあったんです」

正確に言えば、10円に血をつけておくと良い、と書いてあったそうだ。

「ちょっと古めの雑誌にそういう情報が載っていたんで、これだって思って。でも、血はなあ、指切るのもねぇって話をしてたんですけど」

こっくりさんのメンバーのうちの1人が、保健委員をやっていたので、その子が保健室に行って、養護の先生の目を盗んで、血のついたガーゼを拾ってきて、10円玉になすりつけて、コックリさんをやってみたのだという。

効果は覿面だったと、彼女は言う。

文章になったと言うのだ。
それまでは何を聞いても意味不明な答えを返してきたのに、ちゃんと意味の通る文章になったのだ。

「これいいねって。それから、自分たちの血を使ってこっくりさんをやるようになったんです」
「自分たちの血を」
「ええ。カッターや針で指先をついて、ちょっと。それからどんどんすごくなっていったんですよね」

彼女の話では、最初は単語程度だったものが、次第に長い文章になっていった、というのだ。

「文章ですか」
「そうです。未だにやってるんですけどね」

その言葉に、Kくんと紹介者が同時に声を出してしまう。

「未だにやってるんですか」
「こっくりさんを?!」

先ほども述べたように、彼女は20代後半くらいに見えた。
その彼女が、衒いも恥じらいもなく、「こっくりさんをいまだにやっているんです」と平然と言い放ったのだ。

Kくんは、おや、と思った。

彼女のあまりにも平静な様子に、アンバランスさを感じ取ったのだ。

「すいません、ちょっとトイレに……」

おそらくはまだ、彼女の「体験談」の本体には入っていないのだろう。
だが、何かぐにゃりと世界がゆがむような眩暈を覚えたKくんは、ひとまず思考を整理しようとトイレに立った。

用を足し、手を洗いながら考える。

話を聞いているときからずっと、Kくんには違和感があった。
だが、その正体が何なのか、Kくんにはわからなかったのだ。

なんだ、なんで違和感があるんだ?

手を伝って流れる水を見つめながら、ハッと気づく。

季節は夏。
猛暑日だった。
時刻は真昼。
喫茶店には確かに冷房が効いているのだが、外は暑い。
にもかかわらず、最初からずっと、その女性は厚手の長袖の洋服を着ていたのだ。

あれ?
まさか……
やばくねえか?

そんなことをつらつら思っているうちに、しばらく時間が経ってしまっていた。
気を取り直して、できるだけ感情を表に出さないよう心掛けつつ、席へと戻る。

ところが。

席には女性の姿がない。

紹介者の知人が正面を向いて固まったような状況で、座っている。

「あれ、どうしたの?」

Kくんが尋ねると、知人がからからに乾いた口を開く。

「……帰った」
「帰ったって、どうして?」
「……気を悪くして」
「いやいや、こっち否定もしてないし、変な反応もしてないでしょう?どうして?」
「……いや、気を悪くしたのはお前のせいじゃなくて」

知人の話では、Kくんが席を立った後、その女性が知人をこっくりさんに勧誘してきたというのだ。
それも強引に。

「”今度やってみましょうよ”って誘ってくるから、”いや、今までやったことないし……”って断ってたんだけど」

しばらく押し問答を繰り返していると、急に女性が知人の手を掴んできた。
痩せている体からは想像もつかないほどの強い力だったという。

「……その手を振り解こうとしたら、左手の裾が捲れてさ……」

裾の下の手は、皮膚がズタズタだった。
ただ、リスカ跡とは、ちょっと違う気がしたと知人は言う。

「それを見た瞬間、きっと睨みつけてきて、手を離して帰っちゃった……」
「そうなのか……」

Kくんとしても絶句するほかない。
念のため知人に尋ねてみる。

「あのさ、さっきの話を鑑みるにさ……そういうことかな?」
「……そういうことだろうな」
「で、誘われたの?」
「ああ、予定合わせませんか、とか」
「ええ……」

それっきり知人はその女性とは連絡が取れなくなり、自然消滅のようなかたちになったそうだ。


「きっとその人、まだやってるんでしょうね……こっくりさん」

いかにも恐ろし気にそう言いつつも、Kくんはいまだに、こっくりさんの話ばかりを聞き集め続けている。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第26夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第26夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/641529209
(26:21〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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