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いま飲んでいるこの酒はいましか味わえないという話

2020年も7月に入りました。いよいよ夏の暑さが到来します。
日本酒も良いのですが、暑いとビールやスッキリした炭酸(アルコール)飲料が恋しくなりますね。
いまだ新型コロナが猛威を振るっていて、気兼ねなく外出できる状況ではありませんが、……ビアガーデン行きたいです。

お酒のご紹介です。

龍神丸(りゅうじんまる)

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和歌山県有田郡にあります高垣酒造場。
創業は1840年、現在の当主は9代目高垣任世氏であります。

飲んでみましょう。

上立ち香は苺と干しぶどうを合わせたような香り。果実味のある香りですが、奥のほうにセメダインのような香りも混ざっています。
口に含むと舌の中心をすうっと旨みが通ってきます。みずみずしさと円熟味を両取りしたような、非常に柔らかい口当たり。
一気に甘みが増幅する中間。焦がしナッツのようなビター感が顔を出します。
後口は渋を少し残し、ピリッとした辛みとともに消えます。余韻は比較的長め。

ラベル情報を記載しておきます。

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純米吟醸 生原酒 袋吊り 無濾過生原酒
アルコール分 : 18度
原材料名:米(国産)、米麹(国産米)
原料米 : 山田錦100%
精米歩合 : 50%
仕込水 : 空海水
製造年月 : 2020.03

価格は1.8Lで3,700円(税別)。
購入は和歌山県和歌山市にあります酒やの鍵本です。

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日本酒を飲んでいて感じることなのですが、酒蔵ごとに個性があり、銘柄ごとに方針があるんだということ。

でも、その個性・その方針が、ずっと反映されていくとは限らない。

去年飲んで美味しかったから今年も買ってみたけど、去年とまるで違う味わいだったということがけっこう頻繁に起こるのが、日本酒とりわけ地酒の面白いところであり、時折、問題点でもあるのです。

なぜそんなことが起きるのか。

それはもっと美味しいものを造りたいから。
この一点であると私は思います。

そうではない蔵、そうではなかった銘柄も知っていますが、面倒なので除外

酒造りにかかわる人は酒蔵の人だけではありません。
蔵に助言をする先生、取引先の酒販店、取引先の飲食店、そして我々飲み手、全員がかかわっていて、それぞれが意見を出し合ってそれを拾い集めてお酒は造られているんだと私は思っています。

その結果、以前飲んだものとはまるで違う味になっていた、ということが起こる。

そうやって変わっていくことで新しい購買層を獲得できるかもしれません。
逆にそれまでの味が好きだったファンは離れていってしまうかもしれない。

ただ一つ私が肝に銘じていることは、いま飲んでいるこの酒は今しか味わえない味なのだということを忘れないようにすること。

お店で飲むにせよ、自宅で飲むにせよ、一期一会の味であることを加味して飲むとまた格別さが増す気がするんです。

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私が初めて龍神丸を飲んだのは2009年6月。
漫画「もやしもん」で紹介され、既に幻の酒になっていました。
この年、特約店の抽選に運よく当たり、大吟醸の袋吊りを飲むことができました。
フルーティでみずみずしい、当時の龍神丸の真骨頂に感動したのを覚えています。

その翌年である2010年、当時の8代目当主であった高垣淳一氏が急逝。
訃報を知り、なんとかして龍神丸を手に入れ飲んだのですが、それが本記事のご紹介酒と同じ規格である純米吟醸 生原酒でありました。
そして4年の月日を経て奥様である任世氏が龍神丸を復活させ、今に至っていますが、そこから今まで出逢うことは叶わず、私が龍神丸を飲むのは10年ぶりということになります。

同じ銘柄、同じ規格、同じ水ですが、造っている人が違う。
それが味の違いに現れます。
亡き淳一氏の意思を継ぎ、龍神丸という銘柄を守る。
その一心で現当主が酒造りに向き合っていることが、酒を通じて伝わってくるのです。
胸が震えるのです。
こんな一期一会は、言葉では語れない。

これからも良い酒を造っていただくことを願って、大切に飲ませていただきます。

いただいたサポートは、モチベーションの維持および酒購入費に充てさせていただきます!!