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ユゴー著『レ・ミゼラブル 第四部 プリュメ通りの牧歌とサン・ドニ通りの叙事詩』読書感想文


『キレイキレイしましょ』


世界が浄化されている。

COVID-19以前以降に限らず、世界は浄化を辿る一方である。街は浄化され人間も浄化されている。それが絶対的な"善き事"として世間では流布されている。人間も世界も、決してそんな善にだけ存在する様な都合の良い生き物ではない。

第四部では悪党テナルディエの息子、ガヴローシュが大活躍する。路上で暮らし、隠語を巧みにこなす彼もまた、立派な悪党だ。だが、悪党によってでしか救えない人間、悪党によって救われる人間、というものがこの世界には確かに存在する。それはガヴローシュが救った二人の子供の様に。マリユスを救ったエポニーヌの様に。我々が生きる世界は決して善のみではなく、悪と共に存在する。

革命を描いた小説を私は初めて読んだ。革命は私が思っていたものよりも、血生臭く、野蛮なものだった。革命は決して高尚な哲学や思想のみによって行われるのでは無かった。そこでは人類の理想と共に、人類の血が流れていた。

マリユスはコゼットとの別れを確信し、暴動に参加する。そこには勿論、彼の哲学や信条があったのだろう。だとしても、愛する人と別れ、その絶望から半ば自暴自棄の様に戦いに向かう彼の姿は、あまりにも若く、あまりにも野蛮だった。しかし、そんな若く野蛮なエネルギーが革命を支えていた事も事実なのだろう。

勉強不足の私にとって、このフランス革命がどれほど今の私の生活に影響を与えているのかは到底計り知れない。僅かな知識を持ってしてでも分かる事は、この革命と地続きに今の私の生活があるという事だ。この野蛮で、血生臭い革命の先に、私の知っているこの世界はある。

人間が人間として生きるという事が、如何に野蛮で血生臭いものであるのか、本書を通じて痛烈に感じた。

世界は浄化されている。 
だが、人間が人間として生きるという事の根底には、決して浄化することのできない何かが、確かにある。

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