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山で育った

山で育った。

大阪生まれ大阪育ち、と言うと比較的都会の人間やと思われる。けど、自分が育った大阪の東大阪市に位置する日下という町は、大阪でも屈指の田舎だ。多分。

地元は生駒山の麓、というよりほぼ中腹にあって、平坦な道はほぼ無く、坂道に囲まれた町だった。小学校も中学校も坂を下った所にあったので、大袈裟ではなく地面こそコンクリやけど、登下校は登山みたいなものだった。登下校中は川で沢蟹を取ったり、林を散策したりした。帰り道には目線の先にいつも山があった。取り敢えず山に向かって歩けば家に着いた。

中学校は校舎が山と接していたので、休み時間はいつも山で遊んだ。昼休みになると池で釣りをしたり、山中に秘密基地を作ったりした。鬼ごっこは山の中でした。山はいつも遊ぶ場所だった。

高校は市街地の学校だったので、山で遊ぶ事も無くなった。年頃やしね〜。バイトをしては毎日の様にレコ屋とブックオフに足を運んだ。(今も何も変わっとらん…)それでも、帰りの電車の車窓からは毎日山が見えた。

学校を卒業して働き始めた頃から、また再び山に足を運ぶ様になった。もやもやして眠れない夜は山に入った。夜の山はやばい。恐ろしい。めちゃくちゃ暗いのに色んな物が見える。めちゃくちゃ静かやのに、あらゆる音が聞こえる。本を読み始め、自分の育った山の歴史や、土地の由来を知るようになり、益々山に愛着が湧いた。

山や自然への興味が強くなり、林の側の古民家を借りた。築80年の壁に穴が空いた家。朝は風で目が覚める、外と内が曖昧な素敵な家だった。庭には檸檬の木があった。元々住んでいた実家からそれ程離れてはいないものの、自然が豊かな場所だった。冬から春にかけての微細な景観の変化に感動した。自分は今までな〜んにも見ていなかったんやと心の底から思った。春には緑が溢れ、ありとあらゆる虫が湧き出した。家に帰ると巨大な蜘蛛が何匹も扉にへばりつきながら出迎えてくれ、家の中では色んな虫が鳴いていた。夜には屋根裏に住むイタチの家族達が暴れ回っていた。賑やかで楽しかった。庭の畑を耕し、春先の山に山菜を取りに行くことが楽しみだった。

山や自然への親しみが深くなる一方、"二十歳そこそこでこんなじじいの老後みたいな暮らししてる俺ってどないやねん"という思いもあった。後に音楽活動が本格化し、古民家を出て東京に引っ越した。

親友だった庭の畑と年老いた檸檬の木に別れを告げた。

東京にも自然はある(西の方とか。知らんけど)けど、自分が住んでいる東京にはない。ほぼ、ない。少なくとも俺の知ってる自然ではない。近所には綺麗に整備されたしょーもない川と、造園屋が適当に剪定したどーでもいい街路樹くらいしかない。東京への引っ越しを機に、自然への親しみも愛着も寂しくなるのが嫌で意識的に封印した。見知らぬ花が咲いていようが気にもとめない。それでも東京に住み始めて3ヶ月程経った頃、演奏で大阪に帰ったその時見た生駒山が忘れられない。自分は今までずっとこの山に見守られていたんだと、その時初めて痛切に思った。山が見えない東京の暮らしは寂しいけど我慢した。


2020年、丁度1年前の5月、親父がくたばった。子供の頃、親父が遊びに連れて行ってくれるのは9割山やった。一緒に山に入っては木の名前や花の名前、そしてそれらにまつわるあらゆる話をしてくれた。山で取ってきた木で色んなおもちゃを作ってくれた。親父は宮大工だった。昔、近所のガキ共の間で竹馬ブームがあった。皆が既製品の竹馬で遊ぶ中、俺だけ親父手作りの竹馬やった。カラフルで高さ調節できる皆のそれよりも、裏山で取ってきた竹でできた手作りの竹馬の方が、本物やしカッコええと自慢げに思っていた。あとの1割は海。海ではもっぱら釣り。親父は地平線を眺める度に、「地球が丸い様に、この地平線がなんとなく曲線を描いてる様な、まあるく見える様なそんな気ぃせえへんか?」と言った。子供の頃から数えると、これは多分100回くらい聞いた。くたばる少し前に兄貴と3人で一緒に海に行った時も言うてた。見た目とは裏腹に、たまにロマンチックな人やった。東京に引っ越してからも、実家に帰ると必ず二人で山や海に行った。自分が今でも山や自然に愛着以上のものを持つのは、親父の影響やったと思う。子供の頃も、大人になってからも、親父と話す事はいつも山や自然のことばかりやった。色んな事を教えてくれた。子供の頃も、大人になってからも、相も変わらず仲が良かった。楽しかった。できる事なら、もっと話を聞きたかった。

去年の秋頃、友人と楽器を買いに渋谷に行った。渋谷では大規模な再開発が行われていた。何やら100年に一度の大規模再開発らしい。いつ行っても工事してる渋谷やけど、自分が何度も目にしていた店がなくなり、えげつない規模でビル群が無くなっているのを見て呆然とした。開発に開発を重ね、変化し続けるのが東京の魅力やと思う。東京の暮らしは刺激的で楽しい。本当に色んな人達と出会えた。けど、その景色は正直しんどかった。この先もずっとここに住み続けるのは、きっついなあと思った。

渋谷での衝撃も冷めやまぬまま、次の家の更新で、以前からぼんやりと考えていた引っ越しをする事に決めた。

東京にアクセスしやすくて、ここより自然が多いとこがええなあ…等と思いながら、しばらく神奈川や埼玉で物件を探していた。が、ここに住んで生活がしたい、と思える場所は無かった。

じゃあ自分がここに住んで生活したいと、本当に思える所ってどこやろう?

自然が身近にあって、かと言って田舎過ぎず、市街地があって、音楽シーンがあるところ。自分がそこに住んで生活をして、創作活動をしたいと思える場所。ほんでやっぱり山が見えるところがええな〜と思った時、真っ先に思い付いたのが京都やった。

というわけで京都に引っ越してきました。
京都の皆様、宜しくどす!

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