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僕が安住の地を手にするまで [11] プロジェクト ONIGOE70 本格始動!

測量調査の結果、土地の平地部分は土砂災害特別警戒区域には入っていないことが明確になった。土地を分割して登記し、がけ条例に触れない場所に設計すれば、建築が許可される見込みも立った。つまり、役所が「何が何でもダメだ」と止めに入るほど危険な場所、無謀なプランではないということだ。

しかし不安は不安だから、地形学の専門家に、周辺地形から想定できる「今後起こりうる災害」についてとても詳しいレクチャーをいただいた。専門家の厳しい目で見れば、安全に暮らせる場所などはほとんど皆無であり、つねにいくらかのリスクは覚悟しなければいけないということがわかった。問題はどこまでのリスクを受け入れるかということだった。

結局のところ、「500年から数千年に一度の頻度で起こる可能性がある」と言われる災害を理由に、気に入ったあの土地を諦めることができなかったというのが本音だ。「災害リスクを正しく認識した上で購入する」という方向で話をすすめる決断をした。たしかに万が一、土石流に巻き込まれて死ぬかもしれないが、宝くじみたいな確率のリスクを恐れて希望とは真逆の暮らしを選ぶのも、僕にとっては死んだも同じようなものだ。きわめて冷静に話し合った結果、妻もそれを理解してくれたので、決断するに至った。

というわけで、土地の持ち主にも直接お会いして、正式に購入の意思をお伝えし、今後のプランの詳細についてもお知らせした。とても気さくで、感じの良い方だった。土地のことや周囲の環境のことを色々お話くださった。随所に楽しい昔話を織り交ぜながら。近所に暮らしてらっしゃるので、購入後も長い付き合いになることは間違いない。

購入計画が次第に形になり、ようやくスタートラインに立った感がある。さあ、建築行為許可申請の準備を本格化させなくてはならない。

建築行為許可申請は三段階

建築行為許可申請には3つのステップがある。まずは基本的な書類だけを提出して、大まかな見通しを立てる (第1ステップ)。つまり、「災害特別警戒区域に入っていないか」とか、「がけ条例にひっかかるような場所に建てようとしていないか」といった最初のチェックが行われる。また、この段階で建築基準法の何条が適用されるかがはっきりする (法第43条もしくは27条)。この審査にかかるのがだいたい一週間ほど。

第1ステップで明らかな問題がないことがわかると、次のステップ (開発許可事前協議申請) に進む。ここではさまざまな書類を提出しなければならず (以下のリストを参照)、それらをもとに、役所の様々な部署で多くのことがチェックされる。審査には、すべての書類が揃ってから、最低で約二週間かかると言われている。審査の結果、書類に不備が見つかれば修正し、足りない情報があれば追加で提出する。

建築行為許可申請添付図書 (法43条)
 ・申請書
 ・位置図 (案内図)
 ・字限図 あざきりず
 ・付近見取図
 ・実測図
 ・敷地現況図 (土地利用計画図)
 ・排水施設計画平面図
 ・建築物の平面・立面図
 ・申図面の縮尺・着色
 ・公共施設の管理者の同意等
 ・相当数の同意書
 ・土地の登記謄本
 ・住民票謄本
 ・印鑑証明
 ・申請地の現況写真
 ・その他
 ・手数料

第2ステップでも問題がないということになると、最後のステップ・本申請に進む。この段階になると新しく提出すべき書類はなくなるが、それまでコピーを提出していた書類を原本に変えるなどして、再提出する。この審査にさらに一週間ほどかかる。

というわけで、家を建てる許可を取るだけでも一苦労だ。そしてこれが終われば、今度は建築確認申請が待っている。一般的には不動産屋などの仲介業者がやる仕事を自分でやろうとすると、これだけたくさんのことを自分でやらなくてはならなくなるのだ。しかし、やろうと思えばその多くは自分でできる。予算がカツカツな僕らは、自分でできることに敢えてお金を使う余裕はない。大変なこともあるが、できることはなんでも自分たちでやると決めたのだ。

間取りを固める

上のリストのとおり、提出書類のなかには建築物の平面図と立面図も含まれている。たとえ暫定的なものであっても、とりあえずは提出しなければならない。間取りをどうするかという話はもうとっくにはじまっていて家族の間でも色々と議論をしてきた。そろそろ、その結果を形にしなければならない。

…なんて書くと格好いいが、実のところは醜い喧嘩をたくさんした。

マヤさんのセッションを受けたことにより、僕は家というよりは、好きなことを思う存分楽しめる自分だけの屋外スペースが欲しかったのかもしれないということがわかった。なので、僕自身は間取りにはそれほど強いこだわりはなく、妻や子どもたちの意見を尊重し、できるだけ彼らの希望を取り入れるようにした。

しかし、誰かの希望を叶えると、それが影響を及ぼし、他の誰かにしわ寄せが行く。とくに妻の反発は激しい。そもそも4 ✕ 4間 (7.28 ✕ 7.28m) の総二階だから、32坪 (52.99平米) という限られたスペースしかないんだぞ!どうしろってんだ。しかも、昨日言われたことを形にして翌朝見せると、「ええ、なんでココこうなっちゃうの?」みたいな反応だったり、直している最中に「さっきの話だけど、やっぱりさー」なんてコロコロ変わったりするもんだから、こっちもついついムカッ!となる。「だったらお前がやってみろ!」となって、売り言葉に買い言葉で、修羅場になる。あんまりにもムカついて、数日間口をきかなかったこともある。

そんなこんなで妻とは本当に色々ぶつかったが、とはいえ、次第に形は見えてきた。

設計事務所に支援を依頼

当初は設計からなにからすべて自分でやるつもりでいた。母方の親戚に一級建築士がいるので、僕が描いたプランを見てもらって、必要に応じて修正してもらった上で許可申請をしようなんて思っていた。それなら安く済みそうだし、何よりもすべて自分たちの思う通りの家が作れると思ったからだ。

しかしそう簡単な話ではないことがわかってきた。

コロナ禍にあっては、東京に暮らす親戚に仕事を依頼するのも難しい。設計についてのやり取りはインターネットでやるとしても、役所との折衝のために毎回わざわざ東京からやってくるわけにもいかない。こちらの条例については何も知らないだろう。

設計についても、素人が付け焼き刃で勉強しても、やはり限界がある。間取りについてアイデアがたくさんあるとか、CADがいじれるだけではどうしようもならない部分がたくさんある。とくに構造計算や、柱や筋交いの数・位置を決めることは素人にはできない。かといって、プロに渡せばちゃちゃっと修正してくれるようなものではなく、ゆっくりと、互いにアイデアを出し合いながら、話し合いをもってすすめるべきものなのだ。プロならではの解決法や秘密のアイデアがたくさんある。

この数ヶ月間に色々調べたり、実際に自分でやってみて、素人が仕事をしながら自分でやるには限界があることがよーくわかった。たとえばウェブに上がっていた構造計算書例をいくつか見てみたものの、専門性が高度すぎてさっぱり内容が理解できないのだ。概要書の最初の「構造計算方針」というところにいきなり「構造計算はX方向ルート3、Y方向ル-ト3とする」なんて書いてある。ほら、もう最初から訳がわからない。新しいことを勉強すること、自分で手を動かすことは少しも厭わないが、これは完全に白旗です。

設計にまつわる重要な部分は、どう考えてもプロの助けが必要だ。そうなったら話は早い。プロに入ってもらうなら、やはり日頃から高木さんと一緒に仕事をされている方がいいだろう。というわけで、大類真光建築設計事務所 (http://oorui-ma.com/) の大類さんのお力をお借りすることにした。

大類さんには結構な無理を言って引き受けていただくことになった。本当に本当に感謝である。

我が家の基本設計

間取りを決める上で、僕が最初から最後まで貫いたのはひとつだけ。それは、一階を誰が (どんなにたくさん) 来ても受け入れられるオープンスペースとし、二階を完全なプライベートスペースとすることだった。つまり、一階は風呂とトイレ以外は間仕切りを極力減らして開放感を生み出す。とにかく風通しの良い、広い空間を作りたかった。一方で、二階はきちんと部屋を四つに分けて、それぞれの個室をつくる。

なんとなく案が固まってきた段階で大類さんに見ていただく。その都度、構造上の問題を指摘していただいたり、より暮らしやすくするためのアドバイスなどをいただいて、少しずつ完成形に近づけていった。とにかくたくさんの図面を描いた。大類さんや高木さんに見せる前に家族に却下されたものも含めたら、おそらく50枚は下らないと思う。AutoCADの使い方もだいぶ板についてきた (ペルーでの仕事に役立ちそうだ)。

大類さんからのアドバイスをもとに修正を何度も重ね、ようやくたどり着いた間取りがこれ ↓ である。

4 建築物の平面・立面図 A3

折返し階段で踊り場をなくして段数をかせぐことでスペースを節約でき、バスルームに余裕ができたし、風除室もできた。玄関も外側に小さなポーチと階段がつくことで、より玄関らしくなった。希望通り、リビング・ダイニング・キッチンのスペースはでかくとれた。二階は、階段と廊下があるぶん、北西の部屋は他よりも少々狭くなるが、それでもきれいに分割できたように思う。誰がどの部屋を使うかについては、念のため、風水で吉方位と呼ばれる方角に合わせるようにした (実はここでもひと悶着あった)。大類さんのアイデアやアドバイスによって次第に家らしくなっていく。

さすがプロだと痛感した。

それぞれの部屋の建具の位置も決め、平面図に合わせて立面図も自分で用意した。その他の書類もひとつずつ揃え、ようやく第2ステップで提出すべき書類が揃った。そして、9/16に役所に提出し、無事受理された。

やった!

書類に不備がなければ (or 大きな追加修正がなければ)、10月の頭には本申請に入れそうだ。また、建築行為許可申請の準備と並行して、ローンに関するプランも少しずつ固めてきた。幸いなことに、現在の仕事はローンを組む上で大きな後ろ盾となってくれるようで、どこに相談しても審査は一発で通る (これまで頑張ってきた甲斐があるってもんだ)。もっとも条件の良いところで決めようと思う。すべてがうまくいけば、11月中には土地が自分たちのものになる予定だ。

プロジェクト ONIGOE70 本格始動

最初はコロナ禍の簡単な思いつきみたいにしてはじまったこの建築プロジェクトだが、たった数ヶ月のうちにみるみると形になり、土地購入まであと一歩となった。ようやく本格始動である。そこで、このプロジェクトに名前をつけた。土地の地名・地番 (大字岩波鬼越70) からとった「ONIGOE 70」である。

僕らの、この「家を建てよう」という試みは、実は単なる建築プロジェクトではない。おぼろげに見えてきた自分たちのフィロソフィーに合わせて、自分たちの生活全体を見直そうという、比較的壮大なプロジェクトの一環なのだ。つまり、生活というものが衣・食・住から成り立っているとするなら、その「住」の部分にすぎない。僕らは衣・食・住よりもっと広く生活を捉えていて、それらをひとつずつ自分たちらしい形にしていこうと思っている。今から建てるこの醗酵住宅を拠点として、場や人とのつながりが醗酵するように、これから色々な活動をしていきたいと思っている。


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