闘病SNS「DayRoom」で、闘病体験をより良いものに:DayRoom・林和正
病気にかかった時、専門的な知識がない私たちが頼れるのは、病院や医師だけです。それが当たり前になっていますが、自分の身に大きく関わることを、情報がないままに決断せざるを得ないことは、見過ごされている大きな問題のなのかもしれません。
闘病用SNS「DayRoom」によって、患者同士がつながり、その体験を共有できる世界を、目指しているのが株式会社DayRoom代表取締役の林和正(はやし・かずまさ)さんです。
「DayRoom」で患者が情報を持てる世界に
林和正:私たちは、同じ病気の人とつながれる闘病SNS「DayRoom」 を運営しています。「デイルーム」というのは、病院にある、患者同士が気軽にコミュニケーションをとれるスペースのことです。私たちはそれをオンライン上に作りました。
DayRoomの特徴の1つが、病気ごとに分かれたトークルーム機能です。同じ病気の人に質問をしたり、闘病や治療の経験談を共有したりできます。また、特定の病気に特化した病院の口コミを投稿、閲覧できるため、患者の病院選択の幅を広げます。
患者にとって、病院や医師の選択は闘病生活に大きな影響を及ぼします。場合によっては自分の生死に関わるかもしれない重要な問題です。しかし現状この選択をする上で、専門的な知識や情報を十分に得られているとは言えません。DayRoomを通じて、患者同士がつながりリアルな情報を手に入れることができるようになれば、患者のより良い意思決定を支援することができます。
β版の現在は約3,700種類の病気ごとのトークルームを開設しています。DayRoomならではの機能として、SNSでの一般的なリアクションである「いいね」のほかに、「ありがとう」ボタンを導入しました。ユーザーが、役に立ったと思う投稿に「ありがとう」を押すことで、その数が多い投稿、つまりユーザーにとってより有益な投稿が上位に表示されるアルゴリズムを採用。質の高い情報を、より手軽に得ることができるのです。
2021年9月にローンチし、現在ではユーザー数が700人を超えました。ユーザーの声を取り入れながら、機能のアップデートや、UI/UXの改善を進めています。
患者の苦痛に寄り添い、拠り所となれる場所に
DayRoomによって解決したいと思っているのが「患者の精神的苦痛」「医学系デマの拡散」「医療情報の閉鎖感」の3点です。
まずは精神的な苦痛です。治療によって、その病気の身体的な苦痛は取り除けますが、病気に伴って生じる「精神的苦痛のケア」は十分に行われているとは言えません。家族など身のまわりの人も患者の精神的苦痛を完全に理解することはできません。孤独を感じる患者も多いのです。
特にコロナ禍では、三密を避けるために病院のデイルームが使えなくなったり、お見舞いにきた人との面会ができなくなったりしたことで、患者の孤独はますます強くなっています。だからこそ、DayRoomのようなSNSが果たす役割は一層大きくなっています。
2点目が「医学系デマの拡散」。特にコロナ禍ではSNSを中心にデマが広がってしまい、インフォデミックが大きな問題になりました。
このサービスでは、デマの拡散を避けるために、次の3点に配慮した設計にしています。
個人に拡散力を持たせない:トークは、クローズドな病気ごとのトークルーム内とフレンドのみが見えるタイムラインのみなので、他SNSのように個人が拡散できる機能をつけていません
有益な情報を優先的に画面上に表示する:上述の「ありがとうボタン」によって、誤っている、ないし有益でない情報は埋もれる仕様です
誤った情報があった場合には、それと訂正情報のどちらもが目に入るような仕様にする:トークルーム内で誤りが訂正された場合、そのスレッドに訂正情報も合わせて掲載する
最後の「医療情報の閉鎖感」は、私が創業するきっかけにもなった課題です。
実は私自身、過去にガマ腫という病気の手術を2度受けた経験があります。1度目の手術は家の近くの病院の先生にお願いしました。術後1週間は39度を超える高熱と痛みで、飲食はもちろん、唾を飲み込むことすらできませんでした。あまりに異常な痛みだったため、医師に再度の診察をお願いしましたが、炎症は起こしていないと言われ、痛みに耐えるしかありませんでした。
その後すぐに病気が再発。母親がネットで腕の良い専門医を見つけてくれて、2度目の手術を受けました。手術は成功しましたが、1度目の手術の際の炎症で、周辺の器官が破損していたことをそのときに教えてもらいました。1度目の手術を担当した医師が故意に炎症を隠したのかはわかりませんが、そのまま放置していれば、今のように日常生活は送れなかったかもしれません。
患者は基本的に医師の言葉でしか病気について知ることができません。 つまり、闘病の大部分が、良くも悪くも医師に依存してしまうのです。しかし、医師も完璧ではありませんし、それぞれ専門領域や知識、技術が異なります。そしてその違いが患者にとっては「病気を治せるのか」「後遺症は残らないか」などその後の自分の人生に大きく関わることになるのです。
こうした課題に対して、DayRoomは患者の体験ベースの情報を流通するサービスとして、闘病に寄り添えたらと思っています。
「病気かな」と思ったらまずDayRoomで同じような症状の人がいないか調べてみる。闘病中はトークルームで同じ病気の人と情報を共有し、孤独を感じずに闘病生活を送れる。完治後はその闘病経験を同じような病気に悩む他のユーザーに共有する——。
そんな風に、病気に関してまずDayRoomを使えば何かのヒントや自分の求めるコミュニティが見つかるようなサービスを目指しています。
起業初期のサービス立ち上げ、ゲームで培った「高速PDCA」力が役に立った
Dayroomは、闘病を理由に大学を休学していた2020年3月に設立しました。創業期は、大学時代の先輩にも手伝ってもらいながら、闘病しながら事業を立ち上げ。大学の卒業後は新卒で企業に勤めながら会社員の業務と並行してDayRoomの開発を進めていました。
事業やサービスをイチから作るのは初めての経験でしたが、今振り返ると、ゲームで培った能力が役に立ったのかもしれません。
私は「STILL ALIVE(現在はサービス終了)」という韓国発のスマホゲームが好きなのですが、私の所属するチームはランキングで世界一になりました。日本のユーザーは少なかったですが、世界展開もされていたゲームです。
対人戦なので、相手に勝つために仮説を立て、それを検証し、反省するというPDCAサイクルを自分の頭の中で何回も繰り返します。1回の対戦が終わる数分ごとにそのサイクルを回すので、とにかく高速でPDCAを回すことの重要性が感覚としてわかっていました。
この考え方は、起業初期の段階でもとても役に立ちました。常に目的意識を持って、自分の現時点の課題を把握し、目的までの最短経路を考えるというメタ認知と、とにかく高速でPDCAを回すこと。今もこれが自分の学習の型になっています。
闘病生活を“楽しめる”社会に
DayRoomは、闘病するすべての人が「闘病生活を楽しめる社会に」をミッションとして掲げています。
闘病生活は辛いこともたくさんありますが、私自身は、闘病経験があったからこそわかったこと、感じられたこともありました。
闘病しているからこそ出会えた人もいましたし、人生や死について考える中で、人生観や価値観にも大きな影響を受けました。DayRoomの創業も、「誰かが死ぬ前に、あれはよかったなと思い出してもらえるようなものが作りたい」と思ったことがきっかけの一つです。ですから今振り返れば、私にとっては闘病が「価値のあるものになった」と言えます。
DayRoomを通じて闘病をより良いものにして、「闘病が楽しい」や、「闘病生活が価値のあるもの」と認識してもらえるような社会にしていきたいと思っております。
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