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障害者ならではの才能をビジネスに変える:Newtwel・日野信輔

「障害者」というと、「支援されるべき存在」としての印象が強いかもしれません。しかし株式会社Nextwel代表の日野信輔(ひの・しんすけ)さんは、障害がある方々の能力や強みを活かせる環境を作り、それを企業のニーズに合う形へと変換することで、「支援されるべき存在」とは違った姿を提示します。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

工賃の平均月収は1万6千円ーービジネス現場における障害者の立場

日野信輔:Nextwelでは、障害福祉に関連した2つの事業を展開しています。1つはWebメディア「WelSearch(ウェルサーチ)」の運営、もう1つは、企業と障害者の業務マッチングの仲介です。

まず自社メディアである「WelSearch」では、福祉業界の当事者や支援者にとって役に立つ情報や楽しめるコンテンツを発信しています。Nextwelが提携している全国3,000人以上の障害者や福祉の専門家チームに、実体験や失敗談などの執筆を依頼しています。

当事者の体験やストーリーは、その人にしか書けない唯一無二のコンテンツです。ここに価値があると思っています。またこうした記事を障害がある方々に執筆してもらうことで、「自分の人生がコンテンツになる、仕事になる」という感覚を持ってもらいたいのです。

WelSearch

もう1つの事業が、企業から障害者へ業務を委託する際の仲介です。

企業が何らかの業務を障害者に委託しようとする場合、「しごとセンター」と言われる行政の機関を通じて福祉施設にコンタクトを取ることが一般的です。その後、オファーを受けた福祉施設の職員が業務を受託し、施設にいる障害者に仕事を依頼します。

しかし施設の職員は、支援のプロではあっても、ビジネスのプロとは限りません。工賃を上げたいと思っても、営業方法や単価、料金相場に詳しくないために、割りに合わない仕事を受注してしまうこともあります。

だからこそ、正当な単価で請け負うためには、福祉とビジネスの両方を知っている団体などと連携することが重要なのです。

厚生労働省のデータによると、企業に雇用されている障害者の平均月収は、身体障害者で21万5千円、知的障害者で11万7千円です。特に知的障害の場合、健常者の平均月収とは大きな開きがありますが、これはあくまで「雇用」されている人のデータです。

雇用を受けられない障害者たちは、就労継続支援事業所での業務で工賃(賃金)を受け取ります。この工賃の平均月収はA型事業所では約8万円、B型では1万6千円です(編集部注:通常の事業所に雇用されることが困難である障害者のうち、A型事業所は「雇用契約に基づく就労が可能な人」、B型は「雇用契約に基づく就労が困難な人」を対象にしている:参考)。

私はこの現状を改善するために、Nextwelを創業しました。

私たちがWelSearchで障害者に依頼しているライティングの業務はもちろん、そのほか企業からの依頼でNextwelが請け負っている仕事は、できるだけ時給1,000円以上になるように設計をして、提携している障害者にお願いをしています。

また企業に対しては、障害者チームが仕事を担当することを必ず伝えています。ただし業務フローを組む場合、先方の企業と障害者の直接のやりとりは原則避けられるように注意しなければいけません。

というのも、直接やりとりしてしまうと、障害者への理解があまりない場合、何らかミスコミュニケーションが起きてしまうためです。だから必ず私たちが間に入って、調整役として円滑にビジネスが進むようにしています。そこで障害者のスキルや仕事ぶりを見ることで、「実際に雇用してみたい」と感じてもらい、障害者雇用にもつながるケースも多いです。

障害者ならではの才能をビジネスに

障害者チームに仕事をお願いする中で意識しているのは、障害者を支援するのではなく、1人のパートナーとして向き合い、そしてその人の強みや才能を引き出すことです。

多くの障害者は「自分は何もできません」と言います。社会に出た際に誹謗中傷を受けたり、職場に馴染めなかったりした結果、自己肯定感を失ってしまっている人がたくさんいます。でも話を聞いていると「あれもこれもできるじゃん」と本人も自覚していなかった能力に気づくことばかりです。なかには、障害者だからこその才能も多く、それをいかにビジネスにつなげられるか、その橋渡しがNextwelに求められている役割だと考えています。

今までたくさんの障害者と仕事をしてきましたが、例えばある自閉症の人は記憶力がすごい良くて、電車の名前を全部言えますし、またある人は独特な感性でアーティスティックな絵を描きます。

このような才能をまず見出すことが大切です。そしてそれを「すごい」の一言で片付けてしまうのではなく、仕事に結び付ける方法を考えます。

実際にNextwelと提携していた障害者の1人にガンプラ(ガンダムのプラモデル)をとても綺麗に作れる人がいました。もちろん本人としては遊びだったと思いますが、「それをフリマアプリで売ってみたらいいんじゃないか」とアドバイスをしたら、業界でも話題になり、なかには50万円で売れた作品もありました。こうしたその人ならではの才能の活かし方が、きっと誰しにもあるはずです。

また障害者の持つ感性が、いわゆる健常者と言われる方々を含めた社会にとってより良い環境作りに役立つこともあります。

例えばNextwelが企業から請け負っているWebマーケティングの仕事の中で、ウェブコンテンツを制作する機会がありました。誰にとっても使いやすい、アクセシビリティの良いサイトを制作するために、視覚障害や、感覚が過敏な障害のある方にヒアリングをしてみると、フォントがわかりづらい、文字のサイズが小さいなど自分たちの視点では気づきにくい指摘をもらうことができました。このような細かな工夫は、健常者の人にとっても顕在化はしていないものの、使いづらさを感じ、実際にサイトからの離脱の原因になっていたりします。

誰でも使いやすいものを生み出すために障害者の感覚を借りることも障害者たちの才能を活かす1つの道なのではないかと考えています。

まずは知ってほしい

障害者が持つ能力は、企業や社会にとって活かせる形に変換できるプレイヤーと、苦手な部分を助け合える環境があれば、まだまだ広く活躍の余地があります。

だからまずは、障害者に対する“わからなさ”や偏見を取り払うことが必要です。私自身もそうでしたが、例えば視覚障害のある人が駅で困っていても、なかなか声をかけるのは難しいですよね。どう声を掛けていいのか戸惑ってしまうと思います。でも普通に困っている人と同じように、声をかけてもらえることが嬉しい人も多いと知っていれば、少しは声をかけやすくなるはずです。

障害者雇用の現場でも同じです。障害者の特性を知らないから「うちでは雇用は難しい」「単純作業しか頼めない」という判断になってしまいます。そうではなく、ちゃんと企業の生産性の向上にもつながるような貢献ができるんだということを伝えてあげる存在が必要です。

Nextwelがその橋渡しを担うことで、障害者との仕事に壁を感じている企業にも「え、こんなことができるんだ」「自分たちと変わらないな」と偏見を取り払ってもらえるように働きかけていきたいです。

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