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社内から新規事業を生み出すのが難しい要因は? 16社の担当者が明かす「壁」

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新規事業を生み出すための仕掛けとして、アクセラレーションプログラムや新規事業提案制度などを採用している企業も多いでしょう。

私たちGOB Incubation Partnersも、そうした企業のパートナーとして、制度の設計から現場での運営まで伴走しています。

こうした制度の運用のねらいは、企業によってさまざまです。経営環境の変化を受けて、既存事業ではなく新規事業に活路を求める企業もあれば、新規事業の立ち上げに取り組む中で未来の経営人材を育てたい、社員のモチベーションアップを図りたいと考えている企業もあります。

その企業の風土や、それまでの新規事業開発の経験、コストなどによって制度の設計も異なりますし、企業ごとに事業を立ち上げたい領域もまちまちです。

しかし、私たちGOBが年間300件以上の新規事業の現場に立ち会う中でわかってきたのは、規模や狙いが違っても、課題を抱えるポイントはほとんどの企業で同じだということです。

そこで、2022年11月、私たちが日ごろ、ともに新規事業開発の制度づくりをしている企業の担当者たちが一同に会し、それぞれの企業が直面している壁や、それをどう乗り越えようとしているのか、意見を交わしました。


秋田、大阪、広島など全国16社の新規事業制度の仕掛け人が河川敷に集まる

会場は、東京と神奈川の間、多摩川の河川敷。こういった、オフィスから離れた場所での「オフサイトミーティング」は、日ごろの社内での肩書きや立場から離れて、フラットに議論できるのが特徴です。

北は秋田から、南は香川まで、新幹線や飛行機で全国各地から参加者が集まりました。

当日は、ワールドカフェ形式で対話を重ねました。

4人1組のテーブル内で、テーマに沿って意見を交わした後、また別のテーブルへ移動。これを繰り返すことで、会全体の意見や視点を吸収できます。

審査基準の設定、経営層との合意、アイデアの応募促進……事務局あるある7選

ここからは、実際にワールドカフェで各テーブルがまとめていたメモや参加者の振り返りをもとに、多くの企業が抱えている課題を「事務局あるある」としてまとめて紹介します。

大きく「人」と「制度」の両面でそれぞれ課題を抱えているようです。7 つのあるあるを見ていきましょう。

あるある1:審査で重視すべきは事業の質? 起業家の熱意?

企業としてその新規事業に取り組むか否か、プログラムのどこかで審査をすることになります。この審査での評価基準についてどこを見るべきなのか悩んでいるという意見が多く聞かれました。

事業アイデアの質を偏重すると、もしかしたら社内の決裁は通りやすいかもしれません。一方で、アイデアが通り、本格的に新規事業として取り組むとなれば、事業の「起案者」は新規事業の「責任者」になり、ゆくゆくは「経営者」の立場を担って行くことになります。

そうなると、必ずしも100点の事業だからうまくいくわけではなく、相応の熱意がなければ事業の検証や経営を続けていくことは難しくなります。

とはいえ、熱意だけで事業が成立しないのもまたその通り。このあたりのバランスに苦慮している企業が多く見られました。

入り口としては、熱意を見つつ、事業としての質はプログラム内で高めていくという設計にしている企業が多いようです。

あるある2:社内から参加者が集まらない

1で見たように、前提として事業に対する熱意をもった人を見つけていかなければならないとすると、次に問題になるのは、「熱意のある参加者をどう集めるか」。多くの事務局が苦労しているポイントだと話していました。

話を聞いていると、特に制度立ち上げの初年度などは、社内全体への周知に加えて、例えば社内で有志のプロジェクトを進めているなど、熱量のある特定の社員に対して事務局側から直接声を掛けるケースも多いようです。

また社内の新規事業の機運を高めるために、本格的なアクセラレーションプログラムの前段階として、アイデアコンテストを開催することもあります。

ある企業ではコンテストに参加しやすくするための仕組みとして、お祭り感を重視した設計をしたそう。賞金をつけ、評価のプレッシャーを軽減するために役員も参加しないなど場の空気感を工夫したことで、数百件の応募が集まったとのことでした。

あるある3:熱意のある人だけに頼った運営だと、数年で応募が枯渇する

しかし、熱意のある人だけを対象としていくと、最初は順調に応募が集まるものの、数年でそれが枯渇してしまうという声も聞かれました。

事務局としては、熱意のある人をすくい上げつつも、参加者の裾野を広げていくための工夫も必要なようです。

例えばある企業の話では、「営業職」など直接顧客と向き合い、声を聞く機会が多い人の方が新規事業のアイデアが生まれやすいのかもしれない、といった声が上がっていました。またシステムエンジニアやデザイナーなど技術職の場合、参加の動機として、自己実現やそのためのスキルアップが先行しやすいとのこと。

それぞれ部署や職種に合わせて制度の打ち出し方を工夫することで、より参加の裾野を広げ、モチベーションを高めることができるかもしれません。

もちろん最終的には、新規事業を立ち上げていくための熱意があるかが問われますが、それだけではないライトな層を取り込んでいくことも同時に社内の機運を高めるためには重要なようです。

また制度が盛り上がって、次第に新規事業に対して前向きな会社であることを社内にも対外的にも打ちだせると、それが企業の魅力になり、新規事業に対してより積極的な人が自然と集まってくるという採用への好循環が生まれるのでは、といった議論もありました。

あるある4:生み出したい「新規事業像」があいまいなまま募集してしまい、審査が通らないアイデアが続出する

生み出したい新規事業像を明確にしないまま、場当たり的に制度を始めてしまった、という反省も聞かれました。

そもそも、新規事業を立ち上げたい背景は企業によってさまざまだと思います。ねらう事業領域や規模、既存事業とのシナジーなど重視する要素もそれに応じて変わってくるでしょう。

そうした点を明確にしないまま制度を先行させてしまうと、結果的に、最後の審査で、企業側が求める新規事業像とのズレが大きく、結果的に審査に通る事業が生まれないという失敗に陥ってしまうようです。

起案者たちが熱意をもって事業立ち上げを進めている様子を現場で見ているからこそ、こうした失敗に心を痛めている人が多かった印象です。

あるある5:経営層と現場の事務局との共通言語がない

4にもつながりますが、経営層と事務局側との認識にズレがあるために、新規事業がなかなか生まれていかないというケースも多いようです。

議論を聞いていると、事務局側が市場投入前のアイデアを見る場合、事業としての採算性やビジネスモデルよりも、顧客は誰か、その顧客がどんな課題を捉えているのか、といった事業の価値に関わる本質的な要素がそろっているか、その裏付けがあるかなどを重視しているそうです。

それに対して、例えば経営層の審査の基準が売り上げやスケーラビリティだとすると、当然審査を通りにくくなってしまいます。

どちらが正しいではなく、どちらも正しいからこそ、どのタイミングでどんな要素を審査するのか、共通理解を持っておくことが重要だと言えそうです。

ある企業では、「1年目の赤字は当然のものとして許容する」「3年目のタイミングでグループ会社にするかどうか判断する」といったルールをあらかじめ設定しておくことで、こうしたズレを解消して、新規事業を継続的に生み出そうとしているようです。

あるある6:自社のアセットへの理解や、社内の他部署との立ち回りが欠かせない

独立した起業家ではなく、社内で新規事業を立ち上げることのメリットの1つは、企業の持つアセットを使える点です。しかし、そもそも自社がどんなアセットを持っているのかをきちんと理解していなければ、うまく活かすことができません。

この点は、事務局側に求められる要素の1つとして上がっていました。

社内にどんな既存事業やリソースがあるのかをきちんと把握し、日ごろから他部署とも連携できるようなコミュニケーションを取っておくことで、新規事業を作る上での適切なサポートが可能になります。

あるある7:アクセラレーションプログラムの採択者、既存事業との兼務か、新規事業専任か

起案者のアイデアが通り、本格的に新規事業の立ち上げに従事しようとした時に問題になるのが、これです。

所属している既存事業の部署に籍を置いたまま、既存業務と新規事業の立ち上げを兼務するのか、あるいは完全に新規事業に専念するために部署を異動するのか。この点は企業によってまちまちでした。

前者の場合、起業家側からすると、どうしても既存業務の部署のメンバーに対して「迷惑をかけているのではないか」といった負債感を感じてしまうこともあるようで、事務局側からその部署へのフォローが必要だという意見が上がっていました。

一方で後者の場合、専念できるメリットはあるものの、結果的に事業が立ち上がらなかった場合のその後のキャリアのフォロー(元の部署に戻すのか、など)が重要になりそうです。なお、専念するか否かにかかわらず、新規事業開発の制度では、社員の評価やキャリア形成、人材の配置に関する議論が重要です。そのため、人事部とは普段から密なコミュニケーションが欠かせないという意見もありました。


今回の場では、企業の事務局の皆さんの口からは多くの課題や壁が出てきましたが、現場で耳を傾けていると、けっして後ろ向きな議論ではありませんでした。

それぞれが課題を再認識した上で、「ウチの会社ならこんなことができるかもしれない」「私はまずこんなことをやってみようと思う」などそれぞれの立場で、自分ごととして受け止めて、次のアクションを見据えていたように思います。

次回の開催に向けて、参加者からは「今回挙げられた課題を実際にどう超えていけばいいかを考えた」「より具体的な取り組みを共有したい」といった声が多く寄せられました。

次に皆さんと会うときに、それぞれどのように壁を超えたのか、積極的な意見が交わされるように、私たちも日々サポートを続けていきます。



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