美術大学で現代美術を学んだ僕が何故、小説を書いたか②
小説を公開する前の前書き②
最後の個展は
仙台にあるcafe モーツァルトアトリエにて。
テーマは「circle」
ぐるっと循環してまた戻るというコンセプト。
表現の手段はミクストメディアで
コラージュに加筆し
その他、異質なもので額を創りメインを収めた。
それとステンドグラスを作った。
作った、というよりは
デザインをして、作家さんに外注したもの。
もう一つは絵本。
正確にいうと、個展のためのエスキースだ。
スケッチブックという媒体が苦手で
(予備校時代の過剰な課題に対するトラウマ)
エスキースは絵本仕立ての真っ白な本に描くのが常だった。
それを展示した。
沢山の方が見に来て下さって
賑やかな1週間を過ごしたのを覚えている。
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最終日、ステンドグラスは完売。
ミクストの半立体作品はまだ売れてない。
そんな最中
背中に大きなリュックを背負った
バックパッカーが現れた。
僕より若い、男性だった。
僕の作品を一通り
丁寧に観て
最後にエスキースを開いた。
1ページ、1ページ。
丁寧に、まるで宝石を扱うような手つきで
1ページ、1ページ、
ゆっくり観た後に
その人は、僕にゆっくり近づいてきた。
僕の目を瞬きもせず見続けながら、
ゆっくり歩み、目の前で止まってこう言った。
「絵はともかく、文章が良いね」
何だか、サラッと失礼な事を言われた気持ちになって、僕の顔は瞬時に硬った。
そして、彼はドアを開けて外に出て行ってしまった。
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個展が終わり、
僕は売れたステンドを発送する準備をしながら
売れ残ったミクストを横目に眺めた。
実はこの個展で、ミクストが売れなかったら
絵は辞めると決めていた。
辞める、というか
対価を求めないと決めていた。
絵はボランティア。
それでいい。
しかし、最終日に見知らぬ人に言われた一言が心にひっかかっていた。
「絵はともかく、文章が良いね」
そのエスキースには
下絵だけでなく
自作のポエムが書いてあった。
それを元に作品を制作していたのだが
彼は、絵ではなく文章を評価した。
僕は、その後
絵は辞めたが
彼の言葉に導かれるように
文章を書き始めた。
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