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ソフトパワーの時代が到来している / Whose Story Wins?

"Soft power is coming to tech."

今回もテックメディア「The Generalist」から今後より重要度が増していくであろう「ソフトパワー」の記事をお届けします。

このソフトパワーという言葉を知っている人は多いと思います。
ソフトパワーは主に外交政策でよく使われる言葉で、こちらのサイトによると「国際政治において良い理念や文化によって相手を敬服させ、魅了することによって自分の望む方向に動かす力」のことを指します。

一方で対義語としてハードパワーがあり、これは軍事力や経済力のことを指します。

本記事では、このソフトパワーが近年特にテック企業にとって重要性を増してきているということを述べています。

これはなぜなのでしょうか。その背景や、マーケティングとソフトパワーの違いとは何なのでしょうか。 

今回の記事ではそんな問いへの回答と、ソフトパワーをうまく使っているStripeやa16z等の事例を交えて解説をしています。

米国だけに限らず日本でも同じことが言える話だと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。

原文はこちら。

The Generalistの設立者であり、著者であるMario GabrieleさんのTwitter ↓

本記事は著者の許可を得て翻訳するものです。
本記事は1万字強のボリュームとなっています。
僕のTwitterでは国内外のフィンテック情報を中心に毎日発信をしています。主戦場はTwitterですので、ぜひ覗いてみてください。

アンドレ・ミシュランは車の数が足りないという問題を知っていました。

国全体で3,000台、いやもっと少ないかもしれません。クレルモンフェランという比較的小さな町でビジネスを始めるにはとても足りません。

しかし、アンドレは弟のエドゥアールとともに革新的な人物でした。1886年に祖父が経営していたホースメーカーを引き継いで以来、二人は手際よくミシュランを復活させました。中でも、エドゥアールが発明した空気入りタイヤは自転車用から自動車用へと進化を遂げました。弟の発明は車輪の交換や修理を容易にし、現状を著しく改善するものでした。そしてこの発明は、新会社の基礎となったのです。

しかし「市場が小さすぎる」という問題がありました。自動車が少なく、しかもその自動車が十分に走っていないのです。

そこでアンドレは、自動車による旅行を促進するためのガイドブックを作ろうという先見の明と斜め上からの奇策を思いつきました。こうして1900年、『ミシュランガイド』は誕生しました。

ミシュランガイドは地図や自動車に関する情報を掲載した無料のガイドブックとしてスタートしましたが、その後文化や食に関する情報源としても活用されるようになりました。ミシュランガイドはタイヤ購入のきっかけとなるツーリングや、自分たちの価値観やアイデンティティにつながるストーリーを生み出すことに成功したのです。この点で、ミシュランはソフトパワーの最も純粋な例といえるでしょう。「力」や「お金」ではなく、「アイデア」で勝負したのです。

ハイテク産業の資本主義化、専門化が進めば進むほど、このような説得はより重要な意味を持つようになるかもしれません。今後10年間は、さまざまな規模の新興企業が自社の主力商品と並行してソフトパワーに関する取り組みを展開することが予想されます。そのような企業は販売網を構築するだけでなく、自社のビジネスを定義する物語を普及させることにも成功するはずです。それは、有形無形を問わず、広範囲に及ぶ効果をもたらすことができます

今回の記事では以下のことを探求していきます、

  • ソフトパワーの定義

  • ソフトパワーと従来のマーケティングの違い

  • ベンチャーキャピタルアセットクラスがソフトパワーの必要性を加速させる理由

  • Robinhood, Stripe, a16zなどの勝ち組

  • ソフトパワーの未来

1. ソフトパワー入門

国際情勢の中でジョセフ・ナイほど輝きを放つ人物はいません。ハーバード大学ケネディスクール元学長であるナイは冷戦後のパワーを明確に表現し、1990年のフォーリン・ポリシー誌上で彼は国家に開かれた新しい影響力の行使方法について述べ、「ソフトパワー」という言葉を作り上げました。

ナイの主張は基本的に、相互依存が進む世界では単独行動はしばしば不可能である、というものでした。軍事力や経済力といった 「ハードパワー」は、マルチノーダルな複雑性の前に衰退してしまったのです。

米国は依然として特定の国に対する影響力を持っているが、システム全体に対する影響力ははるかに小さい。米国は一方的に目的を達成できる立場にはないが、この状況は米国だけではない。すべての主要国は、世界政治におけるパワーの性質の変化に直面しなければならない。

ナイにとってこのアプローチには明確な代替案がありました。ハードパワーが強制力によって勝利するのであれば、ソフトパワーは影響力によって誘惑しようとするものです。ナイは後の演説でこの新しい力の源泉について明確に述べています。

ハードパワーは誘導(ニンジン)か脅迫(ムチ)に頼ることができる。しかし時には、具体的な脅しや見返りがなくても望む結果を得られることがある。このような間接的な力の行使は、"パワーの第2の顔 "と呼ばれることがある。ある国が世界政治において望む結果を得ることができるのは、他の国がその国の価値観を賞賛し、模範とし、その国の繁栄と開放性のレベルに憧れるからである。このソフトパワーは自国が望む結果を他国が望むように仕向けることであり、人々を強制するのではなく協力させるものである。

ナイはソフトパワーは外交政策だけでなく民間を含む非政府組織にも適用されると考えていました。企業は国家と同じようにハードパワーを行使することはなく、アップルはドアを蹴破ってiPhoneを買わせるようなことはしませんが、ソフトパワーは同じように機能するのです。

ビジネスの世界では、リーダーシップとは単に命令を下すことではなく模範を示して人を惹きつけることが重要であるということを賢い経営者は知っています。

この一節はナイにとって重要な違いを浮き彫りにしています。ソフトパワーとは人を惹きつけることである、ということです。

ソフトパワーとは説得力や議論によって人を動かす能力以上のものである。ソフト・パワーは人を惹きつける力でもあり、人を惹きつけると承諾に至ることが多い。行動学的に言えば、ソフトパワーとは魅力的な力のことである。ソフトパワーの資源とはそのような魅力を生み出す資産である。

このように説明すると、ソフトパワーをビジネスの文脈に置き換えることが容易になります。Twitterで企業のソフトパワーの例を挙げる際、よく言われることがあります。マーケティングとどう違うのか?

ここからは以下の問いに答えていきましょう。

「ミシュランガイドは単なるコンテンツマーケティングなのか?それとも、どこか違うのだろうか?」

2. マーケティングとの違い

スーザン・ソンタグは『反解釈』の中で、現代の解釈学が芸術に対する我々の理解を破壊していると論じています。作品の物理性や構造といった「形」に取り組むのではなく、「内容」に執着するようになったのです。その結果、私たちは純粋にアートを見ることができなくなり、その代わりに短絡的な解釈や理論によって曇らされた視覚に頼るようになったのです。

ソフトパワーと伝統的なマーケティングを区別するためには、コンテンツとフォームの両方を見る必要があります。

2.1 コンテンツ

まず、コンテンツから説明しましょう。「魅力的な力」というコンセプトはここで差別化を図るのに役立ちます。ナイはインターネット時代を見据え、「情報化時代の政治は、最終的に誰のストーリーが勝つかということかもしれない」と述べています。

ナイはここで政治について語っていますが、これはソフトパワーとマーケティングの内容を曖昧にしないためのソフトパワーの性格を暗示しています。その違いはピッチとストーリーの間の距離にほぼ等しいでしょう。

定義によれば、マーケティングのコンテンツは何かを売ろうとするものです。文章は台本通りであり、特定の結果を生むように作られており、その内容は「あなたはこれをやってくれますか」という要求をするものです。言語が求めるのは明確な目的なのです。例えば、ミシュランのマーケティング・コンテンツはこのようなものです。


これは製品に焦点を当て、その利点を説き、購入に向かわせようとするものです。

ソフトパワーはもっと穏やかに、ストーリーのように作用します。聞き手に対して明確な要求をしないため、結果的にオープンな状態になります。
ソフトパワーの内容は、より象徴的、隠喩的で、ストーリーを通して価値や規範を強制します。上記のマーケティングとは対照的にミシュランガイドは微妙に作用する。タイヤに関する言及はほとんどなく、ガイドと親会社を結びつけることなく、多くのガイドを閲覧することが可能なのです。

ミシュランガイドのコンテンツは特定の結果を導くというよりも、親会社のストーリー、世界観を後押しするものなのです。それは、「世界は思っているより狭い。魔法は手の届くところにある。そのストーリーが浸透すれば、ミシュランのタイヤが似合う、クルマを運転する旅行者になるかもしれない。」というものです。

時折境界線があいまいになることがありますが、マーケティングとソフトパワーは根本的に異なるタイプのコンテンツに依存しています。一方はセールスであり、他方はストーリーなのです。

2.2 フォーム

マーケティングとソフトパワーの取り組みはフォームに関しても異なります。それぞれ異なる手段を必要とする場合があります。

マーケティングは特定の結果を導くことを目的としているため、企業と密接に結びついた方が良い場合が多いです。特定の時間軸で購読者や商業的な問い合わせを最適化しようとするなら、企業のブログページでコンテンツマーケティングを展開することが理にかなっているかもしれません。コンテンツから商取引へのファネルを作り、時間をかけて改善することができるのです。同様に、マーケティング施策は企業によって明示的にブランディングされた場合に最も意味を持つ場合があります。ブランドの認知度やWebサイトの訪問数を優先する場合は可視性が望ましいと言えます。

私たちは通常、売り込まれていることを感じるマーケティングをあまり好ましく思っていません。その点ソフトパワーの取り組みはビジネスの中心とと直交し、特定の結果を導くことに無関心であるように見える場合に最も効果的かもしれません。書籍やショートフィルムは、現代のデジタルマーケティングとはかけ離れているため、具体的なROIを生み出す試みとして真剣に受け止めることは難しいでしょう。そのため、ソフトパワーのプレイを行うには完璧で無防備な手段なのです。

以上のように、ソフトパワーの定義は、マーケティングとは一線を画しています。それは、魅力的なストーリー(コンテンツ)と間接的な手段(フォーム)の組み合わせなのです。

さらに言えば、ソフトパワーはより長い時間軸で活動し、無形の価値創造を追求するものであると言えます。そのため、「わざわざやる価値があるのか」という新たな疑問が生まれます。

3. なぜわざわざ?

ソフトパワーは、複雑で、労力がかかり、結果が不確実であるため、最も魅力的な取り組みとは言い難いでしょう。ではなぜソフトパワーにこだわるのだろうか。

3.1 失われつつある優位性

実は企業にとってソフトパワーよりも有用な手法はかなり少なくなっています。それはかつて新興企業が頼りにしていた4つの戦略的優位性が損なわれているためだと考えられます。

  • 資金調達が可能になったことで資本の優位性が弱まった

  • スタートアップの人気と知識の充実により先行者利益が薄れている

  • パフォーマンス・マーケティングの合理化により、買収の優位性が損なわれている

  • ソーシャルチャネルのノイズが流通の優位性を阻害している

近年、資金が以前より入手しやすくなり、資本の優位性を築くことが難しくなりました。その原因はベンチャー・キャピタルの資産クラスが拡大したことにあります。2008年、投資家は新興企業にわずか530億ドルしか投資しませんでしたが、2020年には3,000億ドルに達します。そのため、似たような事業が比較的短期間に巨額の資金を蓄積する環境が整いました

Brex(調達額12億ドル)は早くからスタートアップに信用を与えていましたが、Ramp(3億1000万ドル)、Rho(1億2000万ドル)などがすぐに追撃してきました。かつては数億ドルという金額は揺るぎないものに見えましたが、今は単なる検証でしかありません。

近年先行者の優位性が薄れているのは確かです。技術の普及に伴い、業界の情報や偏狭な知恵が広まりました。そのため、意欲的な起業家は市場でエキサイティングなビジネス・アイデアを特定し、既存のプレイブックを活用して素早く追随することが容易になったのです。例えば、GPT-3のリリースから1年以内にCopy.aiやCopysmithを筆頭にAIコピーライティングツールが相次いで登場しました。

スタートアップは厳しい戦いに直面すると、しばしば買収にリソースを振り向ます。しかしここでも競争の激化は避けられません。かつてFacebookやInstagramのマーケティングは比較的未開拓のチャネルであり、それを使いこなす者には特に大きな報酬がもたらされていましたが、今や世界がそれに追いついています。どの企業もキャンペーンを実施し最適化するためのパフォーマンス・マーケティングの専門家を雇う余裕があり、競合他社を凌駕することはますます難しくなっています

広告業界に関するフォレスター社レポートの著者が指摘するように、

オーディエンスにリーチするのは難しく、マーケティングコストは上昇し、チャネルの数は指数関数的に増殖し、それらすべてのチャネルをカバーするためのコストは増殖しています。

コストの上昇と競争により一部の企業はソーシャルディストリビューションの構築に目を向けています。有料マーケティングに頼るのではなく、企業はオーガニックなフォロワーを構築しようとするのです。これはTwitterやTikTokなど、特定のチャネルの範囲内で行われるコンテンツマーケティングの一形態です。特にTikTokのような新しいプラットフォームでは正確な公式がないため、これらのプラットフォームのノイズはそれ自体が問題を提起しています。広告費はある程度の可視性を保証しますが、オーガニックなソーシャル投稿にはそのような約束はありません。企業はしばしば、より明るく、より面白く、より信頼できる声の海の中で自分自身を見失うことになります

3.2 物語と磁力

しかし、ソフトパワーを単に最後の手段とするのは誤解を招きかねません。従来の優位性は失われつつありますが、ソフトパワーを発揮することは、その健全性に関係なくチャンスとなるのです。

なぜなら、魅力的なストーリーを持つ企業は一種の磁力を持つからです。その世界観を(ドーキンズ的な意味で)フレーズやミームに凝縮することで、企業は永続的なマインドシェアを獲得し、運命や神話の感覚を作り上げることができるのです。

例えばStripeを考えてみましょう。最初に思い浮かぶフレーズは何でしょうか。

「インターネットのGDPを増大させる」といったところでしょうか。このようなストーリーを持つ決済企業がどれほどあるでしょうか。このフレーズは、Stripeのソフトパワー戦略に基づく、より大きなストーリーの一部です。(これについては後ほど説明します。)

この1つの表現がもたらした効果とは何だったのでしょうか。

もちろん、それなしでもStripeは成功しています。そのビジネスにはキャッチフレーズよりもはるかに多くのものがあるのです。しかしこのような表現によって、企業の軌道を微妙に変化させることができると私は考えています。投資家(製品の複雑さを単純化し、インターネットに対する珍しい正確な見方を明示)、人材(取り組む価値があると感じられる望ましいミッションを推進)、そして幅広いエコシステム(単なる決済会社ではないことを示す)にとってこれは魅力的な物語となるのです。

もちろんこれは全く証明不可能なことで、少し不快な議論です。しかし、この言葉、そしてStripeが語るその他のストーリーが、ほんの数パーセントでも採用を簡素化し、数人の重要な投資家を納得させることができたなら、それは並外れたインパクトを与えることでしょう。ナイはこう述べています。

国家はその権力を他者の目に正当なものと思わせることができれば、自らの意思に対する抵抗を少なくすることができる。

結局のところソフトパワーとは、目の前の地形を平滑化し車輪に油を差すようなものなのです。今日に至るまでそれをマスターしている者はほとんどいません。

4. 現代の巨匠たち

ここまででソフトパワーとインパクトの構図が確立されました。では、なぜこの技術を習得しているテック企業が少ないのでしょうか。

ソフトパワーは微妙なダンスであり、スキルと忍耐を必要とします。多くの企業はより緊急性の高い優先事項で頭がいっぱいになっているかもしれません。また、その重要性について説得を必要とする人もいます。時間と意志がある人でも良いストーリーを思いつくのに苦労し、そのメッセージに適した手段を開発するのも同様に困難です。

このような状況の中で3つの組織が現代の巨匠として際立っています。Robinhood, a16z、そしてStripeです。それぞれ、わかりやすいストーリーとそれを共有するための強力な手段を持っています。

これらの企業のストーリーについての考察はあくまでも私の解釈であることをお断りしておきます。公開されている資料や位置づけを確認しながら作成したものですが、決して決定的なものではありません。 詳しい方であれば私の表現に磨きをかけることができるかもしれませんのでぜひご教示ください。

4.1 Robinhood

IPOを目前に控え、Robinhoodのソフトパワーの実力がより鮮明になりました。同社は自分たちがソーシャルアプリなのかフィンテック企業なのか分からないかもしれないが、明確な世界観を持っており、それを表現するのに適した形を見つけました。

Robinhoodが伝えたいストーリーはこうです。

資本主義はすべての人のためにある。あなたが誰であろうと、市場に参加し、その過程で楽しい時間を過ごすことができるはずです。

Snacksはこのストーリーのための優れた手段であることが証明されています。2019年にメディア企業を買収した後、はその視聴者を拡大し、3200万人の購読者に到達しました。Snacksのポッドキャストホストのウィットに富んだ遊び心のあるおしゃべりはビジネス問題への関心を抱かせますが、直接的な売り込みはしません。(規制上の制約もありますが)
その代わり、スナックは参加型資本主義の福音を広めています。ミシュランガイドが「世界は思ったより狭い」という親会社のメッセージを強化してタイヤの販売を促したように、Snacksは市場の一部になることが楽しいということを示し、投資を促しているのだ。

4.2 a16z

ベンチャーキャピタルはブランディングやコンテンツマーケティングに多くの時間と資金を費やしていますが、明確な哲学を持ったものは珍しくありません。多くのウェブサイトが、どのような創業者を求めているか、どのような支援を提供しているかといった情報で飾られています。しかしベンチャーキャピタルが世界について何を信じているのかを明確にするのは珍しいことです。(論文主導のファンドがそれに近いこともあるが、これらは大抵、上位の存在論を開示するというより、商機を図式化したものです。)

a16zは魅力的で明確なストーリーを持つ稀有なベンチャーキャピタルです。彼らはこう信じています。

テクノロジーは良いものだ。起業家精神とイノベーションが世界を動かし、それを構築する者は高く評価される。

これは多くの組織が主張したいと思うような、シンプルで力強いメッセージです。a16zはその素晴らしい評判とストーリーテリングの才能によって、このメッセージを効果的に「自分たちのもの」にしています。「Software is eating the world」と「It's time to build」はその簡潔さが見事で、どちらも技術楽観主義の超大作に食い込み、a16zをこの物語に絡めています。

同社は、ポッドキャスト、ビデオ、ライブショー(ポートフォリオ会社のクラブハウスを通じて)、優れたコンテンツを制作する部門を有しています。しかし、a16zがそのストーリーの最適な解釈者を見つけたのは新たに設立したメディア部門であるFutureかもしれません。この名前(とドメイン:future.com)はテックが未来を驚異的にすることができるというa16zの信念体系を表しています。他のメディアが業界の欠点に焦点を当てることが多い中、Futureは業界の最も価値ある仕事を取り上げています。これは、パングロス的な素朴さではなく、思慮深く明確な言葉で表現され、キュレーションされています。a16zとの直接のつながりはほとんどなく、このサイトは文章そのものに焦点を当てています。

4.3 Stripe

最後にStripeについてです。私たちの取材で述べたように、Stripeはソフトパワーの最も冒険的な解釈者の一人でしょう。Robinhoodやa16zのように、このフィンテック企業には「進歩は偶然ではない」というストーリーがあります。進歩は偶然の産物ではなく、偉大な建築家や思想家の努力の積み重ねが人類を動かしているのです。

これは、「Increasing the GDP of the internet」「Ideas for progress」など、印象的なポジショニングに凝縮されています。このストーリーに関連する価値を3つの手段で発信しています。それは、Increment magazine, Stripe Press, そしてIndie Hackersです

ここで一番マーケティング感が強いのはIncrementです。ソフトウェアを作るためのデジタルと実際の雑誌を持ち、美しく作られていますがStripeの環境に近すぎるように思えます。その実用性において、造形的な世界をあまり明確に呼び起こすこともありません。Stripeとのつながりがほとんどないものの、コンテンツマーケティングのように感じられます。

Stripe Pressはその直接的な関連性とは裏腹にまったく別の感覚を呼び起こします。それはフォームがソフトパワーに影響を与えるという例です。実際の物理的な本に焦点を当て、愛情を込めて文学的に扱うことで、Stripeはこのプロジェクトが「マーケティング」の世界の外に位置するものであることを示します。むしろここはStripeのイデオロギー的な親和性を示し、哲学的な位置づけを強化する場でもあるのです。

Indie Hackers(IH)はStripeのソフトパワー構築の最後のピースです。同社はほとんどの製品を社内で作り上げましたが、2017年にIHを買収しました。パトリック・コリソンの買収の根拠はおなじみのロジックと呼応しています。

Indie Hackersを買収した目的は単純にこのサイトが可能な限り成功するようにすることです。私たちが期待しているStripeのアップサイドは、より多くの企業が起業し、より成功することです。私たちはすでに新しいインターネット企業のうち非常に多くの企業がStripeを選択していると見ています。Indie Hackersは私たちの割合を増やすというよりも、全体の数を増やすのに役立つことを主に期待しています。
(私たちの製品は、後者の役割を果たす必要があります。)

ミシュラン兄弟が自動車の利用率を上げるためにガイドを発売したように、StripeがIHを取り込んだのは市場の拡大を狙ったものです。

IHは4年経った今も独立性を保ち、Stripeの慈悲深いオーナーシップはこの会社にとって大切なのは何よりも前進であることを思い出させてくれるのです。

5. ストーリーテリングの不足への対処

企業はソフトパワーの不足にどう対処すればよいのでしょうか。その答えはクリエイターエコノミーから得られるかもしれません。

このニュースレターをご覧の方はご存じだと思いますが、ここ数年、メディアのアンバンドリングが進んでいます。Substackのようなプラットフォームは従来のメディアから才能ある人材を引き抜き、新しい世代のクリエイターを生み出しました。その結果多くの人が自分の能力で収入を得ることができるようになったのですが、これは厄介なビジネスです。Dave Nemetzが強調するように、この世界で成功するには、「創造性」、「オーディエンスの構築」、「オペレーショナル・エクセレンス」が混在している必要があるのです。

この業界は才能に溢れていますが,その多くは縛られることなくその場その場で実行することを学び,芸術的表現と並行してインフラをダクトテープでくっつけようとしているのです。その結果、クリエイターが消費者の注目を集めるために競い合う、分断されたセミプロ化したエコシステムが出来上がっています。しかし、多くの優秀なクリエイターはより成熟したビジネスによってサポートされることが最も効果的であると感じていることでしょう。

一つの解決策は買収によってストーリーテリングの能力を補強することかもしれません

開発者がコードの弱点を補修するように、企業はM&Aを通じて不足している部分を補うことができます。クリエイターには安全性と流動性を、企業にはソフトパワーを提供することができるのです。

またここでは、テック企業の方がレガシーなメディア企業よりも多くの点で理にかなっているかもしれません。

ひとつにはテック企業の方が買収しやすい立場にあることが挙げられます。多くの企業は間違いなく資本過剰であり、資金を有効に活用するクリエイティブな方法を模索しています。例えば、Brexは3億8000万ドルを調達した後、サンフランシスコのレストランを購入しました。

次にクリエイターの能力を最も必要としているのは、間違いなくテック企業であるということです。メディア・コングロマリットはすでに配給と物語の能力を持っていますが、我々が確立したようにこれは他のビジネスではかなり稀なことなのです。ソフトパワーに関する取り組みを社内で行い、見事なまでの繊細さをもって運営する企業もありますが、それはかなり難しいことです。SnacksやIHがうまく機能している理由のひとつはこの微妙な距離感にあるのです。

こうしたクリエイター企業の評価は特に難しいかもしれません。伝統的な指標を見ることも一つのアプローチですが、バイヤーが自問するのは、「これが既存のビジネスにどのような影響を与えるのか」ということです。ソフトパワーが無形であることを考えると、この問いに答えるのは困難であり、むしろ特異なものです。しかし、マイナス面だけを見るのは愚かなことで絵しょう。よりクリーンな物語と内蔵された配信は、ビジネスの磁場をどのように変えるでしょうか?

RobinhoodやStripe以外にもこのような賭けに出ている企業はあります。

2020年、マーケティングソフトウェア会社のHubspotは2700万ドルでThe Hustleを買収し、同名のニュースレター、プレミアムリサーチTrends、ポッドキャストMy First Millionを傘下に収めたと報じられています。

Barstool Sportsの売却も同様です。最初にChernin Groupに株式の過半数を売却した後、BarstoolはPenn National Gamingに36%を売却し、2023年までに所有権を50%に増やしました。

どちらも物語を作る能力と流通を追加する、精通したパッチのように見えます。このような取引はこれが最後ではないでしょう。

特に結果が大きく変動するコモディティ化した分野で事業を行う企業は、ソフトパワー・パッチが重要であると考えるかもしれない。もちろんベンチャー・キャピタルはこれに該当します。差別化されていないファンドがひしめく中、ストーリーテリングに定評のある企業が参加することは、どれだけ画期的なことでしょうか。Acquired Podcast, Out of Pocket, Not Boring, Lenny's Newsletter, Visualize Valueなどのクリエイタービジネスが加わることでディール獲得にどんな効果があるでしょうか?1つの素晴らしいディールを勝ち取ることが、資金を何倍にもして返すような記念碑的な結果になり得るとき、全面的に、数パーセントの確率を上げる事業の価値は何でしょうか?

(これは、上記のクリエイター企業の売却可能性についてのコメントではなく、多くの人が売却したくないと思っているはずです。ただ、彼らは優れた仕事をし、明らかにソフトパワーの価値を持っているということです。)

このように考えると、ストーリーレスであることの解決策はストーリーテラーを買うことであることは明らかです。

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「パワーは愛と同じで、定義したり測ったりするよりも経験する方が簡単だが、その分リアルであることに変わりはない。」

この言葉は、ナイが指摘した「ソフトパワー」という種類の影響力に特に当てはまるでしょう。軍事力や経済力が明白な形で現れる一方で、物語や価値観、共有された信念はどうしようもなく非物質的なものです。しかし、ナイ自身が述べているように、だからといって現実味が乏しいということはありません。結局のところ、ソフトパワーはパワーであることに変わりはないのです。

テック企業や資本家は、競争が激化し不協和音が飛び交う環境の中で、支配力を行使するためには巧妙な手段で管理することが最善であることに気づくかもしれません。そうなると、a16zのような巨匠を見習い社内でオペレーションを構築したり、RobinhoodやStripeのような企業に倣って、買収によってストーリーテリングの能力を高める企業が増えるかもしれません。

ほとんど目に見えないかもしれませんが、ソフトパワーの時代が到来しており、そしてそれは発見されずに終わる方が良いのです。

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