ナッジ研究者が見たニュース⑦:少年野球は必ず衰退?
慶應義塾高校野球部監督 森林貴彦監督による少年野球の記事が興味深いです(※少年・少女を区別する意図はありませんが、記事に従い「少年」と表記しています)。
私は少年野球現場の実態を知らないです。ただ、行動経済学的な観点から問題を見ることはできます。“監督の一生懸命さ”と“選手たちの感情”との間に生じたズレの要因を紐解く一助になると幸いです。
【記事の要約】少子化の中、少年野球を続けるコスト(時間や労力、身体への負担)がかさみ、これに対して少年野球全体が旧態依然としている部分も根強いです。一方で他の競技は魅力を高める努力をし、「このままでは少年野球は衰退する」と森林監督は憂いています。
怒りのパワーで勝つ?
記事の中から、特に興味深いものを紹介します。
【引用】野球はミスが付き物なのに、ミスを叱られる。実際、賢明な親は「子どもに野球はやらせない」という選択を始めています。
そもそも野球はミスが付き物のスポーツであるにもかかわらず、空振り三振をしたら「黙ってそのまま立っていればボールなのに、なぜ振るんだ!」と叱られたり、逆に見逃し三振をしたら、それはそれで叱られたりと、そんな場面を目の当たりにすれば、野球を敬遠して当然でしょう。
私も、少年野球の指導者の話を聞いたことがあります。「凡打に終わった選手を厳しく叱責し、その怒りのパワーで集中力を高めさせる。経験上、厳しい指導をした後にはヒットが出ることが多い」…確かにその可能性も否定できませんが、多くの場合は統計学でいう「平均への回帰(凡打の後はヒットが出やすい傾向)」と考えられます。
「野球を統計学で語ることはできない」という意見をいただきそうです。これに対しては「その通り。監督が叱責しなければ、ヒットではなくホームランだった可能性もあった」とお答えしたいです。
「怒りのパワー」について。確かにキン肉マンの「火事場のくそ力」のように、怒りによって瞬間的に力が発揮されることは否定しません。ただし、野球のようにメンタルが重視される競技では、怒りによってパフォーマンスが低下することが研究によって明らかになっています。
私がこの話をすると「1989年の巨人vs近鉄の日本シリーズで、近鉄が3連勝し、加藤哲郎投手が"巨人は(パリーグ最下位の)ロッテよりも弱い"と発言したら、それに怒った巨人が怒涛の4連勝したという伝説がある」という反論をいただきました。
注意が必要なのは「加藤投手の発言に、眠れる獅子が奮起し、大逆転に繋がった」というストーリーはドラマ性があり、よく取り上げられます。が、「加藤発言→怒り→奮起→勝利」の因果関係は巨人軍の選手も否定しています。巨人軍は怒りを抑えたことで、日本シリーズ制覇できたかもしれません。
最後に
私はエビデンスが全てだと思いませんし、現場での経験則も重視されるべきだと考えます。しかし、監督の一生懸命さと選手たちの感情との間にあるズレはもはや看過できず、その解決策にはエビデンスが重要になってきます。
私はこれから、「現場で頑張っている人たちがエビデンスをとり入れたくなるようなナッジ」を開発していきたいです。
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