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コロナとバイアス②:結果を知ってから「前からそう思ってた」(後知恵バイアス)

登場人物 ドクター紅(くれない):ナッジの魅力に気付いた公衆衛生医師。竹林博士:ナッジの面白さを伝えるのが大好きな研究者。

竹林:感染症発生の記事が出ると、SNSでは「自覚が足りない」「なぜこの日、外出したの?」という説教的なコメントがつくこと、ありますよね。

紅:人間、正論を説得的に言うのが大好きで、弱っている相手は格好のターゲットですよねー。

竹林:でも、SNSでの説教コメントが感染予防の邪魔になっている可能性が高いです。

紅:わかる気がします。終わってから正論を言っても、相手は「ごめんなさい」以外言えませんし、あまり生産性がないケースも多いですよね。

竹林:終わってから「実は最初から自分はそうだと思っていた」と考える心理を「後知恵バイアス」と言います。

竹林:感染症の場合、隠蔽したのならともかく、せっかく包み隠さず話したことが批判の対象になると、話した本人だけでなく周りも「正直に話すとバカを見る」「なかったことにした方が得」と受け取ってしまい、社会全体の損失になります。

紅:包み隠さずと言えば、竹林博士は、以前は失敗した研究も学会発表していましたよね。

竹林:そうなのです。失敗した研究を公表するのは恥ずかしいですが、「皆様には同じ過ちを繰り返してほしくない」という一心で、できる限り真摯に伝えようと発表しました。フロアとのディスカッションで、「なぜ設計段階で失敗を予想できなかったんですか?」って質問をされたときには、「あなたは後知恵バイアスの人ですね」と答えたくなりました(笑)。

紅:言わなくてよかったですね(笑)。

竹林:相手に対して説教したいと思ったら、「これはバイアスの仕業かも」と立ち止まってみるのがいいですね。特に「最初からダメだと思ってた」「自業自得」などと言ってしまうと、相手のモチベーションを下げ、社会全体のチャレンジ精神も奪ってしまいます。批判は誰でもでき、それよりも、正直に失敗を認めた勇気を褒めた方がずっといいです。

紅:ナッジで後知恵バイアスに対抗できませんか?

竹林:例えば「相手に直接説教するときは、2分以内」とルールを決めて宣言してはいかがでしょうか?

紅:コミットメントするんですね。

竹林:時間制限することで、説教する側は事前に要点を整理できて冷静になれるので、バイアスの影響を小さくでき、再発防止に役立つ内容に特化できます。また、怒られる側も「2分以内なので、真剣に聞いてみよう」というスタンスが出てきます。

紅:なるほど。それはいいですね。組織全体で行えば、パワハラ予防にもなりそうです。

竹林:私たちはバイアスの影響から抜けきれませんが、バイアスを知ることで仲良く付き合うことができます。バイアスと向き合うのが行動経済学。だから、私は行動経済学をあなたにお勧めするのです。

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さらに学びたい方は「ファスト&スロー」(カーネマン)がお勧めです。


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