お絵かきをやめて

 寝て起きたら、俺は子供が描いたクレヨン絵みたいな世界にいた。
 助けて欲しい!
 ここはどこ、というか何なんだこれは!?
 誰か、俺が見えるか?
 この声が聞こえたら返事をしてくれ。
 誰かいないか?これはいつ終わる?

 断じて俺はドラッグなんて手を出してないし、心の病気も患っちゃいない。
 いや、ひょっとしたら俺の精神はもう壊れてしまったのか?今は自信がない。
 とにかく視界の全てがクレヨン画で、自分の身体もクレヨンで描かれた歪な三頭身だ。
 黒眼だけの丸い目に、ひらがなの『し』の様な鼻。三日月型の口。
 手足はかなり短く、指は4本で関節は無い。
 箱の様な胴体に赤い服。青いズボン。だ円形の足先。
……そして今の俺は三次元の存在じゃない。
 絵の中なのか、アニメやゲームの中なのか、わからないが、ここは二次元だ。
 うー……どう言えばいいんだか……
 二次元、で、俺は画面?の中にいる自分の姿を、部屋ごと自分で眺めているかの様な物の見え方をしている。
 わからないかもしれないが、わかって欲しい。
 わからない、のは俺の方で、もう気が狂いそうだ!!
 虚無的に真っ白い画用紙の様な空間。
 そこに黒線で描かれたベッドと、チューリップの花壇。そして扉がある。
 そこで短い手足をバタバタと動かし、口をパクパクと開けている落書き存在が俺!
 ビデオ映像の出力を脳に直接当てられているかの様な感覚と言えばわかるだろうか?
 わかったら、もう助けてくれ!!

――助けは来ないらしい。
 ここに居ても仕方がないので、俺は扉を開けて外に出る。
 モクモクの雲、三角屋根の家々、巨大な蝶、ニコニコ顔の太陽……
 子供が描く風景だ。
「あーー!!」
 俺は叫んだ。無心になる為、狂ってしまわぬ様、必死に叫んだ。
 これはなんだ?
 悪夢か?
 だが意識はハッキリしているし、夢ならば何故醒めない!?
 醒めない悪夢なのだとしたら、完全に俺は気が狂ってしまったのか!?
「なら病院だ!」
 俺はこのクレヨン世界で精神科を探す事にした。

【続く】

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