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【引越しツバキ 6】

あれからも桂介はSNSとゲームを続けている。
桂介は複数人でパーティを組めるオンラインゲームを始めていた。
SNSで友達を増やし、一緒にプレイする日々。

椿が帰宅すると、ゲーム画面に向かい合う桂介がいるリビング。
「待ってたよ、ご飯今から作るね。」
桂介の中で優先順位は変化していた。
家事よりもゲームを優先している桂介に、違和感を感じる椿。

食事を終えると、桂介は再びゲーム画面の映るTVの前に座り…
「ちょっと通話するね。」
そう言って、イヤホン越しに会話を始める桂介。
椿は独りの時間が増え、桂介との会話は至極へった。
2人で過ごす独りのリビングに、話声は1人ぶん――

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「疲れたぁ…」
帰りの電車を待ちながら、椿は暇潰しにSNSを開いた。
椿も桂介と同じSNSを桂介と同じタイミングで初めてはいた、しかし写真もそんなに撮ることもなく、たまに面白い投稿にコメントをする程度だった。
なにげなく開いたSNSで桂介の投稿を見つける。
『なんか、今日は体調が良くないな…』
桂介から連絡が来ていないか急いでLIMEを開くが、何も連絡はなかった。
椿は――怒った。

SNSで旦那の体調不良を知る。
『桂さん、体調悪いの?大丈夫?』
今は桂介の体調はどうなのか心配でもあったが、LIMEを送る椿の内心は怒りがこみ沸々と上げていた――

『うん、ちょっと頭痛がひどくて…横になってた』
『薬箱の頭痛薬はのんだ?我慢しないで飲んでから、横になった方がいいよ』
『薬は飲んでないから、飲むよ。ありがとう。』

すぐに横になるくらいに酷い頭痛なのだろうかと心配もしたが、椿の怒りは次第に虚しさを帯びていた。
なぜ、私に連絡をしてくれないのか。私には知らせる必要がないのか。
そう思った椿は、ホームについた電車のドアがいつも通りに開くと、重い足取りで車両へと乗り込んだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

帰宅した椿を、リビングのソファで横になって迎える桂介。
荷物を置いてソファの横に膝をつき、椿は桂介の額に手をあてた…熱はなく、薬が効いてか楽になってきたと眉をしかめながら話す桂介に、椿は安堵した。
十二指腸潰瘍は仕事を辞めて回復はしていたが、やはり少しでも体調がすぐれないと言う桂介の体調は心配になる。
「明日も痛みが続くようなら、病院に行ってみてね?」
そう言って、椿は立ち上がると夕飯の支度を始めた。

「ご飯用意できなくて、ごめんね。」
「それはいいんだけどさ…」
椿は言葉に詰まる。しかし、今言わなければいけないと思い言葉を続けた。
「…私、体調が悪いのSNSで知ったんだよね。なんで、連絡してくれなかったの?」
「いや、SNSで先に言っちゃったけど…ちゃんと椿にもあの後に、連絡するつもりだったよ。」

本当にその行動をとるつもりだったのかと、椿は桂介を疑った。

#小説 #恋愛 #創作 #SNS依存症 #オムニバス #ゲーム依存症

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