【夜のハルジオン 1】
紫苑(しおん)の夜は長い。
母と2人暮らしの紫苑は、男女問わず友達が多い。
ただ、顔を知らない友達もいる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
紫苑は26歳。仕事を転々としていたが、今は派遣社員として働きつつ、趣味も楽しんでいた。
趣味はゲーム。
1人でやる事もあるが、大半はオンラインやマルチプレイが出来るものだ。
母は、紫苑の趣味に理解がある。
だから、通話しながらゲームをする紫苑を咎めないし、楽しいならいいよと言う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日までは仕事があって、楽しく遊んでいられれば充分だった紫苑。
ただ、歳を重ねるごとに変化があった。
親を安心させる為にも、自分の将来に向き合って考えなくては。
紫苑は恋愛に興味が無かった。
趣味を楽しめたから、充実したプライベートを過ごせていたのだ。
通話しながらするゲームは楽しい。
男のゲーム友達もいたが、恋愛感情はなく、ただの友達として接していた。
それを分かっているので、紫苑の男友達たちは紫苑に恋愛感情が芽生えようと、ひた隠しにした。
紫苑にも彼氏がいた事はある。
それは高校生の頃に、同級生とだった。
きっかけなんて単純で、好きな物が一緒だったから。
『恋人』として、経験するような事は彼と、一通り経験したが、進路が違った事もあり次第に上手くいかなくなり、彼とは別れた……
こんな、青い恋愛しか知らない紫苑は、恋愛に臆病になっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
紫苑は今日も遊ぶ。
いつも、何かしらの高難易度コンテンツか、レベリングコンテンツをする紫苑。
1人でやる事もあるが、この日は仲間内のグループチャットで呼びかけてみた。
「ヒマな方いたら、一緒に行きませんか~?」
オンラインになっているメンバーは10人くらいで、誰か1人引っかかったらいい……その程度の気持ちだった。
「はーい!ご一緒したいです!ノ」
数分して、チャットに反応があったのは『ユキ』だった。
「ありがとう~!」と、チャットを打ち返すとパーティに誘い、コンテンツを一緒にやる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユキは、ゲームは勿論だが、紫苑のSNSでも繋がりがあった。
淡々とコンテンツを周回していると、高速道路の運転の様で飽きもくれば、集中力も削られていた……
「ね、眠くなるw ユキさんが良ければ通話する?」
チャットに紫苑がそう書くと、ユキも「いいですよ!」と、返事が返ってきた。
通話アプリのIDを交換すると、紫苑はユキにコールする。
「もしもし?」
ユキの低くも、高くもない男の子の声が、紫苑のイヤホンから響いた。
これが、2人の関係を濃くするきっかけとなった。
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