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サッカード素人の相模原市民が山口で雨に打たれ敗戦を見て、諦めの悪さを覚えた話

5月15日、J2第14節、山口県維新みらいふスタジアム。

土砂降りの雨に打たれながら覚えたのは、「諦めの悪さ」だった。




風がそれほど無かった分、このときほどではないなと自分の中で勝手にマウントを取っていたが、遠く離れたアウェイだった分、正直少し辛かった。


あの時から2ヶ月ちょっと。

山口県。来てしまった。我ながら驚いている。

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朝4時起きで相模原を出発して飛行機とレンタカーで往復。
この記事はその帰りの機内で書いている。

こんなご時世なので観光もそれほどする気分になれなかったため、日帰りの弾丸ツアーとなった。


まず、レノファ山口FCのサポーターは温かかった。

試合前に場内アナウンスで相模原サポーターの紹介がされると、スタジアム中から大きな拍手を送ってもらった。ゴール裏のレノファサポーターの多くが両手を大きく振って相模原サポーターを歓迎してくれた。

これだけではなかった。

相模原の緑のポンチョを着てスタグルを求めてスタジアム外周を歩いていると、すれ違う山口サポーターの方が次々に「こんにちは」「ようこそ」と声を掛けてくれた。

アウェイ側ゴール裏近くにいたボランティアスタッフの方も、勝手の分からない僕にゴミ捨て場や雨に濡れない場所などを自ら案内してくれた。本当に助かった。

ボランティアスタッフの方に、軽く声を掛けて少しお話しをすると、マスク越しでも笑顔なのが分かる弾んだ声で、レノファや山口県について話してくれた。


相模原もそうだが、これほど温かいボランティアスタッフやサポーターを抱えるクラブが、全国津々浦々にあるのかと思うと、Jリーグの意義深さを感じずにはいられなかった。

この記事を書いた時に栃木に抱いた気持ちと同様に、またレノファのホームゲームに行きたくなった。



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試合は0-1となり、SC相模原は敗戦した。

雨が落ちる中で迎えたキックオフ。
前半は新加入のブラジリアンDF、#3クンデが負傷交代を余儀なくされるなどトラブルもあったが、山口と互角か同等以上に攻め入っていた。
しかし、お互いに決定機を決めきれずにスコアレス。

相模原のここまでの戦いを踏まえると、今日は守備に持ち前の粘り強さがあり、後半はいよいよ攻撃に舵を切って積極的に仕掛けられるのではないかと期待していた。


しかし、待っていたのは厳しく辛い45分間だった。

前半終了時に一旦止んだ雨が、後半開始から数分で再び降り始めた。

最初のうちは前半と同じく一進一退の攻防だったが、中盤から流れがガラッと変わった。


雨が本降りになり、ピッチの状態がみるみる内に変わっていった。

当初は少しスリッピーな芝だったのが、あっという間に重みのあるコンディションに変わり、プレーの度に水しぶきが上がり、ボールは止まり両チームの選手も足で地面を掴むのが難しそうな様子だった。

試合時間が残り少なくなっていたことも相まって、両チームともにボールを縦にダイナミックに送り込み、頻繁に攻守が入れ替わる展開へとゲームが様変わりした。

縦に蹴り出されるようになってから、相模原の自慢の最終ラインを破られ、山口に決定機を演出される回数が増えていた。

こちらもブラジルからやってきた新加入のキーパー、#1アジェノールが威圧感を放ちながらゴールを何とか守っていた。

だが、79分。ついにその壁も破られ、痛恨の失点を喫した。


溢れないように何とかギリギリで保っていたコップが倒れ、水が一気に溢れ出してしまったような、そんな印象の失点だった。


相模原側のゴールネットが揺れた瞬間、メインスタンドと対面のゴール裏から、わっという歓声が聞こえた。

サガミスタが陣取るゴール裏とメインスタンドの間でレノファの選手たちが抱き合って喜んでいる様を呆然と見ていた。

レノファサポーターの大きなドラムの音がより一層大きくなり、それに合わせて叩かれる拍手に圧倒されそうだった。


相模原が山口のゴールに迫れずに時間だけが経過する。

レノファサポーターの囃し立てる拍手がさらに大きくなってくる。


気が付けば、維新みらいふスタジアムは土砂降りの雨になっていた。

大きな雨粒が、メインスタンド上の広い屋根に当たって音を立てていた。
屋根が打ち鳴らす雨音すら、レノファを後押しする拍手のように聞こえて、これがアウェイなのかと痛感した。


相模原はその後も攻撃を阻まれ続け、得点を奪うことができず敗戦した。


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試合後、疲れと無念さが滲み出ていた選手・スタッフがゴール裏まで挨拶に来てくれた。

相模原のゴール裏には、20人弱の相模原サポーターがいた。

それに対して、整列をして挨拶をしたSC相模原の面々は25人程度だった。

正直、早起きして移動して雨に打たれて、負け試合を見てちょっと疲れていた。

けれど、整列して挨拶をしてくれた彼等にまた心打たれた。


ずぶ濡れになりながら戦っていた選手やスタッフ達に少しでも敬意を伝えたくて、被っていたポンチョのフードを外した。

数秒で頭がずぶ濡れになった。


せっかく山口まで来たのだから、チームと同じ気持ちになりたくなった。

昨季、SC相模原は自らを「一番諦めの悪い男たち」と称してJ3リーグを戦い抜き、ギリギリで最終節逆転J2昇格を果たしたそうだ。

それを思えば、あのずぶ濡れで挨拶した選手たちには、疲れや無念さ以外の感情が宿っていることは明らかだった。



レノファ山口の勝利を称える「山口一番」が大音量で流れる中、みらいふスタジアムを後にした。

駐車場に止めていたレンタカーまでの道すがら、悔しさに押し潰されそうになりながらも、きっと相模原は悔しさを糧に変えてくれると信じている自分がいた。

きっと、挨拶に来た選手・スタッフ達に感化されたのだと思う。


「まだまだこれから」




2021年のJ2リーグは三分の一を消化したらしい。

相模原は現在、22位から19位までがJ3に降格する今季のレギュレーションの中で、21位。
他クラブの結果次第では、今節終了時に最下位に転落する可能性も出てきた。

けれど、僕は諦めの悪いSC相模原を信じたい。


僕は今、SC相模原という、一番諦めの悪いクラブを応援している。

4時起き。日帰り飛行機往復。土砂降り。
それが何だと言うんだ。

事情の許す限り、何度でもやってやろうじゃないか。


土砂降りの雨で濡れた髪は、思っていたよりすぐに乾いた。



サッカーを見始めて数ヶ月、僕はまだ戦術もよく分かっていなければ、何にも染まっていないと思う。

生まれた雛鳥が一番最初に視界に入ったものを親だと認識するという話があるが、僕にとってそれはSC相模原に違いない。

諦めの悪いクラブを応援するようになったのだから、当然僕も諦めが悪くなるだろう。

いや、むしろそうなりたい。



日帰り往復、惨敗、土砂降り、全て上等。

これから先、どれだけ辛いことや悔しいことがあっても、今日覚えた諦めの悪さだけは絶対に忘れない。

僕は相模原が好きだから。

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