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サッカード素人の相模原市民が、5ヶ月ぶりのホーム勝利にJ2残留への希望を見出した話。

8月14日、J2リーグ第25節。
SC相模原 対 ヴァンフォーレ甲府。

J1昇格を目指し、今季J2で上位を走る甲府を迎えての一戦。
思い出されるのは、春のアウェイ・JITリサイクルインクスタジアムでの、屈辱にまみれた敗戦。


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4月21日、SC相模原はヴァンフォーレ甲府に、文字通り手も足も出ず、完敗を喫した。

試合開始早々に流れるような甲府の攻撃に翻弄され2つの失点を許すと、試合終了までは攻撃に転じることはおろか、ボールを奪うことすらままならない状況で、残酷に90分が過ぎていった。

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携帯のフォルダを見直したが、この試合だけはスコアボードの写真が無かった。
きっと、悔しさのあまり写真を撮ることを忘れてスタジアムを出たのだと思う。

それくらい、あまりに鮮烈な敗戦だった。


時は流れ8月、あの頃はサッカーを見始めて2ヶ月だった自分も、今やサッカー観戦歴半年のド素人にマイナーチェンジしつつある。

少しずつ、サッカーというスポーツが分かってきたような感覚があるが、まだまだ深淵の入り口を覗き込んでいる程度なのだと思う。
けれど、その自分でも、ヴァンフォーレ甲府が強敵なのは十分に理解していた。

しかし、J2最下位をひた走るSC相模原も、残留に向けて何としても1つでも多くの勝ち点を積みたい、そんなマッチアップだった。




相模原ギオンスタジアムは大雨だった。

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雨足の強い時には、対角線上のピッチが真っ白になって見えないなど、まさしく大雨警報発令中の様相を呈していた。

サッカーを見始めて半年、もうこの程度の荒天では動じなくなった。
大雨・強風・嵐、雷による中断、ホームでもアウェイでも色々な天候を経験した。

相模原が今季唯一のホームで勝利をあげた第4節大宮戦も、思い返せばこんな大変な雨の中行われた試合だった。


試合は開始から10分ほど経った頃、ボランチの#15川上のミドルシュートでの先制ゴールにより、華々しく幕を開けた。

なお、このゴールはSC相模原にとって、ホーム・相模原ギオンスタジアムでは5月8日以来、およそ3ヶ月ぶりの得点となった。

相模原に、沸き立つスタンドが帰ってきた。


だが、それも束の間の前半22分、甲府ウィリアン・リラが相模原陣内でクロスを鮮やかに足元に留めると、目にも止まらぬ速さでシュートを打ち込み、あっという間に同点に追いついた。


その後は一進一退の攻防が続いた。
相模原では、共に新戦力の#26兒玉の飛び出しや#38成岡のパスワークが光った。

高木琢也監督の、ボールを収めてからゴールへ結ぶまでの起承転結の流れを描くフットボール然としたスタイルが、徐々に形になりつつある。

エンドが変わった55分、ついにそれがピッチで表現された。

高い位置で#38成岡が甲府のパスをインターセプトすると、#38成岡-#26兒玉-#36澤上と瞬く間にパスを回し流れるようにペナルティエリアへと進入すると、ポストプレーで粘り強くボールに食らいついた澤上が甲府のファウルを誘い、PKを獲得した。

キッカーは押しも押されぬベテラン、#4藤本。

ゆったりとした助走から、ペースを上げることなく、ボールを蹴る前に甲府GKを誘い出し、鮮やかにこれを沈めた。渋く光る熟練の技だった。

ゴールを決めた藤本は、すぐにメインスタンドの相模原サポーターに向けて手を振り、サポーターの歓喜に応えてくれた。

プレーから振る舞いまで、本物の一流選手の姿だった。


そこからの相模原は、防戦一方の展開を強いられた。

勝ち越してから試合が終わるまでの40分弱が、本当に長く感じられた。
ウィリアン・リラを筆頭に、強力な甲府攻撃陣のシュートが嵐のように降り注いだ。

それでも、ハードワークを貫き常にスペースを突こうとする甲府について行った守備陣、ボールを保持したときの攻める姿勢、そして何よりベテランGK#21竹重のクレバーな試合時間のコントロールが、甲府の得点を許さなかった。


後半アディショナルタイムの示されていた4分が過ぎた。
相模原陣内からボールが出たのを見て、勝利を確信して多くの相模原サポーターが立ち上がった。

長い笛が鳴った。


ドラムのリズムに合わせてゴール裏のサガミスタが飛び跳ね、5ヶ月前のJ2初勝利の試合後のように、長い長い拍手が相模原の選手・スタッフ達に送られていた。

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4ヶ月前、手も足も出なかったヴァンフォーレ甲府に勝つことができた。


5ヶ月ぶりのホーム勝利。
思い返せば、辛いことや悲しいことも多かった。

リーグ戦3ヶ月勝ちなしの期間が続いた。
エースストライカー#10ホムロが、家庭の事情により退団・帰国した。
5月末には、成績不振により三浦文丈前監督が解任された。

6月からは高木琢也監督が就任し、毎週のように新加入選手が発表され、計8人の大量補強を敢行した。
一方で、昨季クラブ初のJ2昇格を後押しした立役者#27和田のJ3・いわてグルージャ盛岡への期限付き移籍が発表された。


多くの出会いと別れがあった。


カテゴリを上げ、クラブを大きくすることは、自分には想像もつかないくらい大変なことなのだと思う。

それでも、SC相模原をさらにこの街に根付かせるため、フロントはもちろんクラブが総力を上げてJ2に残留しようと力を尽くしていることは分かる。



前節の栃木戦、そして今節の甲府戦は、市内に住む多くの親子を招待してのホームゲームとなった。

スタンドからピッチを見つめる子どもたちは、皆楽しそうな顔をしていた。

自分が相模原で育ったときには想像もできなかった光景で、羨ましさを抱いた。


13年前、この街に灯ったSC相模原という火をずっと皆で囲み続けられるよう、もっと多くの人と囲めるよう、J2リーグに食らいつくクラブを、心の底から応援したい。

この街の活気が、一つになれる景色が、いつまでも続くように。

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