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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)あらすじと第一章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

あらすじ
 主人公は刑事の夢を追う神山真一と生き霊の刑事山神一真の二人で一人の笑いあり、驚きあり、裏切りあり、そして執念の捜査により解決した物語である。
 山神が生き霊になったのは、元旦の日に交通事故に会い寝たきりになったためであるが、その事故の交通整理をしていた神山が入院先の山神を見舞いに行ったのがきっかけで、神山に憑依したことから始まる。
 実はその事故は仕組まれたものであることを突き止めた山神は、神山とバディを組むことにした。しかし平の巡査には捜査が許されない為、刑事への道標を示しながら山神が追う事件の真相へ迫る痛快ストーリーである。

第一章 バディとの出会い
元旦 午前1時 天空神社前

 
 神山真一(カミヤマ シンイチ)は二十九歳。昨年の昇進試験でやっとのことで巡査部長に昇格した。夢は刑事になることだが、刑事の夢はまだまだ先のようだ。というのも今日は元旦の天空神社前で初詣の交通整理だ。
 
 これも重要には違いはないのだが、刑事への道が見えないでいる。彼には決定的な欠点が一つある。逮捕術に自信がない。警察学校で武道は習ったが強くなったとは到底言えない。

 まあそれはいいとして、今は神社前の道路に信号がない為、交差点の真ん中に立って誘導している。普段は人通りがさほど無い為一旦停止の表示で十分だが、今日は参拝客が多く、流れが途切れない為に車が通れない。だから車と人との流れを均等にして車を通過させている。

 すると、待てという動作をしている道から猛スピードで迫るトラックがあった。咄嗟(とっさ)に警笛を鳴らし、ライトで制止を促したが止まる気配が無かった。歩行者は驚いて両端に逃げていった。しかし右折車を既に交差点中央まで誘導していた。一瞬の出来事であった。

 右折車の右ボディに正面から当たったのだが、当てられた車は道路から押し出され、左側歩道との境界ブロックを乗り越えて約1メートル下の畑の中に押し出された。

 通行人には被害がなかったが、かなりひどい事故だった。あとで調べると寝不足による居眠り運転でとのことだ。

 神山は無線で救急車と応援を要請したあと畑まで降りて行った。降りると車はくの字になって横たわっていた。右ドアは開かなかった。左側は下敷きになっていたため、まず後ろに乗っていた女性を救うために、後部ガラスのひび割れた穴に警棒を突っ込み、破壊して助け出した。参拝客が何人か降りてきて上まで引き上げてくれた。

 次にフロントガラスを同じように割ると、運転手のご主人が「妻から助けて欲しい。」と言った。しかし「下敷きになっている奥さんからは助けられない。」と話し、ご主人から助けた。

 その後奥さんを引っ張り出そうとしたが、足が食い込んでいるのか、引っ張り出すことが出来なかった。20分ぐらいしてレスキュー隊が到着した。重機を使って救い出したが、息は既になく脈も無かったが、救急車で近くの救急病院に運んだ。しかし、救急車の中で死亡が確認された。クラッシュ症候群だった。悲惨な事故ではあったがご主人と娘さんが助かっただけでも良かった。
 
 後日事故係の話では、ご主人は二週間経っても目を覚さないそうだ。
 事故に遭われた方は山神一真(ヤマガミ カズマ)五十二歳。県警本部の刑事で警部である。名前を聞くと神山真一の反対読みのような名前であった。神山は他人事のように思えず、非番の明日に見舞いに行くことにした。

救急病院
 
 次の日の午後、神山は救急病院を訪れ、受付で事故を処理した警察官ですと身分を証し、お見舞いをしたいと無理を言い、山神の病室を聞いて五階に上がった。エレベーターを降りると右へ進み、すぐに左に曲がり508号室の個室まで行った。「失礼します。」と声をかけてドアを引くと窓に佇む男性が見えた。

 間違えたと思いお詫びした後ドアを閉めた。今はプライバシーのことがあり、同意しなければ名札に名前を書かないことから、スタッフステーションに尋ねることにした。

 しかし、山神の名札が出ていた。山神一真の名前であった。神山はどういうことだと思い、もう一度ソロっとドアを開けた。やはり窓の外を見て佇んでいる。寝たきりと聞いていたと思っていたら、振り向いて神山を見た。驚いてドアから手が離れ閉まってしまった。

 すると後ろから「一真に御用でしょうか。」と声がした。それは山神の母親であった。神山真一と名乗り身分や事故後救出などを行った警察官と伝えると、お礼をしていた。「奥さんは助かりませんでしたが、ご主人はお元気になられて良かったですね。」と言うと、不思議そうな顔をしていた。

 そして意識が戻ったと思った母親は喜びの声を上げたので、神山は「先ほどから窓の外を見られています。」と話した。驚いてドアを開けるとそこにはベッドに横たわる山神がいるだけであった。神山はなにかの見間違いだったのかと頭が爆発しそうになった。

 母親はがっかりした様子で佇んでいた。「見間違いですね。」と呟いたあと、飲み物でも買ってくると病室を出て行った。見送ったあと振り向くと、大きな声で叫んだ。

 そこにはベッドに座った山神がいた。やっぱり元気になったと思い、母親をびっくりさせるために寝たふりをしていたと思った。ニコッとしていたが、後ろを見ろと言うように神山の後方を指差した。そのとおり後ろを見ると母親が神山の大声で戻ってきていたのだ。

「あなた、誰と話しているのですか。」と言われたので「山神さんですよ。」とニコニコしながら答えた。

「何を仰っているんですか。」と聞かれた。

 振り向いて山神を見ると、ベッドに横たわっていた。
「山神さん。お母さんをびっくりさせるのは、そのぐらいになさったほうがいいですよ。」

「どういうつもりか知りませんが、これ以上家族を苦しめないで下さい。」

 お母さんが泣き崩れたあと背中から声がした。
[おい、若造。何の因果か分からんが、お前にしか見えないみたいだ。まだ、死んではいないようだから幽霊ではない。
 まあいいや、母親がパニクっているから取り敢えず今日のところは帰れ。明日午前中に事故の詳細が分かるものを持って来てくれ。明日まで非番だろう。]

 神山は何が何だか分からず、母親に「すみません、すみません。」と繰り返し言いながら病室を出ていった。

 病院を出た神山は自問自答していた。
(いったい何だ、今のは。夢でも見ているのか。それとも・・。)

 半信半疑なまま家路についた。
 
 玄関を開けると殺風景な部屋が待っていた。1LDKの小さな部屋だ。ベッド一つがあるだけで何も置けないぐらいに狭い部屋。テレビは足元に小さなテーブルを置きその上に置いてあった。
  
 神山は取り敢えず、明日は行くかどうかを決めあぐねていた。
 落ち着くとコンビニで買って来たお弁当で晩御飯をすませた。しばらくテレビを見ていると、気疲れかいつの間にかベッドで寝てしまっていた。

第二章:https://note.com/glossy_human6092/n/nb076907d2392

第三章:https://note.com/glossy_human6092/n/n562dbf6d7247

第四章:https://note.com/glossy_human6092/n/n266f6df2447b

第五章:https://note.com/glossy_human6092/n/n23b0235c474f

第六章:https://note.com/glossy_human6092/n/n9abcc6d95a57

第七章:https://note.com/glossy_human6092/n/n4a2baadf625f

第八章:https://note.com/glossy_human6092/n/nb889da42767d

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