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「暗黒面の寓話・#26:安良仁と呪法の灯壺」

(Sub:善良な魔人なんていない、、、)

僕の名前は、安良・仁(ヒトシ)、20歳だ。
実は3か月前、実家から放り出されてしまい、いまは “ネカフェ“ を転々としながら生活している。
こういう生活も悪くはないが、所持金が心もとなくなってきたのでそろそろ何とかしなければならない。

僕は仕方なく、ネットを検索して楽して稼げるバイトを探すことにした。
だが、そんな都合のいいバイトがそうそう見つかるはずもなく、しぶしぶ ”デンワのカケ子” でもやろうかと思ったときに “イイやつ” を見つけた。

それは、人の代理で山に登り 、”ある場所” から指示されたモノを回収してくるという内容だった。
たったそれだけなのに日当10万円という破格の報酬。
僕は直ぐにそこに連絡をして、翌日、そのバイトをすることになった。

翌日、指定された場所で待っていると、黒いハイエースが迎えに来た。
車には若いヤンキー風の運転手と40歳くらいのいかついオッサンが乗っていた。
いかにもその方面のひとらしい雰囲気に少しビビッたけれど、オッサンが予想外に気さくに話しかけてくれたのと、前金で5万円くれるというのでその場で5万をもらって車に乗ることにした。

移動中の車の中でオッサンが今回の仕事について簡単に説明をしてくれた。
これはとある旧家の祭事ごとで、山中の社に祭ったモノを数十年単位で場所を移し替えるのだという。
本来はその役割の者がいたのだが、年をとって足が悪くなり山に入れなくなったので、僕がその代理をするのだという。

因みにオッサンは僕が回収したモノを持って、何処か遠くの別の山へ届けるそうだ。
そして祭事の仕来りで、回収する人と運ぶ人は別々の人間がやらなければいけないとのことだった。
”だったら、運転手の兄ちゃんでもいいじゃね!?”、と思ったが、バイト代を貰えなくなると困るので、黙っていることにした。

そこから車で2時間ほど走ってかなり山奥の岩山に辿り着いた。
そこで車を降りて、さらに一時間ほど急な山道を登ると山中に岩屋(洞窟)があった。

岩屋の入り口には古びた黒い鳥居が立っており、その周りには朽ちた卒塔婆のようなものがいくつもあった。

僕は一目見て “ヤバイ場所” だと直感した。
僕が立ちすくんでいると、先ほどまでとは別人のような怖い顔でオッサンが命令してきた。

「この穴の奥にある祠から灯壺をとってこい」

「えぇ、このなかに入るんですか?」、「ココなんかヤバクないですか?」、

僕がビビッて聞き返すとオッサンは、懐から2つの封筒と拳銃(!)を取り出した。

僕は拳銃を見て目が丸くなった。

“やっぱり、やばい人だったんだ”、 “やばい仕事に巻き込まれたんだ”

「ほれっ」、

オッサンは片手で拳銃を持ち、もう片方で2つの封筒を差し出してきた。

僕は動揺しながらもそれを受け取り、オッサンに促されて中を改めた。
1つの封筒には5万円の現金が入っており、もう一つには黄色っぽい油紙に濃い朱色で複雑な模様と文字が掛かれた “お札“ が入っていた。

「その護符を持ってりゃ大丈夫だから、行ってこい」、 

オッサンは拳銃の先で岩屋の方を指示してきた。

「えっと、」、 「やっぱ、やめちゃダメすか!?、」、
行きたくなかった僕はそこでゴネた。

《ドォーン》、 オッサンが空に向けて拳銃を発砲した。

「行かねえなら、殺してから供物として穴に放り込む」
「生きて自分で入るか、死んで放り込まれるか、好きにしろ」

オッサンは真顔だった。 
運転手の若い兄ちゃんも無表情に僕を睨んでいる。
逃げられないと観念した僕はしかたなく岩屋に入ることにした。

黒い鳥居をくぐると直ぐに “キィーん” と耳鳴りがしだした。
更に奥に進むと真っ暗で何も見えなくなってくる。
携帯を取り出してその明かりを頼りに進んでゆく。因みに携帯は圏外だ。

そうして辿り着いた岩屋の奥には怪しい光景がひろがっていた。
そこには黒い小さな祠があり、それを取り囲むように6体の仏像が配置されていた。
6体の仏像は全て中心にある祠の方を向いている。
不気味だったのは、祠の方を向いた6体の仏像の顔がみな黒く焼けただれていたことだ。

僕の恐怖心が最高潮に達しようとしていた時、岩屋の外からオッサンの声がした。

「護符は長くはもたねえ!」、 「さっさと灯壺を取ってこい」

先ほどからする耳鳴りが酷くなってきて、頭も痛くなってきた。
僕は安易にこの怪しいバイトを引き受けたことを後悔した。
きっと、いうとおりにしても、モノを渡したらその後で殺されるのだろう。

“だったら、せめて外のやつらも酷い目に合わせてやりたい“

そう思ったとき、フッっと耳鳴りと頭痛が消えた。

《お前の望みを叶えてやろうか!?》

頭の中に《声》が響いてきた。

《壺の外に出してくれたら、お前の望みを叶えてやろう》

僕はもう自暴自棄になりかけていた。

“何をすればいい?”

《声》は、“祠の中の灯壺を取りだしてソレを3回撫でろ”、という。

僕は《声》のいうままに祠を開けた。
祠の中には真っ黒な鉄の灯壺があった。

僕はその灯壺を手に取って、すばやく3回その側面を擦った。

とたんに、僕は激しく吐血した。
そして僕が吐き出した大量の血飛沫が空中に渦を巻いて漂い始める。

「んンあぁあっ」

くぐもった唸りと同時に、血飛沫の中に青い肌をした鬼が現れた。

「お、鬼っ!?」、 僕が悲鳴のような声を上げると鬼がこちらを向いた。

「んんー?」、 「オマエ、まだ命が残っているのか?」
「あぁあ!」、 「護符を持っているのか」、「小賢しい」

鬼はめんどくさそうに、僕の顔を覗き込む。

「まあいい、いちおう血の契りを交わした仲だ」
「おまえの願いを叶えてやろう」

「俺の名は“邪尼(じに)“だ」、 青い肌の鬼が名乗った。
「とりあえづ、外の人間を絞めればいいんだったな!?」

僕は混乱する意識の中で鬼の問いを肯定した。

間髪いれず、数発の銃声と凄まじい悲鳴が響いてきた。
なんとなく、何が起きたのかが判った。

“ざまあみろ”、 僕は少しだけ気分がよくなった。

どうやら、この鬼は僕の願いを叶えてくれるらしい。
それなら、その力を使えば、僕は人生を大逆転できるかもしれない。
大金持ちになって、いままで僕を見下していた奴らを見返してやる。
僕は恐る恐る鬼に問いかけてみることにした。

「アンタは何でも僕の願いを叶えてくれるのか?」

すると、僕の直ぐ耳元で鬼の声がした。

「ああ、どんな願いも叶えてやる」
「オマエの躰をもらい受けて、お前の願ったことを全部 ”俺” がやってやる」

「俺の名は“邪尼(じに)“」、
「一千年の眠りから目覚めた災厄の魔人だ」


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