「暗黒面の寓話・#15:髑髏」
(Sub:ペットの問題行動は飼い主の責任、、、!?)
《 少佐!応答してください、スターリング少佐 》
インカムからのオペレーターの声で俺は目を覚ました。
身を隠していたブッシュ中で俺はゆっくりと躰を起こしながら応答する。
《 こちらT7(タンゴ・セブン)、スターリングだ 》
《 仕事は全部片付いてる 》、
《 早くヘリをよこしてくれ、風呂に入りたいんだ 》
オペレーターの感嘆と賛辞の言葉を遮って俺は迎えを催促した。
降下初日に “仕事” を全部片付けてしまった俺は、迎えを待つ2日間このジャングルのブッシュで寝て過ごしていたのだ。 体中が痒くて仕方ない。
俺は軍の特殊部隊のコマンダーだ。
階級は少佐だが、いい歳をしていまだに現役で “戦争屋” をやっている。
そんな俺は、いつも一人で敵地に降下して、一人で敵を潰して、一人で帰ってくる。
その方が効率がいいし、なにより気楽なのだ。
愛用のナイフだけで戦闘し、“力と技で相手をねじ伏せる“、 銃は殆ど使わない。
軍の仲間からは “ワンマン・アーミー“、”ひとり師団“ などと呼ばれている。
そんな俺の躰は全身が傷だらけだ。 顔にも大きな傷痕があり、その傷の下にある片目は潰れているので眼帯をしている。
服を脱げば更に見ごたえのある裂創の痕が現れる。
軍の連中はそんな俺の傷跡を褒めたたえてくれる、“戦士の証”、“戦う男の躰”、だと。
だが、実はこれらの傷で戦場で受けたモノは一つもない。
俺はそんなドジはしない。
これらの傷は、すべて俺が子供のころ飼っていたペットにやられたのだ。
ヤツの名は、“La・Skull”、 “髑髏” の異名をもつ大アライグマだ。
子供のころ、山で拾った時のヤツは小さくてキュートな、只のアライグマだった。
だが、成長するにつれてヤツは段々とヤンチャになっていき、燐家の畑を荒らしたり、鶏小屋の卵を盗んだりと周囲に迷惑をかけるようになってしまった。
俺は仕方なくヤツを山に返すことにしたのだが、遠い山奥に放したはずなのにヤツは戻ってきてまったのだ。
何度捨てても、どんなに遠くに捨てに行っても、しばらくするとヤツは舞い戻ってきた。
そして、その度に何故か一回り大きく、強くなって戻ってきたのだ。
それから、俺とヤツの死闘の日々が始まった。
ヤツが近所の家畜を襲ったり、町の人間に怪我をさせたりするので、俺はヤツを見張り、牽制するために格闘し、時にはヤツを “抑え込む” ために必死で戦った。
そうするうちに、俺は独自の格闘術と戦闘技能を身に着けていった。
俺の戦闘力は遥かに常人を凌駕する域に達していたが、それはヤツの方も同様だった。
そして、いつしか俺とヤツは、互いに “相手を打ち負かす“ ことだけを目標に生きるようになっていった。
俺は、より高い戦闘力を求めて軍に入隊し、いろいろな戦闘技術を習得した。
奴の方は、野山を徘徊しては野生の獣と戦い、その力を高めていたようだ。
また、ヤツは年々躰が大きくなり、それにつれて背中の模様が変わっていった。
いつのころからかヤツの背中の模様が “髑髏” の形に見えるようになったのだ。
その頃から、ウィスコンシン州のネイティブ・インデアンの間である噂が囁かれるようになった。
”背中に髑髏を背負った悪魔の熊が森の主たちを狩っている”、 と。
半年ほど前、ノーザンハイランドの深い森の奥で、2頭の巨大な獣が争っているのが森林警備隊のレンジャーに目撃された。
1頭はその地域の ”主” とされていた3M級グリズリーの “レッド・クロー”、もう片方は見たこともない巨大な獣だったという。
その獣は “レッド・クロー” に劣らない巨体をしており、その背には髑髏模様があったらしい。
そして、先月、ミシシッピ川の上流で “レッド・クロー” の死骸が見つかった。 死骸には “洗われた痕跡” があったらしい。
ヤツは仕上げてきている。
俺も準備を急がなければならない。
俺にとって、密林でのゲリラとの戦いや、敵特殊部隊との戦闘などトレーニングの一部でしかない。
躰を仕上げ、感覚を研ぎ澄ますためのエクササイズなのだ。
俺は、迎えに来たヘリの中で、背負っていた一振りの剣を鞘から抜いた。
そしてその刀身を見つめながら呼吸を整える。
その剣は有名なニッポンのサムライ・ソードの1本で、“ムラサメ” という。
この剣を戦場で使ったことは一度もないが、これから俺が対峙する相手には必要だ。
「休みは終わりだ」、
俺の呟きにパイロットが声をかけてくる。
「ええ? 少佐はこれから休暇ですよね?」
「いや、」、「これから本当の闘いが始まるのさ」
俺はこれから休暇をもらって故郷に帰省するのだ。
大あらいぐま、 “La・Sukll“、 ”髑髏“ を背負った悪魔の熊、
ヤツと会うのは1年ぶりだ。
今年もお互い死力を尽くしてやり合おう! 旧友との再会が楽しみだ!
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