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パン職人の修造25 江川と修造シリーズ 背の高い挑戦者 江川Flapping to the future


「はい!みんな~!これ着て!」

その頃パンロンドでは、店の奥さんがみんなにお揃いの帽子を渡して新しいコックコートに着替えさせていた。

いつもTシャツの親方は着るのは嫌だと抵抗したが奥さんには逆らえない。

「テレビが来るからみんな張り切ってね」

「そろそろ時間なのに遅いですね」

「そうだな」

「さっき電話があって前のロケが押してて遅れるそうよ」

「今のうちに仕事片付けとこうよ」

みんなお揃いの帽子を被って仕事を片付けて待ち構えた。

杉本がワクワクして「テレビってどんなのかなあ〜」ピョンと跳ねた。

江川は「僕緊張するなあ。修造さんまだ帰ってこないの?」とガチガチになってきていた。

「ウフフ、大丈夫ですよ江川さん、リラックスしていきましょう」と藤岡が2人を見てニコニコしている。

そのうちにアシスタントディレクターが一人でやってきた。

「こんにちは、今日お世話になります。こちら本日のロケの台本ですのでお渡ししておきます」

ADは親方に台本を渡して「では後ほどよろしくお願いします」と言って去っていった。

親方は台本を開いて「なになに、、パン職人の一日。おいみんな!順番に特技を披露するみたいだぞ」

「何するんですか?」

えーと、、と全員が台本に食いついて見ている。

そして「あ、すぐあの人に連絡してあれ持ってきてもらわなくちゃ!」と親方が言った。

「ウフフ、楽しみですねこれ!」と江川がはしゃいだ。

「修造さん早く帰ってこないかなあ」


ーーー


修造はわざとノロノロ帰っていた。

「もうそろそろ撮影終わったかなあ。店に戻ったら残った仕事があったら片付けて帰ろう」


その頃。パンロンドにやっとテレビ局の四角ディレクターとさっきのAD、カメラマンと音声の人が四人でやって来た。

その後でマウンテン山田が登場した。

江川が「あ!マウンテン山田さん!」と叫んだ。

「どうも〜!こないだの撮影ではお世話になりました。今日はよろしくお願いしま〜す」

マウンテンはNNテレビのパン王座決定戦の時に審査員席に座っていたお笑い芸人だ。

「いや〜柚木社長!遅くなってすみません」四角が親方に話しかけた。

「早速撮影を始めたいと思います。まずはざっと一日の流れを社長からご説明して頂きたいと思います。マウンテン山田の質問に答えて、自由にお話し下さい」


みんなが緊張の面持ちの中、アシスタントディレクターが小型のマイクを付けていった。小さなマイクの先をコックコートの襟につけていく、そこから線を後ろに回してその先の本体は後ろからベルトに取り付けられた。

「タレントみたい」と杉本がワクワクして言った。

親方とマウンテンが2人でパン工房の入り口に立ち、カメラの方を向いた。ディレクターが無言で指を3.、2、1と指示してカメラが回り出した。

「こんにちはー!マウンテン山田の1日何やってんの?のコーナーの時間がやってまいりました〜!柚木さん!初めまして!マウンテン山田でーす!」

「よろしくお願いします」

「早速ですが、パン屋さんって早起きのイメージがありますが、朝は何時から始まりますか?」

「そうですね、朝は交代制で4時から始めています。前はもっと早かったんですが、最近は遅くなりましたね」

「どんな事をするんですか?」

「奥では仕込み、そして真ん中の大きなテーブルで分割成形、そして店側の窯の所で焼成、そのあと店で販売の流れになります」

「ところで社長はみんなから親方って呼ばれて親しまれてるらしいですね。何か由来はあるんですか?」

「ボクは昔から力持ちな事と、見た目もお相撲さんっぽいから親方ってあだ名だったんですよ」

「そうなんですね、では親方!どのぐらい力自慢か試して頂けますか?」

急にマウンテンがカメラに向かって「親方は力持ちでショー!」と言った。

後で編集して、お茶の間の視聴者にはわかりやすく画面に文字が出る事になっている。

「さあ!では親方にはこの粉袋を持ち上げて頂きましょう!」

藤岡と杉本が脚立に乗って粉袋を親方の右肩に乗せた。

「まずは右に25キロ、そしてもう片方の肩にも25キロ」

重っ!と親方は思ったが我慢して左肩にももう一つ乗っけた。

「すごーい親方!ひょっとしてもう一袋ずつ行けそうですね!」

「う、ぐ、ぐぐ、、そうですね。。」

親方は内心持てる気がしなかったが仕方ない。

もう一袋を右に!明らかにバランスが悪い。

「では左も乗せましょう!」

「う、うおーっ」と雄叫びをあげて親方が満身の力で右肩に合計50キロ、左肩に50キロ乗せた。

「うわー!凄い!親方!まだいけますね!」

「え?」

親方は声が出なくてあうあうと口を動かした後、歯を食いしばり、もう25キロずつ肩に乗せ、もし倒れて粉袋に穴が開くと勿体無いから耐えた。

「パン屋さんってこんなに力持ちなんですかあ?」とマウンテンが聞いたら周りのみんなが「んな訳ないない!」と言った。

やっと粉袋を下ろして貰って「はぁ〜っ」と床に手をついてぐったりした親方に、マウンテンが「大丈夫ですか?」と聞いた。

「気にしないで撮影を続けて下さい」と地面すれすれで四つん這いのまま言った。


つづく


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