国際機関における専門性の構築:直線的が良い?回り道が良い?

ツイッターでたまたま↓のような興味深い投稿を見つけたので、本稿でも少し考察してみたい。

要は専門性を構築するプロセスとして、特定領域で直線的に積み上げるパターン(左側)と、周辺領域も含めて多様な経験をする中で積み上がっていくパターン(右側)の2つがある、という話である。実際には右側のパターンが多いよね、というツイ主の意見には同意できる。そんな私も右側のパターンである。

一方でWHOには(他の国際機関は知らないが)左側のパターンの職員も、それなりにいる。例えば、WHO本部で働いていた頃に↓のようなキャリアを歩んできた同僚がいた。

欧米一流大学で経済学を専攻し、卒業
↪︎欧米一流大学で開発経済学の修士課程に進学し、修了
↪︎世銀のYoung Professional Programに選ばれ、勤務
↪︎欧米一流大学で医療経済学の博士課程に進学し、修了
↪︎欧米一流大学で医療経済学のポスドクとして勤務
↪︎WHO本部でHealth Economist (P3 or 4)として採用される

まぁ↑はWHO職員の中でも極端に直線的な例だと思うが、決して作り話ではない。

直線的な専門性構築の良い点は、専門性が一定の高みに達するまでの期間が短くて済むことだろう。↑図の左右で、専門性が一定の高さに達するまでに積み上げた黄色い四角(=1つ1つの経験や知識)の個数を比較すれば自明である。WHOではジェネラリストの求人は決して多くない。例えば「公衆衛生危機に関する経験年数××年以上」という求人の場合、トータルの職務経験が××年以上ある、というだけではダメである。「関連する」職務経験の必要年数を満たせないと足切りされるので、その点は左パターンが有利である。

とは言え、専門性を高めるために回り道をすることが必ずしも悪いことだとも言い切れない。国レベルで多様かつ未分化な問題に対応するには、周辺領域も含めて色々経験した方が良い。専門分野が狭すぎる人は国レベルでは扱いづらい。まぁ彼ら/彼女らは内心では国レベルで働きたいとは思っておらず、本部〜地域事務局レベルで自分の専門分野の仕事だけをしていたい、と思っているのかもしれないが。Mobilityに抵抗しているのは予々そうしたタイプの専門家だろう。

タイトルに書いておいてなんだが、どちらのプロセスがベターなのか、正直私には分からない。各人のキャリアの方向性、それに伴い本部 or 国レベルのどちらに軸足を置くかで自ずと決まるのだろう。フィールド志向の場合は右側のパターンになることが多く、専門機関の本部等で調査・研究・規範的業務を行うとなると左側のパターンになりがちである。右パターンだと対応できる求人の幅は広がりそうだが、高い専門性を要求されるポストだと左パターンの候補者に競り負けるかもしれない。一方で左パターンは専門性がハマる求人は少なそうだが、一度本部や地域事務所でfixed termのポストをゲットすれば、その後のキャリアは比較的安泰かもしれない。

もし記事の内容が役に立ったと思ったら↓ボタンをポチッとお願いします!