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国外中古建物を利用した節税スキームが封じ込まれます

2020年税制改正で、国外中古建物の不動産所得に係る損益通算の制度に特例が創設され、2021年以後の所得税から、不動産所得で損失が発生している場合には、国外中古建物の減価償却費を生じなかったものとみなされます。
そのため、高額な減価償却費を計上して損失を発生させる国外中古建物の節税スキームは封じ込められることとなりましたので、国外に建物を所有する個人は注意が必要です。

ついに来たか
国外中古不動産を利用する節税スキームは米国を中心に行われていました。いわゆる節税スキームと呼ばれる手法の中でも、かなり認知されていた方法であったため、今回の税制改正に対して「ついに来たか」という感想を持たれた方も多いのではないでしょうか。
実は、このスキームは平成27年度に会計検査院から、「今後、財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である」と問題提起されていたため、様子見の状況が続いていたのです。

会計検査院 「国外に所在する中古の建物に係る所得計算上の減価償却費について」

国外中古建物の減価償却
これまで使われていたスキームのポイントは次の2点でした。
1. 日本の税法上の中古固定資産の耐用年数
2. 海外の中古物件は、日本と比べて住宅価格に占める建物割合が高い

具体的には、日本の税法上、中古資産の耐用年数の算定に簡便報を使用することが認められています。

(1) 法定耐用年数の全部を経過した資産
    その耐用年数の20%に相当する年数
(2) 法定耐用年数の一部を経過した資産
    (耐用年数 - 経過年数)+経過年数×20%
この簡便法を使用すると、木造住宅用建物は法定耐用年数が22年のため、最短4年で償却可能となります。
さらに、住宅価格に占める建物割合が高いため、結果的に、住宅価格の大部分を4年で償却させることができます。
短期間で多くの減価償却費を計上することで不動産所得は赤字となり、給与所得などの他の所得と損益通算し、節税を図ることができるという仕組みです。

改正の内容
今回の改正で「生じなかったとみなされる減価償却費」とは、次のように区分されます。

償却費が損失額を下回る場合は、償却費の額→残りの損失額は給与所得等との損益通算可能

償却費が損失額を上回る場合は、損失額の全額

また、法定耐用年数で計上した場合や、見積法で耐用年数を計算し、次の添付書類のいずれかの使用可能期間で見積もったことを証明する書類を確定申告書に添付する場合は対象となりません。
<添付書類>
① 国外中古建物の所在国の法定耐用年数に相当する使用可能期間
② 不動産鑑定士等が見積もった使用可能期間
③ ①②が困難な場合、建物取得時の取引の相手方等が見積もった使用可能期間

法人税法との関係
この改正は所得税に関する改正です。法人は改正の対象とはなっていません。
今回の改正で、所得税における運用と売却による税率差の効果が薄まりました。
今後の海外の資産運用については、法人を使用することも検討していくことがより重要になってきたと考えられます。

 


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