見出し画像

スイーツ・ハラスメント、あるいはスイーツ・オナニーについて

7月30日(火)

同僚のスイーツ・ハラスメント、略してスイハラについて語りたい。

その同僚はとてもおいしいコーヒーを淹れてくれる、とても優しいおじさんだ。入社間もない頃から、私はそのおじさんと一緒に仕事をする日に、コーヒーとお茶菓子をごちそうになりながら一息つくのを楽しみにしていた。

しかしいつの間にか、私が行く日に用意されるお茶菓子がケーキやエクレアなどの日持ちのしないナマモノ系にシフトし始めた。「甘いもの、たくさん食べられないんですよね」とか「ウイスキー飲むようになったら生クリームが無理になっちゃって」とか「ダイエット中なんで」とやんわり断ったり、他の人がその部屋にいるときにはその人にあげたりしていた。ってか、いつも常備されているチョコやマカロンには手をつけずに煎餅ばかりばりばり食べているのだから、こちらの好みもわかっているはずなのだけれど。

今日は、閑散期で部屋に私しかいないのに、退勤直前になってからその人にホイップクリーム入りのあんぱんとホイップクリーム入りのメロンパンを差し出されて「どっちがいい?!」と訊かれて発狂するかと思った。「晩ご飯が食べられなくなっちゃうから」と断ったら「ええ〜せっかく買ってきたのに〜一緒に食べないんですか〜」みたいなことを言われた。
だから、生クリームがダメだって何度言ったらわかってくれるんだよ!! 私が毎日煎餅むさぼり食ってるの見てるんだから確実に喜ばせたいなら煎餅買ってきてくれ!! 「だって暑いし煎餅とか買う気しないじゃないですか」ってそんなん知らんわ生クリーム顔にぶつけて涼しくしてやろうか(食べ物を粗末にしてはいけない)。

あれ、もしかして「LINE一往復するとそれだけ距離が縮まったと思うクソLINE男」(by桃山商事さん)と同じように「一緒にスイーツ食べるとそれだけ距離が縮まったと思うクソスイーツ男」みたいなジャンルがあったりする・・・?

ある種の男の人の(って限定すると男がみんなそうじゃないとか男に限定するなとか言われると思うけれど敢えて書く)、「女はみんなスイーツが好き」っていう強固な思いこみはなんなんですかね。何度断っても、どんなに煎餅ばかりむさぼり食ってても、「太るの気にしてるけど、本心では甘いもの食べたくて仕方ないんでしょ」みたいにこの人の中では勝手に脳内変換されている気がする。

ここまで書いて、これって「いやがるフリしてホントは感じてるんだろ」とか思いこむ勘違い男と思考回路まったく同じじゃんって思ってそら恐ろしくなった。根深いぞスイハラ問題。

これがたとえば今話題の有名店のスイーツとか、可愛い缶に入った日持ちのする種類の洋菓子とかならまだわかるし、まあ積極的に食べたいわけじゃなくてもその気持ちがありがたいなと思う。でも、用意されているのは必ず近所のコンビニスイーツ。賞味期限だいたい今日か明日。シェアも不可能。

つい最近も、プリンの好きな彼女のためにコンビニはしごしていろんな種類のプリンを買ってきて冷蔵庫に並べておいた男がツイッター軽く炎上していたよね。なんなの、その、世界の解像度の低さは。レンズくもりすぎ。

大事な彼女ならへのプレゼントなら、有名店で予約しろとは言わないけど、せめて一番好きなプリンをリサーチしてそれ買ってこいよ。コンビニスイーツ男(括った)はみんな、「値段じゃなくて気持ちっしょ」とか「好意で買ってきてやったのに」って思っていると思うのだけど、それって結局自己満足、言うなればスイーツ・オナニーじゃん。相手を真剣に喜ばせようと思ったらもっと違うアプローチがあるだろうよ。

まあ私の場合はただの同僚だからそこまで手間かけろとは言わない。ただ、せっかく用意してくれるなら生菓子じゃなくて煎餅にしてほしいなというだけだ。

考えてみれば、日本酒好きな上司宅の手みやげにカップ酒を買っていくことはまずないはずだ。おしゃれ好きな家族の誕生日にファッションセンターしまむらの服を贈ることもないだろう。コンビニスイーツにもカップ酒にもしまむらにも罪はないってかむしろ自分でならぜんぜん買うけれど、人にあげるのは絶対違う。これはわかってもらえると思う。

だから結局のところ、この「とりあえず甘いもの食わしとけば喜ぶだろ」っていう態度って、スイーツ苦手な人のことだけでなくスイーツ大好きな人のことも舐めてるし、スイーツ自体も他の嗜好品より一段下に見ているんだよなあと気づく。ああそうか、だからこんなにもやもやしていたんだな私。

小学校三年くらいの頃、夏休みにじいちゃんばあちゃん家に行ったときのことを思い出した。夜になって近所の家の人が祭りのくじ引きの景品を持ってきて、玄関先でばあちゃんに「うちはいらないから孫来てるならあげるわ。ほら、子供は何でも喜ぶでしょ」とか言ってるのが聞こえた。子供心にバカにされた感じがして腹が立ったのを鮮明に覚えている。「子供はなんでも喜ぶからね」って十回くらい繰り返してたけどそんなわけないだろ。覗いてみたら、謎のねじ巻きのおもちゃとかよくわかんないキーホルダーとかを押しつけられて、本気で子供だってこんなもんいらねえよって感じだった。「あらあらありがとねえほらぐりこ、ちゃんとお礼言いなさいよ」とかばあちゃんに言われるまでもなく、私は「うわーいやったーおばちゃんありがとー」みたいな茶番をちゃんとやれる子供だったけれど、思えばものを粗末にしちゃいけないとか、人の好意には報いなきゃいけない的な考えは、幼少期から刷り込まれていたんだな。だからこそ今でも二回に一回は食べたくないスイーツを断りきれずに食べてしまうわけで。

大人になった私はもう知っているのだ。食べ物も頂き物ももちろん粗末にしない方がいい。だけど一番ないがしろにしちゃいけないのは、食べ物でも頂き物でもなくて自分自身だってこと。こちらの気持ちを無視して一方的に好意を押しつけてくる人は、別に私のことを大事に思ってくれているわけではないんだってこと。

だから私が好意由来のその行為をスイーツ・ハラスメントとかスイーツオナニーとか思ってしまうことに罪悪感を抱く必要なんか微塵もないのだ。自分をないがしろにする人から距離を置く勇気。スイーツ断ち宣言!

そして気づく。女子会でみんなが締めのスイーツを食べているときに、一人だけもう一杯酒頼む私に何も言わないでいてくれる友人のありがたさに。だから私も、親切や好意を押しつけず、好きな人たちの好きなものをきちんと理解できる人になれるように努力しなきゃと思うのだ。

#日記 #エッセイ #スイーツハラスメント #スイーツオナニー

日記を読んでくださってありがとうございます。サポートは文学フリマ東京で頒布する同人誌の製作(+お酒とサウナ)に使わせていただきます。