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松田青子『持続可能な魂の利用』を読んで

6月22日(月)

何の予定もなくゆったり優雅に過ごす休日。

・ブラジルのコーヒーを淹れる。

・天蓋ベッドで詩集を読む。

・使い終わったコーヒー粉を乾煎りしてポプリを自作する。

・窓の外を眺めながら雨音を聞く。

・ふらふらになるまでスクワットとヒップリフトと減量ダンスをやる。

・沼(炊飯器で作る鶏肉入り玄米粥)の亜種・マグマを錬成する。

後半二つくらい、ぜんぜん優雅でない行為が混ざっている気がするけれど、まあ気にしない。

例年この時期、下半期のしいたけ占いを読むと、今年も半分が終わることに焦り、上半期の総括をしたい気持ちになってくる。ぼちぼち今年度上半期のベスト本を決定しなければならない。自宅にいた時間が長い分、例年より多くの本に触れている(※当社比)ことだし。と思いながら読み始めたのは、数週間前に買ったきり手をつけていなかった松田青子『持続可能な魂の利用』。

これが、この上半期随一の大当たりだった。年間でもベスト3にたぶん入る。
私が最近もやもやした気持ちや憤りを抱える対象であるところの「おじさん(あるいはおじさん中心社会)」について、生きる希望を与えてくれる女同士の連帯について、あるいは女子アイドルを推すことの喜びと葛藤について。そういう、今まさにリアルタイムで私の中にある(だから日記にもよく登場する)考え事のすべてがきゅっと凝縮されて一本芯が通った形で表現されている一冊だったのだ。

某女性シンガーは「毎日がスペシャル」とうたうけれど、「毎日がレジスタンス」だというフレーズが刺さった。毎日必死で、ほっといても状況はよくならなくて、安寧になんて生きられなくて、だから抗う。声を上げる。
日本の女の子はみんな痴漢に合っている、と声を上げた女性に対して、SNSで「それは日本ではないのでは?」「本当ならなぜ被害にあったときに声をあげないのか」なんて発言する人間がうようよいることに絶望していたタイミングだったので、本当に刺さった。

私はごくたまに、普段あまり本を読まない人に本を薦める仕事をすることがあるのだけれど、『82年生まれ、キム・ジヨン』や『三つ編み』を読んで読書に目覚めた人、あるいはフェミニズムに関心を持った人に薦める次の一冊は、何がいいんだろう、と最近ずっと考えていた。古今東西のいろんな本を思い浮かべつつ、現代の日本の状況を反映していて、自分や誰かの違和感や苦しみを難解でない言葉にしてくれていて、展開がきれいごとやご都合主義でなく、読んだ人が自分は一人じゃないと希望を持てたり声を上げる勇気をもらえるような、そんな一冊がいいなと思っていた。我ながら注文が多過ぎだと思うけれど、これはまさにそんな一冊で、すばらしい本と出会えたなという気持ち。

あと、SF的な要素もあるフィクションにも関わらず、主人公の敬子がのめりこむ「笑わない」アイドルが、モデルにしたとか着想を得たとかいうレベルでなくドンピシャもろに欅坂46で、推しとして描写されるのがもろに元欅坂センターの平手友梨奈さんであることにも触れずにはいられない(作者は実際に平手さんのファンらしい)。最後まで読むと、ファンの人や当人はどう感じるかわからないけれど、私はこの小説自体が壮大な彼女(たち)へのラブレターだなと思って、その熱量と愛情に感動してしまった。大森靖子さんの「ミッドナイト清純異性交遊」を思い出すなどした。おじさんが作り上げたアイドル文化に対する批判の視線を持ったまま、彼女(たち)のレジスタンスを圧倒的に肯定する主人公が最高だし、ただ肯定し応援するだけで終わらず、推す力、信じる力が世界を変えると見せてくれて、こんなふうにフィクションに救われたのは本当に久々だった。(私が欅というか平手さんに対して、ずっと、めちゃくちゃ気になるけどどうしても推せないという葛藤を抱えていたからというのも多分ある。それに長年の推しは引退してしまったし現在の推しも卒業してしまうし)

とにかく、友人たちの感想も聞きたいのでみんなぜひ読んでほしいし、私も語り足りないので今週末28日(日)夜あたりに、懲りずに一人で第二回ツイキャスをしようと思います。この本を含め、2020年上半期に買ってよかったもの読んで良かった本を語る!(とお題をちゃんと決めておけば、前回のように好きな某芥川賞作家と結婚したいとくだ巻いたり性器の呼称を連呼したりすることもないはず)よければまた聴いてください!

#日記 #エッセイ #読書 #松田青子 #持続可能な魂の利用

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