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荻原朔太郎とバスタ新宿【日記:2023/10/07】

  特に何の用事もなかったが、初めて『バスタ新宿』の中に入ってみた。

 エスカレーターを乗り継ぎ4階へ。目の前に現れたのは新幹線や飛行機乗り場のようなロビーだった。バス乗り場というイメージには似つかわしくない、整理されたお洒落な空間。外国人観光客が多く、チケット売り場はそれなりの賑わいをみせていた。
 5分ほど、辺りを見渡し備え付けのコンビニを物色する。当たり前だが、特に興奮するほど面白いものは何もなかったので、私は行きとは違うエスカレーターに乗りその場を後にした。

 好奇心は満たされたものの、少し残念な気分だった。数百回新宿に降りたち、その度に『バスタ新宿』の名前を見ていたから、いつの間にか謎の期待が膨らんでいたのかもしれない。お上りさんが東京に対し、多大な幻想を抱くのと同じように。そして、世界は意外とどこでも大きく違わないと気づいた時のように。こんなことだったら、知らないままにしておいた方がよかったのかもしれない。普通に考えて、バスターミナルにそんな特殊なものなんかあるわけないんだから。

 買い物をして夜、家路につく。なんとなく、真っ直ぐに帰るのが癪だったので、散歩も兼ねて適当な道を右往左往。感覚に任せ、地図も見ないで歩くのは割と楽しい。次第に見覚えのある景色が増えていく。家が近い。私はGoogle Mapを見て、あえて家の裏手の普段通らない細道の方向へ回り込んでみた。何か面白い物があるんじゃないか、そう思って。

 結論から言えば、特別な物はなにもなかった。でも、楽しかった。

 隣家の外壁がこんなに高いとは知らなかったし、通りの反対側から眺める我が家はどこか高級感があるように思えた。まるで別の場所みたいに。ふと、前に読んだ、荻原朔太郎の『猫町』を思い出した。
 結局、物事の面白さとは外界ではなく、自分自身の内面的な豊かさによって決まるものなんだろう。自動スクロールを逆走することで入れる、この世の隙間の不思議な街。そんなものは現実にはないかもしれないけど、それでも視点の変更は中々に面白い違いをもたらすのだから。

 次に『バスタ新宿』に行く時は、実際にどこへ向かうバスに乗ってみよう。今回は見れなかっただけで、もしかしたら完全自動運転車とか近未来の仕組みを楽しめたりするかもしれないしね。


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