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強者と弱者とサイゼリヤ【日記:2023/08/17】

サイゼリヤで遅めの夕食を食べていたら、こんな会話が聞こえてきた。
「○○さんにフォローされたんだけど、そのファンからめっちゃリプが来ててさ……」

後ろの席に座っていた男女二人組。「俺の絵が好きらしくて~」みたいなことを言っていたので男性の方は多分どこかのイラストレーター。
そんな人が、もう一方の女性にインターネット上での人間関係、推測するに誹謗中傷に関する相談をしている様子だった。
どうやら、最近他の女性クリエイターとの交流が始まり、それきっかけであちら側のファンから異物として軽い攻撃を受けているらしい。

話を聞きながら、私は複雑な気分になる。
インターネットでの誹謗中傷と言えば、現代特有の問題の一つだ。
顔の見えない電子世界の特性を活かし、寄ってたかって誰かを攻撃する。
政治家、企業、芸能人、Youtuber、バカッターなど、その対象は様々で、炎上した人間へのアタックから嫉妬、裏切られたと勝手に感じた反転アンチまでと同じく理由も様々だ。

時には自殺者を出すこともある現代の悪徳、それが誹謗中傷であるが、個人的にはやってしまう側の気持ちも多少分かってしまう。
数字によって可視化された力を抱える成功者は、きらびやかに見えて嫉妬心の対象だ。どうせ何かあっても周りが慰めてくれるだろうし、何ならそれをネタに承認の数字を稼げるだろ?と思ってしまうような心が私も一片存在しているから。

もちろん、実際の私はそんなことはしたことないし、他の多くの人と同じように唾棄すべき醜い行為だと考えている。
なんたって美しくないから。
強者を下げるその行いは自らの精神性すらも貶める。
弱者だからだと言って、心まで弱くありたくはない。

そう思っているつもりだけど、実際に強者の余裕を見せつけられると少なからず劣等感がうずく。「まあ、俺は寛大に受け流したいけどね。その方が自分の器が広くなるし」そんなことを言う男性の頬を貼り倒したくなった。

20分ほどして、二人組は出ていった。
楽し気なその後姿を横目に見送り、私は一人まちがい探しに集中する。
お一人様のみみっちいプライドとマウント。ミラノ風ドリアとマルゲリータピザを片手にダンゴムシのように丸まって紙面に張り付く。
能力でも、友達の多さでも、年収でも、ありとあらゆる要素で負けていても”コレ”でだけは負けたくないから。

ざわついた店内には子供たちのはしゃぎ声が響く。
彼らはみんなYoutubeに夢中だ。

強者でもなく、弱者にはなりたくない灰色の男だけが、一人俯いて鏡写しの空を見ている。いつか何色かになれることを願いながら。


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