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《読書日記》【ラヴィアンローズ】村山由佳

《あらすじ》

フラワーアレンジメントの教室を開く、カリスマ主婦咲季子の生きがいは、自宅の庭でバラを育てること。そんな美しいバラたちとは対照的に、夫との関係はなんだか少し違和感がある。夫は咲季子に厳しいルールを言いつけ、精神的に追い詰めていく。ある出来事をきっかけに、坂を石が転がり落ちるように、事態は悪化していく。抱えきれない不都合が積み重なった時、物語は最悪の結末を迎える。女性にとってのバラ色の人生とは、一体どのようなものなのだろうか。

《植物を育てるという狂気》

庭仕事や植物を育てることはとても尊いことだと思うけれど、それをしている人間に、ほんのちょっとだけの狂気のようなものを感じるのは、私だけだろうか。人間でない、犬でも猫でもない、魚でもない、意志を伝える手段がそれらの生物とは異なる種類の、植物という不可思議な存在に、自分と同じ感覚や気持ちを投影し、愛でる、という行為。この物語でも、主人公の咲季子がバラに話しかけながら、それらを愛でる描写がたくさん出てくるのだが、その様子が良い意味でちょっと気持ち悪くて本当に良い!

庭のバラ園の美しさと、家庭内の夫婦問題のえげつないコントラストがたまらない…!バラたちがすごく意地悪な皮肉を言っているような気がするね。咲季子がこれだけ庭仕事に熱中するのは、もう片方(夫婦問題)がうまくいってないということに薄々気がついているからではないだろうか。つまり、庭仕事は逃避なのだ。

《自分を偽り続けてきた〝ごまかしワールド〟の中で》

今まで、首を傾げながらも、やんわり意見を言ったりはしたが、結局強く言われて“夫の言う通りなんだ”と無意識に自分に言い聞かせてきた咲季子。違和感を覚えながらも、それを認めたくない気持ち。これもごまかし。夫を愛しているから…これもごまかし。彼女はもう完全に、自分で形成した“ごまかしワールド”に囚われてしまっている。どうして抜け出さないか、といえば、楽だから、なんじゃないかと思う。

《夫婦だから、問題はふたり》

夫に強く言われたら、“そうなのかな”と思ってしまう。自分というものが消えかけている。夫もそれがわかっていて、人を選んで強く言っているのだと思う。これは女性の方も変わらなければ解決しない問題なんだなと感じる。誰が(夫が、妻が、)悪くて、どちらが被害者で、加害者で…とコロコロと変化しながら物語が展開していくが、結局どちらにも悪いところがそれぞれあり、一方的な問題ではなく、夫婦というのはふたりいるのだから、ふたりそれぞれに問題があったのだった…のだなあ。

《ラヴィアンローズ 「バラ色の人生」とは》

今までは夫に向き合っているようで、まるで向き合っていなかった咲季子。喧嘩は避けたい、怒らせたくない、言い合いは面倒くさい…。輝いて見えた恋愛も、思っていたようなものじゃなかった(なんだあ?あのアウトレット男は!)。バラ色の人生…。著者はかなり意地悪ですね(笑)男性によって得られるバラ色は、女性の人生で得られるバラ色の中の一つにしかすぎない、ということを教えられたような気持ちがする。

〇コラム〇 硝子のヒトリゴト

不倫の真っ最中…咲季子と一緒にとんでもなく悪いことをしている気分になる…。ただでさえ許されないことなのに、夫の存在と事情があるから恐ろしい想像でいっぱいになり…(当人ではないので)先が読みたくてページをめくる手が止まらない~!!(小説のよいトコロ)。
バラの香りがする物語だと思う。読んでいるとくらり…とするような。このモラハラ夫があまりにも意地悪で、咲季子に対して残酷な言葉を吐くので、途中からムカムカしてきて、何かのきっかけで咲季子に言い返されたり、言いくるめられたりして、“きゅうん・・・”と黙り込む姿が見たい!咲季子ガンバレ!って思いながら読んでいたけど、言いすぎるとこの場合、手を出してくる可能性もあるのだ…。つまり、逃げるが勝ち!悔しいかもしれないけど、そんな想い出全部捨てて、もっと自分を大切にする人生を送ってほしいと思った。悪態をつかれて当然の人間なんて、いないのだ。


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