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《読書日記》【蹴りたい背中】綿矢りさ

《あらすじ》

私はクラスのはみ出しっ子。どこにいても上手く馴染めない。じっと教室を見つめてみると、あいつもクラスののけ者だ。何を考えているのかわからない不気味な男子・にな川。ひょんなことから彼と話すようになったが、実は彼にはびっくりするような秘密があって…?意地悪すぎる好奇心、いつだって哀れなものを見るのは快感なんだ。127万部のベストセラー、芥川賞受賞作、ここに降臨!

《なぜこの物語が〝事件〟なのか知りたかった》

全体を読んで、思う。本当に19歳が書いたの?自分が弱者だったが、それよりも弱い存在を見つけて、その哀れさに安心したり、暗い快感を覚えたりする気持ちなんて、心の隠し場所に誰でもあることだ。でも、そうすることでしか癒えない部分ってあるんだよなあ…。やりたくないけどやりたくて、誰にも内緒でやってしまうことをあっけらかんと書いてしまっているこの物語は、確かに〝事件〟だ。注目すべきは、あっけらかん。さらりと、かるーいタッチであっさり塩味。でも書いてあることは見たくない事実。ギャップがすごい。

《私とにな川。〝油断し合える仲〟→見下す対象へ》

私とにな川の共通点は、友達がいない余りものであるということである。ひょんなことからなぜだか仲良くなった二人は、恥ずかしいところを見せ合える関係性。だからこそ気楽に付き合える。油断できる仲であるという、この奇妙な友情が面白い。
面白い…が、にな川にはもっと恥ずかしいことがあった
オリチャンオタク!!!
その気持ち悪さを持つにな川よりは自分はマシ、と思った。にな川を下に見た瞬間、まるで籠の中のハムスターのように見えた。愛玩動物のような意識だ。彼の背中を蹴りたくなったのは、自分の方が相手より崇高な人間だと思ったからでは?

《初めて見つけた!自分より弱くて恥ずかしい人間に、ロックオン!》

目の前の相手と自分を比較しながら成り立つのが人間関係。この人は恋人がいる/いない、結婚している/いない、幸せそうだ/そうじゃない、好かれている/嫌われている…。にな川は私が初めて見つけた自分より下に見える人間だったのだ。相手を虐げ、馬鹿にして、自分は彼より上にいるのだと思い込む快感。やっていることは、私が軽蔑しているスクールカーストが上のクラスメイトと同じ。虐げられていた側が、自分より弱い人間を見つけて、同じことをしているだけ。

《学校に、クラスに、仲間に馴染めない私》

私のような子は、良い意味で〝アホ〟になりきれないのかなあと思う。変な言い方だが、ちょっとだけ頭の回転が良すぎるのだ。周囲の様子がよく見えて、(言葉では別のことを言っていたとしても)相手が何を考えているのか、繊細に感じ取れてしまう。自分のことも同じようによく理解してるぶん、自分の気持ちをごまかしたりもできない。
彼女はそれに加えて不器用な頑なさがある。自分が邪険にされている理由を、全て他人のせいにするようなところもある。自分をごまかせる子は、周りに合わせて柔軟に変われるという良さがあるのだ。器用な子は、ごまかしても自分を失わないって知っている。不器用な子はごまかしたら自分を失うと思っている。

〇コラム〇
《勝手に評価》★★★★星4つ
綿矢りさを読むと、恥ずかしい過去を不意に思い出したときみたいに、「うわああああああ」って頭を抱えたくなりますよね(笑)

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