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【エッセイ】回転ずしについて

 回転ずしについて書こうと思う。
 まず、席に着いたらすぐに食事を始められるのが良い。せっかちな私にはぴったりである。自分で作る、ちょっぴり薄味の緑茶も好き。お湯の蛇口が席に付いているので、いつでも好きな時に熱々がおかわりできるし、何杯飲んでも誰も文句は言わない。
 ただ、この間夫と訪れた時に、パネルにたまたまノンアルコールビールの表示を見つけ、まるで何か悪だくみをするかのように二人で相談をし、すっかり誘惑に負けて注文したら、キンキンに冷えた茶色い瓶が、レーンを滑るように流れてきた。それを一口飲んだときの爽快感と、少しばかりの罪悪感は忘れられない。回転ずしでお茶以外の飲み物を飲む。わずか二、三百円だけれど、その小さな贅沢が、私の心を大きく躍らせる。夫はよく、「小さな幸せを見つけようね」と言ってくれるけれど、これこそまさにその代表なのではないかとすら思う。回転ずしでは、こんな思いがけない幸福とも出会える。すばらしい。
 回転寿司は、偶然と運命の交差する不思議な場所だ。どうしても食べたいネタは、今でこそパネルで好きな時に注文できるが(なんて便利で素敵なシステム!)、レーンに流れてくるお寿司はいつでも気まぐれ。これが回転ずしの面白いところだ。いつもは食べないネタも、流れてきたらなんだか運命の出会いのような気がして、手に取ってみたくなる。変わったネタに偶然出会ったり、夜遅くに行ったりすると、全て食べ尽くされていて、レーンががらんと寂しい、なんていうこともある。
 さて、好きなネタの話になるが、私はまず、鯛。透き通った美しい見た目と、あのもっちりとした弾力のある歯ごたえ。とても贅沢な食べ物だと思う。それから、子供の頃から好きなネタがある。それがカニサラダ軍艦。少し水っぽいマヨネーズがたっぷりと含まれた、柔らかなカニカマ(カニではない)を、酢飯とちょっとしなびた海苔と一緒に口いっぱいに頬張ると、本当に幸せな気持ちになる。
 ここで、みんな大好き、サーモンとの関係について書かなければならない。サーモンは、一、二を争うほど、私の大好きな食べ物だった。彩りもコスパも人気も、全てにおいて完璧なサーモンは、様々な料理に登場する。私はその全てを嬉々として食べた。大人になってからは、生魚だけでなく、焼いた鮭もよく食べた。フレークと粕漬が好きだった。当然、お寿司屋さんでは、サーモンばかり食べていた。とにかく、大好きだったのだ。
 だが、ある時から、食べられなくなってしまった。アレルギーになったのだ。しかし、あんなに好きだったサーモンを食べられなくなってしまって、ショックだったかというと、実はそうでもない。(決して強がりではない)。恐らく私は、すでに一生分のサーモンを食べ尽くしてしまったのだと思う。だから、レーンを流れてくる、その鮮やかなオレンジを見ても、「久しぶりに食べたいな」と思うことはあれど、未練がましく泣いたり喚いたりしない。サーモンと私は、良好な関係を築いていると言える。
 最近発見したネタに、味玉軍艦というのがあって、これは名前の通り、海苔がまかれた酢飯の上に、どーんと味付け卵がのっている、なんとも大胆なお寿司なのだが、これがとっても美味しい。とろっと半熟加減が絶妙な黄身と、お醤油の味付けと、マヨネーズ。全てがぴったり合わさった、まさに奇跡の代物なのである。
 回転ずしのあれこれについてお話してきたが、さて今日はどんなお寿司を食べようか、と、案内された席につくときのわくわくとした気持ちは、小さい頃から変わらない。その不変は、今日はここに来たから必ず美味しいものが食べられる、というすばらしく幸福な安心感を、私に与えてくれる。

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