【マーケの未来】広告運用者は3年で絶滅。強者の戦略でAIとの戦いに生き残れ。
「広告運用者は3年で絶滅」と語るのは元Googleで現在は、マーケティングxテクノロジーのコンサルティングファーム GLASS代表 山本ポール氏。その真意を聞く(本記事はGLASSグループ会社の援軍noteへの投稿の再編集版です)。
広告運用者は3年で絶滅?
―― 「広告運用者は3年で絶滅」なんて広告運用者としてはドキッとするような話なのですが、どういう意味でしょうか?
ポール:いわゆる、単純な「広告運用者」の価値は急速になくなりつつあります。3年もすれば、広告運用者が今行っている業務は、GoogleやFacebookなどの広告媒体が自動で全てやるようになるか、そうでなくても広告を「運用する」のではなく、誰でもできる初期設定を代行するだけの作業屋になるはずです。
私は数年前まで、Google日本法人で広告代理店向けの営業コンサルティングを行っていました。日本国内のトップ〜中堅まで数十以上の広告代理店の現場を見てきて感じたのは、広告運用現場の8割は単なる作業屋・オペレーションセンターと化しているということです。
広告主に言われるがままに作業を実行する、言われたらやるけど言われなければ放置。自らの役割を広告運用のみと定義して、顧客の解決したい課題は何なのか?解決方法には広告以外も含めてどのようなことが仮説として考えられるのかなど上流や広範囲のカバーすべき重要なポイントが抜け落ち、手法論になりがちです。こういう現場は本当に多いんです。
分業制という心地よい牢獄
―― 何故そういう現場が多いのでしょうか?
ポール:一言で言えば、「事業を拡大させるために分業制にしているから」です。自らも広告代理店をやってみてわかったことは、上記の状態はなるべくしてなっているんです。誰だって本質的な課題の解決をしたいし、言われたことしかやらないなんていう仕事の仕方はしたくないですよね。
ただ、本質的であったり複雑な課題に向き合い実際に現場で実行していくためには非常に高いスキルレベルが求められます。そうなると、なかなかそういった人材がマーケットにいない。結果として、組織の判断としては「業務を切り分けて分業制にする」ことでこの課題を解決します。最終的に、実務の細かいことはできないけど上流のコンサルだけはできる人、検索広告運用はできる人、SNS広告ができる人などのポジションができあがります。
これは組織としては当然の取り組みですし、ほとんどの広告運用者にとってはうれしいことかもしれません。ただ、本来分業化されていなくても本質と向き合い、実務でも課題解決を推進できる能力やポテンシャルのある人にとっては悲劇です。分業制という牢獄に閉じ込められてしまうからです。牢獄とは言いつつも、ホテルのような居心地の良い環境が整備されていて、意思があれば別の牢獄への引っ越しもできるので、将来的な課題を感じつつも、そこに居続けてしまいがちです。
―― 分業制というほど大きくない代理店やインハウスの広告担当者の場合は何故作業屋になってしまうのでしょうか?
ポール:厳しい言葉を使うと、単純に能力不足が原因です。分業化されていないのに、勝手に自分たちで運用型広告だけ、SEOだけなどと範囲を決めてしまい作業屋になっているのです。クライアントや社内からの依頼を言葉通り対応したり、いつも通りの作業だけを繰り返すことを当たり前にしていることが多いはずです。
常に「もっと良い方法があるはずだ」という意識で成果拡大であったり業務効率化を考えて、それを実行していく能力が必要ですし、その能力がないのであればその能力が培われる環境にいることが必要です。
本当にAIで広告運用者の代替になるのか?
―― 分業制の課題はあったとして3年で絶滅というのは言いすぎではないでしょうか?広告運用者が絶滅したら、GoogleなどのAIが広告出稿や成果改善するのですか?
ポール:そのとおりです。広告出稿って今や、初期設定こそちょっと面倒な部分はありますが、その後は素人でもそれなりの運用ができるようになっています。セルフサービスでの運用型広告はどんどん進化してきており、単に広告を出したいだけなら自動の設定を使えば簡単に出稿できますし、成果改善は媒体に任せれば良いんです。
そもそも、広告運用者が介在する場合は、例えば広告代理店に任せれば月額広告費100万円の場合は手数料でざっくり20%の20万円の手数料が掛かるわけです。広告費500万円なら100万円です。インハウスで運用しててもその分の人件費が掛かっていますよね。
単純にその費用以上の効果出せていますか?という話です。例えば複数の広告媒体を横断で管理したり、クリエイティブを考えたりなど広告運用者がやらないといけないことはあるだろうという意見もあると思いますが、今では広告媒体を横断で管理するツールもありますし、主要媒体であればほぼ自動で広告が出せます。Google広告では、検索広告の広告文ではGoogleが良いだろうと思ったものがサジェストされて放っておくと自動的に適用されます。放置していても勝手にある程度クリエイティブのPDCAが回る仕組みになっているです。
そういったものと比べて、広告担当者がわざわざついて成果改善を20%以上出せますかと。代理店を解約してその手数料を広告費に回す、インハウス担当者を外して人件費分を広告費に回すというのは常に大きな選択肢の1つなんです。広告のパフォーマンスの改善がほとんどできていない、報告もろくにないのであればなおさらです。
―― 初期設定や細かな入稿作業などは将来的にもしばらく広告運用担当者でないと無理ではないでしょうか?
ポール:そうですね。だったら初期設定や都度の入稿だけスポットでお願いしてそれで終わりですよね。実際副業で初期設定だけ手伝ってという話も最近多くなってきています。広告運用金額が少ないような案件であれば出稿媒体も限られ、初期設定はそもそもそんなに大変でもないです。
最近では、ECサイトであればShopify、インバウンドマーケティングであればHubSpotというように広告媒体への出稿とレポーティング機能が内蔵しているSaaSサービスも広がっているので難しいことをしようとしなければ、初期設定も簡単です。
難しいことをしようとすればもちろん広告運用担当者は必要ともいえますが、私の理解だとその難しいことをできる広告運用者はほんの一握り、1割以下しかいません。
AIとの競争戦略
―― 広告運用者は AI との競争でどうするべきなのでしょうか?
AIはどんどん進化していきますので、AIが今できているところ、これからできそうな周辺領域をやっている広告運用者は成長スピードでAIには勝てません。
AIだけではなくクラウドワーカーとも熾烈な戦い
更にいうと、大手の代理店では、コンサルタントと呼ばれる広告運用担当者とは別に地方拠点などにオペレーターと呼ばれる単純入稿作業やレポーティングを行う部署があります。そこで行われている業務は単純作業として切り出されているため、実質的にはクラウドワークスやランサーズなどのクラウドワーカーに発注されているようなものです。中小の代理店になると本当にクラウドワーカーやフリーランスのマーケターに発注したりしています。広告運用担当者は「AIとどう戦うか?」はもちろん、「AIを武器にしたオペレーター(クラウドワーカー)とどう戦うか?」も意識しておくべきです。
その上で私の答えは強者の戦略を徹底することです。イギリスのエンジニア、フレデリック・ランチェスターが第1次世界大戦の際に提唱した数理モデルにランチェスター戦略というものがあります。その中の、強者の戦略というものがあるのですが、それが当てはまると思っています。
―― AIが弱者で、広告運用者は強者なのですか?
ポール:AIは非常に強力ですが、マーケティングの現場ではAIは弱者で、広告運用者が強者と考えるべきです。まず、AIの視点に立って弱者の戦略を考えると、「局地戦」に非常に強いです。これはオペレーターやクラウドワーカーも同じです。
AIであれば、数値化されたデータをもとにした入札調整・テキストクリエイティブ更新・ターゲティングの自動展開などの局地線では人はほぼ敵いません。
オペレーターやクラウドワーカーであれば、人件費が安いので単純入稿作業や定型化されたレポーティングという局地戦では品質に差がつかないため、価格で負けます。
広域戦で勝つ
―― 局地戦に敵わないとすれば、広告運用者はどうすればよいでしょうか?
ポール:弱者の局地戦戦略に対して、強者は「広域戦」です。わざわざ弱者の局地戦戦略に合わせるというのは悪手で、領域を限定せずに広域で戦うのです。
最初の分業制にも繋がりますが、会社視点でみるとAIもオペレーターも広告運用者も同じリソースとも言えるので、広告運用担当者よりもオペレータが安ければオペレーターに仕事を任せますし、AIの方が成果が出るならAIで代替します。当たり前です。
ただ、広告運用者視点で見ればこれは恐ろしいことで、分業化している局地でAIに攻められてAIに代替されてしまうと付加価値はなくなります。ゆえに、広告運用担当者は難しいことは百も承知で広域戦を戦わなければなりません。今は難しくても戦える環境に身を置き、少しづつ戦場で実力をつけていけばよいのです。AIは局地戦はできても広域戦は全くできません。
具体的に局地戦と広域戦を比較すると、例えば下記のようなイメージです。
弊社ではこの広域戦のことを「なんでも屋」といったりしますが、会社として何でも屋であることよりも、むしろ一人一人が広域戦を戦える何でも屋であることが極めて重要です。何でも屋といっても別に全て完璧に実務をできないといけないわけではなく、いわゆるT型人材やΠ(パイ)型人材と呼ばれる幅広いジェネラリストとしての能力と1つ以上の特定領域での専門領域を持っている人材です。
AIをむしろ武器にして時代を創る
こういった人材になれれば、広告運用者であってもAI全盛の時代にむしろ活躍の場がどんどん広がっていくことは間違い有りません。AIが普及すればするほど、色々なAIの選択肢が出てくることになります。そうすると、そのAIをどう全体的な視点で本質的課題解決に活用していくのかという能力が求められます。AIをどう活用するのかはAIには任せられないのですから。
今回はたまたま広告運用者を例にしていますが、これは他のマーケティング周辺領域のSEOコンサルタント・データアナリスト・デザイナー、エンジニアでさえ近い状況にあると思っておいたほうが良いです。
マーケの未来として、我々の仕事が3年で絶滅しないように、強者の戦略でAIとの戦いに生き残り、むしろAIを武器にして新しい時代を共に創っていきましょう。
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